株式会社 井上ピッグファーム 代表取締役 井上博幸
福岡県糸島市 母豚:520頭 取材日:2022年6月16日
①飼料と環境を整えるー早速ですが、どのような飼料を使われていますか? 特徴としては、安全な非遺伝子組み換え(Non-GMO)飼料を使用しています。主な飼料である「米」は、オレイン酸を増やす作用があり、調理中に出るアクを減少させます。アクが多いと臭みが出て料理の味に大きく影響しますよね。しかし、米を飼料として使うには一つ問題がありました。実は、豚は米を吸収することができないんです。 ーそうなんですか!?どうされたのでしょうか? 米を熱処理することで吸収率を上げました。熱処理のおかげで吸収率はほぼ100%になります。だからといって、たくさん食べさせたら良いというわけでもなく、米の割合が多すぎると肉色が薄くなってしまいます。もちろん見た目は重要で、買うときはきれいなピンク色を選びたくなりますよね。ちなみに、肉色が濃い場合は動物性たんぱく質の影響が考えられます。 ー動物性たんぱく質….. どういったものがあるのでしょうか? やはり成長させるためには動物性たんぱく質が必要で、飼料中には魚粉が入っています。臭みが出てしまうので使っていない養豚場も多いのですが、白身魚だと臭みがなく、肉質に良い影響を与えます。 ー飼料以外に気を使っていらっしゃることはありますか? 豚舎は常に綺麗に、豚が過ごしやすい環境をつくっています。例えば、温度管理として簡易パド(冷風扇)を使用し、内気は外へ、外気は水を通して中へ入れるようにしています。そのおかげで、豚舎内はある一定の温度を保つことができます。夏場は外にいるより豚舎内の方が涼しく、豚の食欲が落ちることはありません。 ②気づきを伝えるー井上さんのルーティンを教えてください! 朝は必ず2時間かけて農場内の見回りを行い、併せて分娩舎の餌やりをします。農場内を1周すると約3㎞程になります。小学生の頃から豚に餌をやってから学校へ行くのが習慣でした。学校から帰ってきても豚舎や直行してましたね。餌やりや糞取りが本当に楽しみだったんです。もちろん夕方も朝同様に見回りをして帰るようにしています。 ー2時間ですか!?どのようなことを意識されているのでしょうか? 豚の様子や豚舎内の環境を観察するのはもちろんですが、気づいたことは必ず従業員に伝えるようにしています。それを毎日繰り返すことで、従業員も予測がつくようになります。単なる作業ではなく、応用が利くようなると言うんですかね。安心して任せられる従業員がたくさんいます。 ③糸島の養豚を守るー今後の展望を教えてください! 42年前に現在の場所に農場を移転しました。現在、糸島市には養豚農家が7件あります。また、うちの農場には14名の従業員います。これらを守ることが私の役割だと思います。彼らを幸せにするために頑張っていきます。
0 コメント
唐津ピッグファーム 代表 野口 孝弘
佐賀県唐津市重河内 母豚:300頭 取材日:2022 年6月9日
―「唐津ピッグファーム」誕生のきっかけを教えてください。 子どもの時から養豚農家を継ぐことは決められていました。4、5年でもいいから一般企業の経験をさせてほしいと親父にお願いしたこともありましたが、当時全額交通費などを出してくれた就職試験を受けに行くことさえも全て許されませんでした。 県の畜産担当職員とのつながりができるという理由で、農業大学校への進学を勧められ、その1年後家業に就くようになりました。 初めのころはやる気がなく、ほぼ毎日釣りばかりしていたことを覚えています。当時は、面白くなかったですね。このような日々が続いて、ある日、農場移転の可能性が出てきた時に、このまま続けるかこれを機に辞めるかという話になり、それから本気になっていきました。 —初めはやる気がなかったとのことですが、楽しさや面白みを感じるようになったことはありますか? ずっとこれまで「楽しい」と感じたことは一度もありません。 26歳ぐらいの時にお金をたくさん借り、当時は必ず儲かると思っていましたが、その1年後暴落して借金が返せなくなってしまいました。そういった状況を繰り返しているうちに、親父に「どこか別のところに勤めていいぞ」と言われたのです。正直、今更…という気持ちでした。辞めても自分には何も残らないと考え、それからすべての業務を父親から継ぎ、自分の力でやってみてつぶれるなら踏ん切りがつくと思ってやり始めました。 ①お地蔵様には頭を下げる
—苦しい時期からどのように乗り越えましたか?
