有限会社本宮ポーク 代表取締役 伊藤 秀樹
福島県本宮市本宮 母豚:150~160頭 取材日:2022年5月24日
今回取材をさせていただいた本宮ポークさんは、平牧三元豚の生産農場の一つです。
平牧三元豚とは、3つの品種の豚を掛け合わせた「三元交配豚」のことです。 三毛猫のような模様が特徴で、通常よりも長い約200日〜250日の期間をかけて育てられます。 現在、息子である専務取締役の徳芳さんが主に農場を任されているとのこと。息子さんだけでなく、お孫さんも幼い時から豚に触れ、一緒に出荷に行くなど養豚が日常にとけ込み、当たり前のように世話をする姿がとても魅力的でした。 今回は、4世代目までつながる養豚のくらしを少し覗かせていただきました。 ①リモナイト
こだわりはやっぱり「リモナイト」でしょう。もう20年以上も使用しているので、当たり前になってきています。リモナイトはミルクの時から、全ステージに使っています。
使おうと思ったきっかけは、自然な形に近いと感じたからです。もともと豚はミネラル補給のために砂を食べていました。また、健康な豚を育てるには小さいときに鉄を与える必要があります。それが自然に近い形で補給できるリモナイトには魅力を感じました。 出荷の時によく分かるのですが、うちの豚は毛づやが良く、肌がピンク色となっています。これも、貧血状態でない健康な豚であるからこそ分かる特徴だと思います。 ②環境への配慮
わたしたちはもともとは他の地域からきた身で、養豚業を始めた当初、周囲には牛舎はあっても豚舎はなく、周囲の方が馴れていないということもあり、臭いについて非難を受けることがありました。ところが、今では「この豚舎はなんで臭いがしないの?」と言われるようになり、リモナイトは臭い消しにもなっていると感じています。
③マンガリッツァへの挑戦
国産の三元豚で最も主流な組み合わせは、ランドレース(L)と大ヨークシャー(W)との交配で生まれた母豚(LW)に、デュロック(D)の雄豚と掛け合わせた「LWD」です。
一方で、わたしたちが育てている平牧三元豚は、ランドレース種(L)とデュロック種(D)の交配で生まれた母豚(LD)に、バークシャー種(B)を交配させた「LDB」です。 そして、今、挑戦しているのがマンガリッツァとの掛け合わせです。マンガリッツァ豚とは、ハンガリー政府が2004年に国宝に指定した希少な豚のことで、全身が羊のようなもじゃもじゃした毛で覆われています。 一般の豚肉よりも霜降り率が高く、肉の色が赤褐色で濃いため、牛肉に良く似た肉質であるといわれています。まだ始めたばかりですが、自分で食べてみてよいものができたら今後挑戦してみたいと考えています。
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近藤スワインポーク 代表取締役社長 近藤崇幸
群馬県前橋市 母豚:230頭 取材日:2022年5月25日
群馬県前橋市、市街地から赤城山に向かう県道4号線の途中にある大鳥居をくぐり、赤城南麓の豊かな自然が広がる富士見町。車を走らせていると、赤城山大鳥居に双璧する「近藤スワインポーク」の赤い看板が見えてくる。住宅内に構える店舗には前橋市のイベント等で受賞したトロフィーやパネルが飾られ、地元を代表するブランドであることがうかがえる。加工品はすべて「無添加」。その挑戦に素材(豚肉)そのものへのこだわりを感じることができる。挑戦を続ける夫婦の想いは、多くの人々の喜びを生み続けるに違いない。
①人にやさしくー「近藤スワインポーク」誕生のきっかけを教えてください! 養豚業を始めたのは父でした。私もいずれは.....と思っていましたが、大学卒業後は勉強も兼ねて飼料メーカーに就職しました。最初の赴任地は北海道小樽市でしたね。その後、父の病気がきっかけで群馬に戻り、継いだのは28歳のときでした。実際に養豚業をしていくなかで、”生産物の価値をもっと高めたい” という想いが日に日に強くなっていったんです。この想いは飼料メーカーに勤めていたときの経験も大きいかもしれません。というのも、農場独自で銘柄豚をつくって、自ら販売まで携わる方々を見ていました。結局、私たちの目的は ”豚を育てる” ことだけではなく ”美味しい豚肉をつくる” ことです。私も美味しい豚肉を自社製品として販売したいという想いが芽生えました。ちょうどその当時、近くの道の駅で精肉を販売していて、買ってくださった方々から「近藤さんのところのお肉は美味しいね」という声をいただくようになったことも後押しになりました。 ー精肉だけでなく「加工品」も販売されているんですね! 最初は精肉の販売ではなく、「加工品」の開発を始めたんです。まずは ”ウィンナー" に挑戦しました。ウィンナーは加熱調理をしてパッケージするので、保管できる冷凍庫・冷蔵庫があれば保健所の許可が必要ないんです。当時、販売していた精肉を買い戻して、加工をお願いして製品化しました。最初は知名度もないので、前橋市が認証する農産ブランドに登録したり、イベントに出店してお客さんの目の前で焼いて食べてもらうといった活動をしていました。ウィンナーの販売を始めて1~2年くらい経った頃、徐々に「お肉がほしい」という声をいただくようになったんです。それまではさまざまな理由で精肉の小売はできなかったのですが、ある食肉卸会社さんとご縁があって、精肉の販売をスタートすることができました。もともと前橋市は豚肉の生産が盛んな地域なんですが、前橋産っていう豚肉は全然なくて、群馬県産と表記されていたんです。