有限会社大西海ファーム 養豚部門 場長 田口利治
長崎県西海市西海町 母豚:1300頭 取材日:2022年5月19日
長崎県の二大都市・長崎市と佐世保市の中間に位置する西海市。美しい山と海に囲まれた「大西海ファーム」は、その豊かな自然のなかに溶け込んでいる。ずらっと並んだ圧巻の豚舎から、大規模農場であることが推測できるが、コンピュータの導入によって効率的に豚の健康管理をしている。しかし一方では、人による観察は欠かさず、小さな異変も見逃さない徹底した管理が安心・安全な豚肉の生産に繋がっているのだろう。地元企業と連携したエコフィードの活用で、地元貢献・環境対策にも積極的に取り組んでいる。
①餌にはとことんこだわる餌は24時間いつでも食べられるようになっています。以前は、朝4時頃から夜中12時頃まで餌を与えていたのですが、昨年から尻尾かじりやへそ脱腸が増えてきたので原因を探ったところ、24時間自由に餌を食べられる方がいいのでは?という考えに至りました。その結果、尻尾かじりはなくなり、今では肥育豚舎でも24時間給餌に切り替えています。 また、リキッド飼料のシステムを導入しており、タンクに水と配合飼料を入れて撹拌し、豚舎に送っています。すべてコンピュータで管理しているため、一部屋に何頭いるかといった情報を入力しておくと、成長に合わせて栄養を計算し、配合や給餌量を自動で調整してくれます。 ー24時間自由に餌が食べられるということは、豚ごとに食餌量のバラつきはないのでしょうか? 子豚は群で、母豚は個体ごとに管理しています。例えば、母豚は出産の翌日から餌の量を増やしていくので、何日目が○㎏、何日目は○㎏.....といったように調整していきます。このシステムは海外製なので修理が大変で、万が一トラブルが起こったときのために部品などは常にストックしています。スマホやタブレットで家から操作ができるので、子どもを連れて関東のテーマパークに行った際も、一人PCを開いて夢の世界で現実を味わっていました(笑) また、餌を食べた量はコンピューターで記録を残しているので、システム導入前より何倍も早く異常に気付くことができるようになりました。どこか調子が悪いと、最初は餌食いが落ちてしまいます。コンピュータのデータをもとに、餌食いが落ちてきたことがわかると、必ず人の目で豚を見て原因を探っていくようにしています。肥育豚舎では、そういった異変がデータとしてより顕著に出てきます。以前、離乳のストレスが原因だと考えられた際には、ストレス軽減のためにライトミネラル(阿蘇の天然ミネラル)を使っていました。 今までのデータを蓄積しているおかげで、何日齢頃から体調が崩れるといった傾向が分析できます。予想できる場合には、予防として薬の検討や豚舎環境の見直し等の対策をしています。 さらに、約5年前から母豚でもリキッド飼料を始めました。肥育豚とは餌が全く異なるので、餌を与える時間帯や回数、いつの時間帯の餌を増やすかを変えています。与えたい餌を数回に分けて給餌するのではなく、1日に1回でも腹いっぱい食べさせるということを重要視しています。例えば、人間もおにぎりを一口食べておあずけされるとストレスが溜まってしまうのと同じように、豚もストレスを感じてしまいます。出産、授乳をして一番きつい時に少しでもストレスがないように餌で如何に満足させられるかということが大切だと思います。 ―リキッド飼料を導入することになったきっかけや苦労したことはありますか? もともと固形飼料を使っていましたが、成績も悪く、経営が厳しくなった時に固形飼料からリキッド飼料に変更しました。経営を立て直すには餌代を見直さなければならないこと、豚の習性も考えて、リキッドのほうがいいという決断になったようです。リキッドが始まってからすぐ自分が担当になり、半年間はほとんど帰れないような日々が続きました。コンピュータに表示される文字はすべて英語だったので、はじめは中学校の時に使っていた辞書を引きながら解読をしていきました。