父から経営を代わってみて、1番悪かったのは借金の金利でした。いろいろな人に相談し、教えてもらって交渉していくことで、改善してきました。昔は、餌なんて決められた値段しかないと考えていましたが、餌の値段を交渉していくことも仕事なんだと思いました。 それから、グリーンコープさんと出会って固定の値段で買ってくれることになり、10年ぐらいで返済が終わりました。 今考えると運が良かったとしか言えません。どんな努力をされたんですかと聞かれることが多いのですが、自分は努力はしていないと思います。 人生は運だと思っていて、どんなに努力しても波に乗れないとうまくはいきません。自分はこれまでリズムがよかっただけなのです。 ただ、車に乗っていてもお地蔵さんを見かけたら頭をさげるようにはしていますよ。 ―日頃大切にしていることはありますか? 最初に思ったことだけ信じるようにしています。迷ったとき、人に相談しても自分と違う意見だった場合は最初に思った自分の意見を採用します(笑)。 よく、神社で神様に何のお願いをしたかという話をする人がいますが、神様はお礼をするところでお願いや決断をしてもらうところではありません。自分で最初に感じた直感を信じて決断し、神様には道を踏み外さないように見守ってもらっています。 ―挑戦してこれは成功だったなと思うことはありましたか? これまで挑戦してきたすべてが当たってきました。 グリーンコープに入った時も、最初のころは組合員さんに向けてどういう買い方をしているかなどを説明しないといけませんでした。自分は人見知りなので、最初は窒息死するぐらい嫌だったのですが、1年ぐらい続けると慣れてきました。そういった挑戦をいろいろとやって今があると思います。 ②繋がりに感謝
人とのつながりが絶対に大事だと思います。子どものころ、親からお前はここを継ぐんだと頭は抑えられていましたが、横のつながりは自由でした。たくさんいい人に出会えたので、そういう面では感謝しています。
—これからの農業にどのようなことが必要でしょうか? 例えば今20歳だとしたら、「一緒にやっていこうや」というチームの形で、ネットなどを活用しながら楽しそうにやっていくと、これから成功して伸びていくと思います。 昔のような、社長だけが儲かるような会社でなく、これからは同じ志を持ったチームでやっていくことが求められるのだろうと考えています。 自分は、やる気がある人がいればいつでも唐津ピッグファームを譲るつもりです。正直、自分の代で辞めるのはもったいないですしね。 —同じチームである紅会のメンバーとのエピソードを教えてください! 同じ紅会の井上さんに餌や環境の事などを全部教えてもらいました。井上さんは、よく勉強していて本当に頭がよく、知識が豊富です。栄養学について学んだのも彼からで、それには感謝しています。餌屋さん等に、栄養について少し話をするとびっくりされます。配合飼料を買っているので、ある程度の栄養バランスは整っていると思いますが、栄養学を少し知っていることで、餌屋さんも正しい話をせざるを得ないので、それはよかったと思います。 また、今の組織に出会ってない時に、畜産メーカー界隈で、自分たちの噂が広がっていたようです。話を聞いたときに、最初は「誰だそれは」という感じでしたが、数年後には同じ会のグループになっていて、自分にとってそれは本当にうれしいことですし、縁を感じます。 実は、紅会には他のメンバーより後から入って、初めの頃とても緊張していました。何も話せないほど緊張していた時に、井上さんが優しく声をかけてくれたことが今でも忘れられません。今では、「先輩を立てろ」と怒られるほどの仲になっています。 ③養豚業ではなく豚飼いになれ
―農場を拡大されてきたとのことですが、どんな思いでしたか?
それは「えいやー」です。勢いとイメージでやってきました。かっこよくしたかったのです。子どもの頃、親父がボロボロの車で豚を出荷していき、その横を友達が鼻をつまんで通り過ぎていく姿を見て、すごく恥ずかしい気持ちになりました。だからこそ、自分は「かっこよくしたい」と思いました。 自分は、親父のようなボロボロのトラックではなく、全てステンレスで作ったトラックで出荷をします。親父からはステンレスでもお前のやり方次第でさびていくよと皮肉を言われましたが、その頃からいろいろなことを考えてやるようになってきました。 経営者にとって、儲からないことが一番かっこ悪いことです。儲かればすべてよし、どんなにかっこ悪い見た目をしていても2000万のレクサスに乗れるのですから。1台目のレクサスを買うときは内心ビクビクしながら500万を現金で、残りをローンで買いました。その後に、1600万のレクサスをキャッシュで買うことができ、その時に、「俺頑張ったんだ」と思えました。普段乗っているのは軽自動車ですけどね(笑)。 —仕事をするうえで大切なことは? 月に100万もらおうが、生活の最低基準の給料をもらえば一緒です。それ以上をもらうというのはそれ以上のことをするだけで、それが幸せとは限りません。 これからやってみようと考えている時が一番幸せです。例えば、買い物をするときも買う前のカタログを見ている時が一番楽しく、買ってしまったら面白くないですよね。 頑張ってそれ以上になろうと思わなくていいと思います。ただ、これがほしいというような、自分の中で満足できる喜びを一個一個達成していくことがどれだけ楽しいことかを実感できると良いと思います。 —成功の秘訣は? 本業がうまくいってない時に他のことやればうまくいくってことは絶対にありません。 みんなかっこいいことをしたくて、いろいろなことに手をだしてしまいます。畜産をしていると1億とか大きな金額が入ってきます。しかし、それは自分のお金ではなく、豚を飼うためのお金です。それを勘違いしたら失敗してしまいます。 「養豚業になるな豚飼いになれ。」企業者になってしまうと、やりそこないます。かっこ悪い豚飼いで、かっこいいことをこそこそやる。コップから水がこぼれた分だけで遊ぶことが秘訣です。 養豚は、動くお金が大きいから勘違いしやすいので、「怖い」という思いを忘れずに勘違いせずやっていく必要があると思います。