そういった現状もあり、一緒に前橋市を盛り上げていこうという気持ちも一致してお付き合いが始まりました。そこからレストランにも卸せるようになりました。 精肉をしたいっていうのも、もともと生ハムが大好きで、うちの肉で生ハムをつくりたいという想いが根底にありました。もちろん生ハムは生なので販売には許可が必要なんです。精肉が販売できるようになったおかげで、生ハムも販売できるようになりました。製造してもらえる場所を探していたところ、これもまたご縁があって実現することができました。 ー「無添加」ということに驚きました! 子どもが生まれて、いざ離乳食を作るとなったときでした。添加物の危険性を危惧する本のなかに ”子どもに食べさせてはいけないもの” としてウィンナーが取り上げてありました。添加物は〈保存〉や〈味を均一にする〉といった点では有効利用できます。しかし、発がん性などの危険があり、体に害を与える可能性があります。その当時、妻が消化器科の看護師をしていて、大腸がんの方々をたくさん見ていました。そういったリスクを肌で感じていたので、"子どもたちが安心して食べられるものを無添加で作りたい" と夫婦で話すようになりました。そのほうが私たちも自信を持って販売できますし、付加価値にもなります。幼稚園のお母さんたちにも勧められるように、お弁当用サイズのウィンナーを作ってみたり、手に取りやすい価格設定も努力しています。最近は「BBQするから、ウィンナー買いに来たよ!」と言って、来てくださる方も増えました。 ②豚にやさしくー「無添加」ということは豚肉の品質が重要になってくると思いますが、飼料にこだわりはありますか? エサは豊富なミネラル、厳選された乳酸菌などを含んだ特製飼料です。あとは、赤城山麓の美味しい天然水を飲んでいる影響が大きいと思います。その他に、エコフィードに取り組んでいて、「ホエイ」と「アーモンド」を食べさせています。実はヨーグルトの製造過程で作られるホエイは大半が廃棄されているんですよ。群馬県内のヨーグルト工場もそのような状況でした。そこで、地元企業で有効利活用できないかとなり、豚のエサとして使うようになりました。人間と豚は生理的に似ているところがあって、人間にいいものは豚にもいいものです。最近、プロバイオティクスってよく聞きませんか?ホエイはプロバイオティクスが豊富で、おなかの調子を整え、免疫力の強化に期待できるとか..... うちでは豚が自由に飲めるように、飲水と同じような給与システムを新たに作りました。美味しいようで、豚はガブガブ飲んでいます。あと、ヨーグルトは特に女性の妊娠期にもいいって言いますよね。母豚にホエイを飲ませるようになってから繁殖成績も良くなりました。 ー「アーモンド」も初耳でした! 「アーモンド」を使い始めたのは最近です。アーモンドはビタミンやポリフェノールが豊富ですし、良質な脂質を摂取することができます。豚の場合、成長過程で動物性から植物性のエサへ徐々に切り替えていきます。例えば、生まれたばかりの子豚にとっては母乳が大切ですし、後半はとうもろこしといった植物性のエサになっていきます。アーモンドに含まれるビタミンEは脂身を美味しくしてくれるので、後半には積極的に食べさせたいですね。美味しい飼料と快適な環境で育った豚は臭みもなく、柔らかい肉質で旨味もあります。 ③環境にやさしくー積極的に「SDGs」への取り組みをされているとか 企業理念のもと、持続可能な農業への取り組みで地域社会への貢献を目指しています。例えば、農場内には太陽光発電を設置し、再生可能エネルギーである太陽の自然エネルギーを農場で発電・使用しています。豚舎の間に風通しを良くするためのスペースがあって、そこを有効活用できないかというわけです。南向きで日当たりは抜群にいいんですよ。太陽光発電によるCO2削減量は9年間で、石油換算すると101,000ℓ分にもなります。 また、先ほどもお話したように食品工場で廃棄している規格外品等で、豚の栄養として優れているものを飼料として使用し、ごみの削減量は年間650t以上です。 ー田植え体験などにも取り組まれているんですね! 農家さんの高齢化もあり、余っている田んぼや畑をどうにかできないかというのがスタートでした。ご縁があって、地元の遊園地「るなぱあく」内のおにぎり屋さんとうちのお肉がコラボさせてもらったんです。すると、今度は米から作ろうかという話になり、その時ちょうど使っていない田んぼがあったので、子どもたちを集めて食育も兼ねて田植え体験を始めました。地元の高校生や大学生も参加してくれました。 ー『冷凍自動販売機』導入でどのような変化がありましたか? この自販機は2021年11月29日(いい肉の日)に稼働し始めました。地元の新聞社やテレビ局の方にも取材していただいたおかげで、初月は想像を超える売上がありました。国道から一歩入った田舎道にあるので、まずは知ってもらうきっかけづくりができたかなと思います。 もともと自販機での販売には興味がありました。しかし、冷蔵となると精肉は数日しかもたない..... と思ってると、冷凍の自販機が出たんです。ちょうどコロナ渦でもあり、対面販売も厳しい状況だったので、即決で購入しました。冷凍販売ができるようになり廃棄ロス削減につながっています。 ー今後の展望を教えてください! これからは地元のレストランなどでもっと使っていただけたらいいなと思います。自動販売機もゆくゆくは国道沿いに設置し、多くの方々に知っていただきたいです。肉の自販機と言えばココ!というような存在にしたいですね。 |