ノウハウが確立するまでは本当に大変で、特に1年目はとても苦労しました。 その他にも、リキッド飼料の配管内でイースト菌が増加してしまい、少量しか食べていないのに腹が膨れてしまうといったことが起こったり、焼酎かすやシロップを運ぶローリーを分けていなかったことが原因で運搬中に発酵が進み、糖度が落ちてしまったりとさまざまな失敗をしてきました。リキッド飼料はそのあたりが難しく、こういった失敗が起こった時にどうするか舵を取っていく人たちが必ず必要だと思います。 こうした難点はあるものの、通常であれば工場から廃棄される「焼酎かす」や「シロップ」、焼きムラ等によって販売できない「パン」を引き取って餌にしているため、環境への配慮になります。シロップによって餌の食いつきもよくなりますし、焼酎かすはアミノ酸やビタミンEを豊富に含むため、ドリップの少ない肉質になります。 ②病気やストレスにならない環境づくり コンピューターをもとに異変を察知して人が手を加えて対策をしますが、人の力では対策のしようがない場合には環境から変えるようにしています。例えば、豚舎は糞尿を下に溜め込むタイプなので、豚を出したあとに栓を抜いて糞尿を出すといった方式でした。すると、換気扇を回っているときにガスを下から上げてしまい、豚に悪影響があることに気づきました。じゃあ、それをどうしたら改善できるのかを考えることが大切です。そのときは自分たちで改善の作業をしたので、経費を抑えることもできました。 ー修繕作業なども自ら行っていらっしゃるのですか? 今年は、正月過ぎからGW終わりにかけて、肥育豚舎の柵の総入れ替えをし、金属の柵からプラスチックの柵へ切り替えました。約4か月間、ほぼ休みなしの作業だったのでとても大変でしたし、すべてのパネルをつなげていくと2,000mにもなりました!鉄が薄くなってしまった柵は豚を傷つけてしまいますし、頻繁に修理が必要だったのでスタッフも苦労していました。プラスチックへ変えたことによって、以前までの修繕作業の時間が減り、豚を観察する時間に費やせるようになりました。また、床にはすのこを敷いたことにより、浄化槽の糞尿分離がきれいになりましたし、堆肥中のアンモニアが軽減できたおかげで匂いも全く違うので、頑張ってやってよかったと思っています。 ー飼育管理に関して意識されていることはありますか? 人の都合ではなく、豚の都合で仕事をしようということです。例えば、精液の管理に関しては、できるだけ新鮮な精液を使うこと。人の都合で管理してしてしまっていた時期は、精液や豚の状態が良くなかったり、受精のタイミングが合っていないないため、やはり受胎率が良くありませんでした。しかし、そこを改善すると自然と繁殖成績も向上しました。また、防疫の観点から豚舎ごとに担当を決めていますが、十分な人員を配置し、余裕を持って働けることが大切だと思います。 ③安心・安全にお客さまのもとへ外部からの病原菌の侵入を防ぐため、農場には関係のトラックしか入れないようにしています。また、農場の入り口にはトラックごと消毒する機械があるだけでなく、人が豚舎に入る前は必ずシャワーを浴びて着替えることで病原菌を農場内に入れない対策を徹底しています。 また、私たちが育てている豚はSPF豚といい、発育に障害となる特定の疾病(五大疾病)を持たない母豚から生まれた子豚を徹底した衛生管理のもとで育てています。SPF豚を育てることによって、健康な豚が育ち、食の安心・安全へと繋がっています。 ー今後の展望を教えてください! まずは、子豚の離乳頭数12頭、1母豚当たりの年間出荷頭数26頭以上、農場全体で年間33,000頭出荷を目指します。また、新たに枝肉規格が変わるので、いかに上物率を落とさずに体重を乗せていけるか、改良を続けていきたいと思います。
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