有限会社本宮ポーク 代表取締役 伊藤 秀樹
福島県本宮市本宮 母豚:150~160頭 取材日:2022年5月24日
今回取材をさせていただいた本宮ポークさんは、平牧三元豚の生産農場の一つです。
平牧三元豚とは、3つの品種の豚を掛け合わせた「三元交配豚」のことです。 三毛猫のような模様が特徴で、通常よりも長い約200日〜250日の期間をかけて育てられます。 現在、息子である専務取締役の徳芳さんが主に農場を任されているとのこと。息子さんだけでなく、お孫さんも幼い時から豚に触れ、一緒に出荷に行くなど養豚が日常にとけ込み、当たり前のように世話をする姿がとても魅力的でした。 今回は、4世代目までつながる養豚のくらしを少し覗かせていただきました。 ①リモナイト
こだわりはやっぱり「リモナイト」でしょう。もう20年以上も使用しているので、当たり前になってきています。リモナイトはミルクの時から、全ステージに使っています。
使おうと思ったきっかけは、自然な形に近いと感じたからです。もともと豚はミネラル補給のために砂を食べていました。また、健康な豚を育てるには小さいときに鉄を与える必要があります。それが自然に近い形で補給できるリモナイトには魅力を感じました。 出荷の時によく分かるのですが、うちの豚は毛づやが良く、肌がピンク色となっています。これも、貧血状態でない健康な豚であるからこそ分かる特徴だと思います。 ②環境への配慮
わたしたちはもともとは他の地域からきた身で、養豚業を始めた当初、周囲には牛舎はあっても豚舎はなく、周囲の方が馴れていないということもあり、臭いについて非難を受けることがありました。ところが、今では「この豚舎はなんで臭いがしないの?」と言われるようになり、リモナイトは臭い消しにもなっていると感じています。
③マンガリッツァへの挑戦
国産の三元豚で最も主流な組み合わせは、ランドレース(L)と大ヨークシャー(W)との交配で生まれた母豚(LW)に、デュロック(D)の雄豚と掛け合わせた「LWD」です。
一方で、わたしたちが育てている平牧三元豚は、ランドレース種(L)とデュロック種(D)の交配で生まれた母豚(LD)に、バークシャー種(B)を交配させた「LDB」です。 そして、今、挑戦しているのがマンガリッツァとの掛け合わせです。マンガリッツァ豚とは、ハンガリー政府が2004年に国宝に指定した希少な豚のことで、全身が羊のようなもじゃもじゃした毛で覆われています。 一般の豚肉よりも霜降り率が高く、肉の色が赤褐色で濃いため、牛肉に良く似た肉質であるといわれています。まだ始めたばかりですが、自分で食べてみてよいものができたら今後挑戦してみたいと考えています。
近藤スワインポーク 代表取締役社長 近藤崇幸
群馬県前橋市 母豚:230頭 取材日:2022年5月25日
群馬県前橋市、市街地から赤城山に向かう県道4号線の途中にある大鳥居をくぐり、赤城南麓の豊かな自然が広がる富士見町。車を走らせていると、赤城山大鳥居に双璧する「近藤スワインポーク」の赤い看板が見えてくる。住宅内に構える店舗には前橋市のイベント等で受賞したトロフィーやパネルが飾られ、地元を代表するブランドであることがうかがえる。加工品はすべて「無添加」。その挑戦に素材(豚肉)そのものへのこだわりを感じることができる。挑戦を続ける夫婦の想いは、多くの人々の喜びを生み続けるに違いない。
①人にやさしくー「近藤スワインポーク」誕生のきっかけを教えてください! 養豚業を始めたのは父でした。私もいずれは.....と思っていましたが、大学卒業後は勉強も兼ねて飼料メーカーに就職しました。最初の赴任地は北海道小樽市でしたね。その後、父の病気がきっかけで群馬に戻り、継いだのは28歳のときでした。実際に養豚業をしていくなかで、”生産物の価値をもっと高めたい” という想いが日に日に強くなっていったんです。この想いは飼料メーカーに勤めていたときの経験も大きいかもしれません。というのも、農場独自で銘柄豚をつくって、自ら販売まで携わる方々を見ていました。結局、私たちの目的は ”豚を育てる” ことだけではなく ”美味しい豚肉をつくる” ことです。私も美味しい豚肉を自社製品として販売したいという想いが芽生えました。ちょうどその当時、近くの道の駅で精肉を販売していて、買ってくださった方々から「近藤さんのところのお肉は美味しいね」という声をいただくようになったことも後押しになりました。 ー精肉だけでなく「加工品」も販売されているんですね! 最初は精肉の販売ではなく、「加工品」の開発を始めたんです。まずは ”ウィンナー" に挑戦しました。ウィンナーは加熱調理をしてパッケージするので、保管できる冷凍庫・冷蔵庫があれば保健所の許可が必要ないんです。当時、販売していた精肉を買い戻して、加工をお願いして製品化しました。最初は知名度もないので、前橋市が認証する農産ブランドに登録したり、イベントに出店してお客さんの目の前で焼いて食べてもらうといった活動をしていました。ウィンナーの販売を始めて1~2年くらい経った頃、徐々に「お肉がほしい」という声をいただくようになったんです。それまではさまざまな理由で精肉の小売はできなかったのですが、ある食肉卸会社さんとご縁があって、精肉の販売をスタートすることができました。もともと前橋市は豚肉の生産が盛んな地域なんですが、前橋産っていう豚肉は全然なくて、群馬県産と表記されていたんです。そういった現状もあり、一緒に前橋市を盛り上げていこうという気持ちも一致してお付き合いが始まりました。そこからレストランにも卸せるようになりました。 精肉をしたいっていうのも、もともと生ハムが大好きで、うちの肉で生ハムをつくりたいという想いが根底にありました。もちろん生ハムは生なので販売には許可が必要なんです。精肉が販売できるようになったおかげで、生ハムも販売できるようになりました。製造してもらえる場所を探していたところ、これもまたご縁があって実現することができました。 ー「無添加」ということに驚きました! 子どもが生まれて、いざ離乳食を作るとなったときでした。添加物の危険性を危惧する本のなかに ”子どもに食べさせてはいけないもの” としてウィンナーが取り上げてありました。添加物は〈保存〉や〈味を均一にする〉といった点では有効利用できます。しかし、発がん性などの危険があり、体に害を与える可能性があります。その当時、妻が消化器科の看護師をしていて、大腸がんの方々をたくさん見ていました。そういったリスクを肌で感じていたので、"子どもたちが安心して食べられるものを無添加で作りたい" と夫婦で話すようになりました。そのほうが私たちも自信を持って販売できますし、付加価値にもなります。幼稚園のお母さんたちにも勧められるように、お弁当用サイズのウィンナーを作ってみたり、手に取りやすい価格設定も努力しています。最近は「BBQするから、ウィンナー買いに来たよ!」と言って、来てくださる方も増えました。 ②豚にやさしくー「無添加」ということは豚肉の品質が重要になってくると思いますが、飼料にこだわりはありますか? エサは豊富なミネラル、厳選された乳酸菌などを含んだ特製飼料です。あとは、赤城山麓の美味しい天然水を飲んでいる影響が大きいと思います。その他に、エコフィードに取り組んでいて、「ホエイ」と「アーモンド」を食べさせています。実はヨーグルトの製造過程で作られるホエイは大半が廃棄されているんですよ。群馬県内のヨーグルト工場もそのような状況でした。そこで、地元企業で有効利活用できないかとなり、豚のエサとして使うようになりました。人間と豚は生理的に似ているところがあって、人間にいいものは豚にもいいものです。最近、プロバイオティクスってよく聞きませんか?ホエイはプロバイオティクスが豊富で、おなかの調子を整え、免疫力の強化に期待できるとか..... うちでは豚が自由に飲めるように、飲水と同じような給与システムを新たに作りました。美味しいようで、豚はガブガブ飲んでいます。あと、ヨーグルトは特に女性の妊娠期にもいいって言いますよね。母豚にホエイを飲ませるようになってから繁殖成績も良くなりました。 ー「アーモンド」も初耳でした! 「アーモンド」を使い始めたのは最近です。アーモンドはビタミンやポリフェノールが豊富ですし、良質な脂質を摂取することができます。豚の場合、成長過程で動物性から植物性のエサへ徐々に切り替えていきます。例えば、生まれたばかりの子豚にとっては母乳が大切ですし、後半はとうもろこしといった植物性のエサになっていきます。アーモンドに含まれるビタミンEは脂身を美味しくしてくれるので、後半には積極的に食べさせたいですね。美味しい飼料と快適な環境で育った豚は臭みもなく、柔らかい肉質で旨味もあります。 ③環境にやさしくー積極的に「SDGs」への取り組みをされているとか 企業理念のもと、持続可能な農業への取り組みで地域社会への貢献を目指しています。例えば、農場内には太陽光発電を設置し、再生可能エネルギーである太陽の自然エネルギーを農場で発電・使用しています。豚舎の間に風通しを良くするためのスペースがあって、そこを有効活用できないかというわけです。南向きで日当たりは抜群にいいんですよ。太陽光発電によるCO2削減量は9年間で、石油換算すると101,000ℓ分にもなります。 また、先ほどもお話したように食品工場で廃棄している規格外品等で、豚の栄養として優れているものを飼料として使用し、ごみの削減量は年間650t以上です。 ー田植え体験などにも取り組まれているんですね! 農家さんの高齢化もあり、余っている田んぼや畑をどうにかできないかというのがスタートでした。ご縁があって、地元の遊園地「るなぱあく」内のおにぎり屋さんとうちのお肉がコラボさせてもらったんです。すると、今度は米から作ろうかという話になり、その時ちょうど使っていない田んぼがあったので、子どもたちを集めて食育も兼ねて田植え体験を始めました。地元の高校生や大学生も参加してくれました。 ー『冷凍自動販売機』導入でどのような変化がありましたか? この自販機は2021年11月29日(いい肉の日)に稼働し始めました。地元の新聞社やテレビ局の方にも取材していただいたおかげで、初月は想像を超える売上がありました。国道から一歩入った田舎道にあるので、まずは知ってもらうきっかけづくりができたかなと思います。 もともと自販機での販売には興味がありました。しかし、冷蔵となると精肉は数日しかもたない..... と思ってると、冷凍の自販機が出たんです。ちょうどコロナ渦でもあり、対面販売も厳しい状況だったので、即決で購入しました。冷凍販売ができるようになり廃棄ロス削減につながっています。 ー今後の展望を教えてください! これからは地元のレストランなどでもっと使っていただけたらいいなと思います。自動販売機もゆくゆくは国道沿いに設置し、多くの方々に知っていただきたいです。肉の自販機と言えばココ!というような存在にしたいですね。
有限会社大西海ファーム 養豚部門 場長 田口利治
長崎県西海市西海町 母豚:1300頭 取材日:2022年5月19日
長崎県の二大都市・長崎市と佐世保市の中間に位置する西海市。美しい山と海に囲まれた「大西海ファーム」は、その豊かな自然のなかに溶け込んでいる。ずらっと並んだ圧巻の豚舎から、大規模農場であることが推測できるが、コンピュータの導入によって効率的に豚の健康管理をしている。しかし一方では、人による観察は欠かさず、小さな異変も見逃さない徹底した管理が安心・安全な豚肉の生産に繋がっているのだろう。地元企業と連携したエコフィードの活用で、地元貢献・環境対策にも積極的に取り組んでいる。
①餌にはとことんこだわる餌は24時間いつでも食べられるようになっています。以前は、朝4時頃から夜中12時頃まで餌を与えていたのですが、昨年から尻尾かじりやへそ脱腸が増えてきたので原因を探ったところ、24時間自由に餌を食べられる方がいいのでは?という考えに至りました。その結果、尻尾かじりはなくなり、今では肥育豚舎でも24時間給餌に切り替えています。 また、リキッド飼料のシステムを導入しており、タンクに水と配合飼料を入れて撹拌し、豚舎に送っています。すべてコンピュータで管理しているため、一部屋に何頭いるかといった情報を入力しておくと、成長に合わせて栄養を計算し、配合や給餌量を自動で調整してくれます。 ー24時間自由に餌が食べられるということは、豚ごとに食餌量のバラつきはないのでしょうか? 子豚は群で、母豚は個体ごとに管理しています。例えば、母豚は出産の翌日から餌の量を増やしていくので、何日目が○㎏、何日目は○㎏.....といったように調整していきます。このシステムは海外製なので修理が大変で、万が一トラブルが起こったときのために部品などは常にストックしています。スマホやタブレットで家から操作ができるので、子どもを連れて関東のテーマパークに行った際も、一人PCを開いて夢の世界で現実を味わっていました(笑) また、餌を食べた量はコンピューターで記録を残しているので、システム導入前より何倍も早く異常に気付くことができるようになりました。どこか調子が悪いと、最初は餌食いが落ちてしまいます。コンピュータのデータをもとに、餌食いが落ちてきたことがわかると、必ず人の目で豚を見て原因を探っていくようにしています。肥育豚舎では、そういった異変がデータとしてより顕著に出てきます。以前、離乳のストレスが原因だと考えられた際には、ストレス軽減のためにライトミネラル(阿蘇の天然ミネラル)を使っていました。 今までのデータを蓄積しているおかげで、何日齢頃から体調が崩れるといった傾向が分析できます。予想できる場合には、予防として薬の検討や豚舎環境の見直し等の対策をしています。 さらに、約5年前から母豚でもリキッド飼料を始めました。肥育豚とは餌が全く異なるので、餌を与える時間帯や回数、いつの時間帯の餌を増やすかを変えています。与えたい餌を数回に分けて給餌するのではなく、1日に1回でも腹いっぱい食べさせるということを重要視しています。例えば、人間もおにぎりを一口食べておあずけされるとストレスが溜まってしまうのと同じように、豚もストレスを感じてしまいます。出産、授乳をして一番きつい時に少しでもストレスがないように餌で如何に満足させられるかということが大切だと思います。 ―リキッド飼料を導入することになったきっかけや苦労したことはありますか? もともと固形飼料を使っていましたが、成績も悪く、経営が厳しくなった時に固形飼料からリキッド飼料に変更しました。経営を立て直すには餌代を見直さなければならないこと、豚の習性も考えて、リキッドのほうがいいという決断になったようです。リキッドが始まってからすぐ自分が担当になり、半年間はほとんど帰れないような日々が続きました。コンピュータに表示される文字はすべて英語だったので、はじめは中学校の時に使っていた辞書を引きながら解読をしていきました。ノウハウが確立するまでは本当に大変で、特に1年目はとても苦労しました。 その他にも、リキッド飼料の配管内でイースト菌が増加してしまい、少量しか食べていないのに腹が膨れてしまうといったことが起こったり、焼酎かすやシロップを運ぶローリーを分けていなかったことが原因で運搬中に発酵が進み、糖度が落ちてしまったりとさまざまな失敗をしてきました。リキッド飼料はそのあたりが難しく、こういった失敗が起こった時にどうするか舵を取っていく人たちが必ず必要だと思います。 こうした難点はあるものの、通常であれば工場から廃棄される「焼酎かす」や「シロップ」、焼きムラ等によって販売できない「パン」を引き取って餌にしているため、環境への配慮になります。シロップによって餌の食いつきもよくなりますし、焼酎かすはアミノ酸やビタミンEを豊富に含むため、ドリップの少ない肉質になります。 ②病気やストレスにならない環境づくり コンピューターをもとに異変を察知して人が手を加えて対策をしますが、人の力では対策のしようがない場合には環境から変えるようにしています。例えば、豚舎は糞尿を下に溜め込むタイプなので、豚を出したあとに栓を抜いて糞尿を出すといった方式でした。すると、換気扇を回っているときにガスを下から上げてしまい、豚に悪影響があることに気づきました。じゃあ、それをどうしたら改善できるのかを考えることが大切です。そのときは自分たちで改善の作業をしたので、経費を抑えることもできました。 ー修繕作業なども自ら行っていらっしゃるのですか? 今年は、正月過ぎからGW終わりにかけて、肥育豚舎の柵の総入れ替えをし、金属の柵からプラスチックの柵へ切り替えました。約4か月間、ほぼ休みなしの作業だったのでとても大変でしたし、すべてのパネルをつなげていくと2,000mにもなりました!鉄が薄くなってしまった柵は豚を傷つけてしまいますし、頻繁に修理が必要だったのでスタッフも苦労していました。プラスチックへ変えたことによって、以前までの修繕作業の時間が減り、豚を観察する時間に費やせるようになりました。また、床にはすのこを敷いたことにより、浄化槽の糞尿分離がきれいになりましたし、堆肥中のアンモニアが軽減できたおかげで匂いも全く違うので、頑張ってやってよかったと思っています。 ー飼育管理に関して意識されていることはありますか? 人の都合ではなく、豚の都合で仕事をしようということです。例えば、精液の管理に関しては、できるだけ新鮮な精液を使うこと。人の都合で管理してしてしまっていた時期は、精液や豚の状態が良くなかったり、受精のタイミングが合っていないないため、やはり受胎率が良くありませんでした。しかし、そこを改善すると自然と繁殖成績も向上しました。また、防疫の観点から豚舎ごとに担当を決めていますが、十分な人員を配置し、余裕を持って働けることが大切だと思います。 ③安心・安全にお客さまのもとへ外部からの病原菌の侵入を防ぐため、農場には関係のトラックしか入れないようにしています。また、農場の入り口にはトラックごと消毒する機械があるだけでなく、人が豚舎に入る前は必ずシャワーを浴びて着替えることで病原菌を農場内に入れない対策を徹底しています。 また、私たちが育てている豚はSPF豚といい、発育に障害となる特定の疾病(五大疾病)を持たない母豚から生まれた子豚を徹底した衛生管理のもとで育てています。SPF豚を育てることによって、健康な豚が育ち、食の安心・安全へと繋がっています。 ー今後の展望を教えてください! まずは、子豚の離乳頭数12頭、1母豚当たりの年間出荷頭数26頭以上、農場全体で年間33,000頭出荷を目指します。また、新たに枝肉規格が変わるので、いかに上物率を落とさずに体重を乗せていけるか、改良を続けていきたいと思います。
有限会社 宮崎参協グループ 代表 細野修二
宮崎県児湯郡川南町 母豚:460頭 取材日:2021年12月22日
宮崎県児湯郡川南町、国道10号線沿いにたたずむお肉屋さん「さんきょうみらい豚本店」。店内にずらっと陳列された「さんきょうみらい豚」は、川南町・都農町の3戸の生産者によって生産されている。精肉をはじめ、餃子やハンバーグといった加工品も充実しており、その品数に驚かされる。ショーケースに並ぶサンドイッチやメンチカツなどの惣菜は、華やかな見た目とどこか落ち着く優しい味が老若男女問わず多くの人に愛されている。客足が途絶えない賑わいに、このお店が地域に欠かせない存在になっていることがわかる。
①子どもたちの味蕾に恥じない豚肉を届けるー『さんきょうみらい豚』誕生のきっかけは? きっかけは先代・中瀬邦芳さんの声掛けです。中瀬さんは本当にエネルギーに溢れた方で、「子どもたちに安心して食べてもらえる豚肉をつくりたい」「僕が思う美味しい豚肉をつくれば必ずうける」とおっしゃっていました。私にも同じ想いがあり、お互いにそこを目指しましょうということで、中瀬さんの熱い想いに賛同した3人の生産者で「参協グループ」がスタートしました。平成12年ということは…もう22年経ちますね。 ーブランド名『さんきょうみらい豚』の由来は? 最初は「生産流通・販売店・そしてお客様が参加、協力し、美味しい豚肉を届けよう」という“参協運動”をグループで謳っていました。ちょうどその頃、中瀬さんがたまたまテレビ番組で見た“味蕾細胞”というワードに、これだ!と思ったそうです。”味蕾”とは、舌にある味細胞の集まりで、食べ物の味を感じる器官です。つまり、味蕾のおかげで人はおいしさを楽しむことができます。これらのワードを合わせて『さんきょうみらいとん(参協味蕾豚)』が誕生し、『子どもたちの味蕾に恥じない豚肉を届ける』という想いが込められています。 ②飼料にとことんこだわるー飼料について教えてください! 美味しい豚肉を届けるために、まずは飼料中の「とうもろこし」を抜きました。豚肉は「脂身」が命だと思っています。とうもろこしは消化率も良く、家畜の飼料にはよく使われていますが、「脂身」には邪魔な存在です。そこで中瀬さんが代替品として注目したのが「マイロ」でした。「マイロ」は要求率も悪く、高価なため、経営の足を引っ張ります。しかし、豚肉の味が劇的に違いました。 ー「マイロ」のどのような特徴が脂身に影響するのでしょうか? まずは、脂身の色です。とうもろこしは黄色いため、どうしても脂身に黄色味が出てしまいます。しかし、マイロは白いため、脂身が純白になり見た目が全然違います。また、とうもろこしは要求率が良い分、どうしても脂身が緩くなってしまいますが、マイロはしっかりとした脂身をつくってくれます。 ーしかし、経営面で見ると厳しいのでは…? 良いものを使えば美味しい豚肉をつくれますが、経営面を考えるとやはり厳しいです。中瀬さんが亡くなる前、最後に相談したことが「消化率の良い加熱飼料に変えてもいいですか」ということでした。加熱飼料に変えると、要求率も良くなり、飼料代も改善されました。飼料の中身は変わっていないので、味には問題ありませんでした。このような変化はありましたが、飼料の内容は約20年間変わっていません。 ー飼料は変えていないのに年々品質が良くなっているのはなぜでしょうか? やはり環境が大きいと思います。病気を入れないこと、これで豚の太りも変わってきます。例えば、敷地外に出荷場を作り、外部車両が農場に入ることはありません。外から入れないないことを徹底しています。 ③地元で食べてもらうー「さんきょうみらい豚本店」をオープンしたきっかけは? 川南町と都農町で生産していますが、さんきょうみらい豚を販売している場所は宮崎市内の「スーパーまつの」さんだけでした。やはり、生産している場所=地元で食べていただきたいという想いはずっとありました。 そんなときに”口蹄疫”が発生したんです。スーパーに迷惑をかけるわけにはいきませんので、一日でも早く豚を戻さなければと必死でした。無事に復活した際には、スーパーまつのさんで一番に復活祭をしていただき、大変感謝しています。しかし現実は厳しく、取り扱っていただける場所はなかなかありませんでした。 そうこう悩んでいるときに目をつけたのが”真空パック”でした。その当時、真空パックの加工品はあまり出回っていませんでしたので、ふるさと納税に出したところ大好評だったんです。最初は事務所の隅で加工していたんですが、追い付かなくなり部屋を借りて…という感じです。 一方で、引き続き販売先を探して走り回っていました。大阪の阪急の料理長さんを訪ねたこともありましたね。その方に「細野さん、さんきょうみらい豚は宮崎で有名なんですか?」と言われて、あっ…と思いました。もしかして宮崎では誰も知らないんじゃないか?宮崎と言えば「さんきょうみらい豚だよね」と言ってもらえるようにしなければと強く思いました。 最初の頃はガソリンスタンドの跡地という印象が強く、お店だと気づいてもらえなかったのですが、改装してからは認知していただけるようになり多くのお客様に足を運んでいただけるようになりました。 ー「養豚業」と「お店の経営」には違った難しさがあると思うのですが… 直売所をするにあたって私たちが重要としているのが、”セットで売り切る”ということです。どうしても部位によって需要が異なり、人気の差があります。需要がないからといって余った肉を廃棄することはできませんので、スーパーさんにもセット(全部位)で卸しています。もちろん売れる部位だけをくれという要望もありますし、セットを売り切ることがどれだけ難しいかわかります。スーパーさんに難題を出している以上、私たち(直売所)もセットで売り切らなければなりません。そこは守らなければならないと思っています。 ーそういった理由もあって、餃子やハンバーグといった加工品が充実しているのですか? そうですね。加工品が充実していかないとセットで売り切るというのは無理なんです。少しずつではありますが、年々商品は増えています。お店にはパートさんも含めて10人の従業員さんがいますが、商品の案はほとんど従業員さんが出してくれて、試作を重ねて販売に至っています。来年もとっておきの新作が出る予定ですので、楽しみにしていてください♪
ー最後に、今後の展望を教えてください!
農場は安心して後継者に任せています。販売の方では、コロナが落ち着いたら、量販店に行きたいですね。そのためにパンフレットを一新したりと準備を進めています。定期的に肉質検査もしていますが、どんどん良くなっています。まだ、消費者の方にこの良さを上手く伝えることができていないもどかしさもありますが、飼料メーカーさんをはじめ多くの方のお力を借りながら頑張っているところです。
有限会社コーシン 取締役 熊野博嵩
熊本県菊池郡 母豚:600頭 取材日:2021年4月23日
熊本県菊池郡の「有限会社コーシン」。
自社ブランドである【香心ポーク】は、年間出荷頭数1万5千頭のうち、たった5%の豚しか名乗ることのできない。DNAからこだわった【香心ポーク】は栄養価が高く、脂身があっさりしており、関東や海外の有名飲食店と取引があるほど、最高品質のブランド豚として認知されている。 一般的な豚を大量生産した方が安定して利益が出る。それでも、”子どもたちに安心安全な豚肉を食べさせたい”、”大切な方へ最高に美味しい豚肉を自信を持ってお届けしたい”という想いから自社ブランドを立ち上げたと、取締役の熊野博嵩さんは語る。 ①こだわりのオリジナル自社ブランド”香心ポーク”多くの親豚の中から優秀な親豚が選別され、香心ポークの候補となる子豚が生まれます。その中から特に発育状況が良好なメス豚のみを選び、専用の無農薬飼料で育てます。 選別の条件は様々ですが、一般的に父豚は生産性が高く、のびがいい豚が好まれます。しかし、香心ポークの父豚は肉質を重視しているため、足腰・ひづめがしっかりしており、丸っこい父豚を選びます。 年間1万5千頭を出荷していますが、香心ポークとして出荷できるのはたったの3%~5%のみ。優れたDNAを持ち、その中でも事故や病気に一度も合わなかった健康な豚だけが【香心ポーク】と名乗ることができるのです。 ②天然ミネラル豊富な飼料・阿蘇の天然水
一般的に豚はとうもろこしで育てます。とうもろこしはカロリーが高く太りやすいため、出荷日数が短くなり、生産性が高くなります。黄味がかったものが一般豚用の餌、茶色味がかったものが香心ポークの餌になります。
香心ポークのエサは、とうもろこしが入っておらず、太りにくい餌になります。しかし、とうもろこしを食べさせないことで脂が重くなく、あっさりしています。また、動物性飼料を一切使わないベジタブル無添加飼料のおかげで圧倒的に風味がよくなりました。
香心ポークの場合は、冷めて脂が固まってもサラっとしています。実際に、お客様やお取り扱いいただく飲食店からは「香心ポークは”赤身と脂肪”というより”赤身と白身”のような味わいだ」「脂身に塩をかけて食べられて美味しい」という声を頂いています。 さらに、鉄・マグネシウム等を豊富に含む阿蘇の天然ミネラルを含む黄土をエサに混ぜていることで、一般豚と比較して鉄分が4倍、マグネシウムが1.5倍多く含まれています。ミネラルを多く摂取しているので赤身がしっかりしており、血流もよくなることで豚のハリや色がとてもよくなります。 また、農場が阿蘇山の麓に位置することも強みで、飲水は阿蘇白川の天然水を使用しています。やっぱり水が美味しいと生き物は美味しくなりますね。 ③防疫に優れたSPF仕様農場での飼育飼育環境については、交配舎・分娩舎・離乳舎・肥育舎などの豚舎ごと、さらには豚の状態ごとに温度や湿度、明るさを設定しています。分娩舎では、同じ柵の中でも子豚は床暖房やハロゲンヒータで温め、母豚は冷やすために風を直接あたるようにファン等を設置しています。 豚舎ごとに適した温度・湿度もデータ管理をしており、10分おきに更新される数値を24時間いつでもスマートフォンで確認することができます。 しかし、データ管理はあくまでも基本情報として設備導入をしていますが、一番は人の目が大切です。例えば、人が来た時に豚が立つかどうか、お腹の大きさを見てエサを食べているかどうか、呼吸を見て病気になっていないか、足が悪くないか等、毎日豚を見て変化がないか確認をしています。
そして、豚舎の衛生管理をしっかり行い、クリーンな環境で育てるのはもちろんのこと、飼育過程でのストレスをできる限り少なくするため、同じ親豚から生まれた豚のみの環境で育てます。
これにより、同じ親を持つ豚以外との接触がなく、兄弟のみで育てるため、ストレスが軽減され、良質な肉質の豚が育ちます。 また、豚には様々な病気のリスクがあるため、通常は抗生物質を摂取させます。しかし、私たちが出荷している一般豚は、コープ九州産直認定農場の規定に沿っているため、一般的に流通している豚肉の半量の抗生物質で出荷しています。さらに、香心ポークは抗生物質を一切使用していません。そのため、防疫面では細心の注意を払っています。
Writer_K.Hira
合同会社ピッグス 代表 井戸栄造
熊本県天草市 母豚:300頭 取材日:2021年4月7日
世界文化遺産「天草の崎津集落」の隣町、天草市大江の『合同会社ピッグス』。代表を務める井戸栄造さんは18年前にサラリーマンを辞めて父が行っていた養豚業を継ぐために天草に帰ってきた。創業当初は子豚2頭から生産を始め、時代の流れと共に養豚経営の社会的信頼の確立及び社会貢献を加速するために法人化を行った。近年では、井戸さんが代表となり、地元の養豚業を営む仲間とグループを作り、大江地区の環境保全にも力を入れている。
①利益にコミット人には得意分野があるけど、私は豚を飼うことが得意ではないです。だから豚にこだわりはないし、良い豚を作ろうということには興味がありません。だけど商売をしている以上、1頭の豚をどう安く育てて、どれだけ高く売るかは考えています。 豚を飼うことはオリンピックではないので、金メダルを獲ってもお金にはなりません。だから豚を飼うことに一生懸命になってもしょうがないと思うようになりました。よく成績が重要視されますよね。田んぼでいうと反収とか、鶏でいうと飼料要求率とか、豚でいうと一母豚あたりの出荷頭数とか…私は全く興味がありません(笑)。もちろん私も若い頃は成績を気にしていたし、成績が上がれば儲かると思って頑張っていました。成績は数字で見ることができるので安心材料になります。しかし、成績が悪くても儲かっているところもあれば、成績が良くても儲かってないところもあるんです。いかにコストを抑えて、最大の利益を生み出すか。交渉力は超得意分野なので(笑)。前職での営業経験が活きているかもしれません。 ②体が資本私は毎朝、一人焼肉をします(笑)。7時には家を出るから6時半に朝食。時間がある日は味噌汁を出汁から作ります。特に意味はなく、食べたいから食べているんですけどね。 仕事は終わっていなくても16時半に切り上げて、誰よりも早く帰ります。もちろん従業員もですが、自分が一番に帰るようにしています。そして17時からお酒を飲む。これが日々の活力となっています。自分がだめになったら農場がやっていけないから、自分の体に力を入れるようにしています。 ③必要がないことはすぐやめる。 必要があることは続ける。養豚業を始めたきっかけは父が癌になったことです。熊本市内の一般企業に就職し、営業マンを10年くらいしたころでした。父が癌だとわかって「帰ってきてくれ」と言われたことがきっかけです。もともと就農するつもりはなくて、ちょうどサラリーマンにも飽き始めていたタイミングでした。就農して1年後に父が死んで、もうやるしかないと思いました。 どんな商売も同じですが、資金繰りのプレッシャーは半端なかったです。30代で最大2億の借金、銀行からも税理士さんからも心配されました(笑)。でも30代だったから全く怖くなかったし、あきらめようと思ったこともありません。あきらめても借金しか残らないので、とにかくがむしゃらでした。 会社を経営するにあたって、必要がないと思ったことはすぐに辞めます。逆に必要だと思ったことは続けます。その決断は早いかもしれません。
Witer_R.Tsujiwaki
|