株式会社COLLECT
熊本県 阿蘇市 経産牛:470頭、育成牛:300頭、子牛:130頭 取材日:2023年8月31日
はじめに
渡邊さんは、ただ牛を飼うだけでなく、その食べる草一つ一つにまで情熱を注いでいます。独自の哲学とともに畜産経営を展開し、常に高い品質とサービスを追求しています。渡邊さんが考える“努力と結果”の関係、独自の「積み木理論」での経営判断、そしてその全てを支える家庭の存在。その多面的で深い洞察は、牧場運営だけでなく、多くのビジネスパーソンやこれからの生き方を考えるすべての人に貴重なヒントを提供してくれるでしょう。この記事では、渡邊さんの畜産経営における独自の哲学と、その背後に流れる深い思いについて紹介していきます。
牧草哲学と師匠
ーー牛に与えるエサについてこだわりを教えて下さい。
牧草にはこだわっていますね。牧草の作り方が良くないと美味しくない牧草ができてしまいます。牧草には見分け方があって肥料が悪いと黒っぽい草になるんですが、いい肥料で育った草は南国の海のように青く透き通った色になります。夕日に当てるとすごく綺麗な淡い青色に見えるので、春は必ず見に行って今年の生育の良し悪しの判断をしています。 ーー渡邊さんが牧草の知識を学ぶ上で師匠としていた方はどなたですか? ファームテックジャパンの東出社長です。東出社長は牛のこと、土のこと、堆肥のことについて大変勉強させていただきました。いい堆肥にはミミズができて悪いものには蛆が湧く、発酵してるのか腐ってるのか、そのことを深堀して教えていただいていました。 努力と結果、そして「積み木理論」
ーー渡邊さんが畜産経営において考えている理念などあれば教えてください。
努力すれば結果が出るっていいますが、こんなの当たり前だと思っていて、それに加えて結果があるものに対して努力 しなくちゃいけないという考えはあります。結果が先を行ってるから努力しても努力しても追いつけないぐらいでなければいけないと20代の時に言われました。その当時は何を言ってるのかわからなかったのですが、ようやくその理屈がわかり始めたかなと思っています。つまりお客様の持つ次から次に湧き上がる需要を満たし続けるために絶え間ない供給を続けていくことが大事ということです。 ーー自分に厳しく努力をし続けることが大事なのですね。そのモチベーションを維持するための秘訣は何ですか? 目標を持つことです。1年間の目標を私の頭の中で考えて「これは絶対やり遂げる!」と決めて1日ずつ達成に向けたハードルを越えていくことが重要です。その際に他人と競争してはいけません。「あの人に勝つんだ」と努力して本当に勝った時にまた「次のあの人に勝つ!」と次々に目標を探すことになりキリがないです。なので自分の目標を自分で作って、「どうその目標をクリアするか?」を常に考えるようにしています。 ーー目標に向かって進む際に経営者として悩むことは多々あると思いますがその悩みとどう向き合っているか教えてください。 私の場合は必要なもの、不必要なものを「積み木理論」で組み立てて判断するようにしています。「これをするためにはこれが必要」というのを積み木のパーツで例えて詰んでいくのです。そうすることで「今何をしなければいけないか」が明確になるので無駄に悩むことがなくなります。また、物事を「点で見る」ことを「線で見る」ように変えていくことで見る世界が変わった経験もしました。「自分は朝早くから仕事してようやくここまできたのに、あの人はもっと先まで進んでる。なんて自分はできないやつなんだ」と思っていた時期もありました。ですが実はその人たちは私がやっていることをやっていなかったりと、そこに至るまでのプロセスが自分と大きく違っていたのです。その瞬間「点」だけではなく過程「線」に視点を変えることが悩みの解決に結びつくことがあるのだと実感しました。 人生哲学と妻の支え
ーー今から就農される若者に伝えたいことなどありますか?
私の持論で人生は3段跳びと似ていると思っています。10代、20代は助走期間で、ここで助走を頑張った人が30代でステップを跳べます。またこの30代でも失敗する人は出てしまうのですが、助走を最大限に生かして大きくステップを踏めたら40代でジャンプに繋がります。この40代で体制崩さず躍進できれば60代で着地できると思います。60代まで跳び続けることが必ずしもその人の幸せとは限りませんが若いうちにサボってしまうと30代のステップで跳べないので一生懸命助走してほしいです。 ーー最後に渡邊さんを影で支えているかおるさんの存在について教えてください。 そうですね。家内がいなかったらやはりここまで大きくはならなかったと思います。家のことも一人でやってくれています。最初はまだ子供も小さかったので牛のことは全て私一人でやっていたのですが一人ではだんだん手が回らなくなっていきました。それを見て家内が子牛を見てくれるようになりました。子牛が手から離れたのはすごく大きかったですね。経営をしていく中で社長にしかわからない悩みというのはありますがそこを一番理解してくれる唯一の存在が家内です。いつも感謝しています。 編集後記
渡邊さんにお話を伺い、何より感じたのは「感謝」です。家庭を始め、自然、牛、そして師匠との出会いまで、全てに感謝の意を示しながら努力を積み重ねてきたからこそ、今の成功があると思いました。渡邊さんの独自のこだわり、それはただ単に経営の成功を目指すのではなく、関わるすべての要素に感謝の心があったのだろうと感じます。その心こそが、経営者として、そして人として大切なことであるとこのインタビューを通して強く感じました。
タンカー
写真にも納まりきれないスケールを持ち、周囲も「あの巨大なタンカーの会社」と言うほどのインパクトです。株式会社COLLECTのシンボルとなるほどのこのタンカーは30トンもの堆肥を積載できるそうです。堆肥作業が圧倒的に楽になったと話されていました。
Writer_T.Shimomuro
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佐藤牧場 佐藤翔悟
熊本県合志市 搾乳牛:35頭 取材日:2023年8月28日
①一歩踏み出す、自信と努力― 酪農をはじめたきっかけは、ある人の一言から スタートは「経営がしたい」と思ったことです。高校卒業後は一般企業に就職しましたが、毎日不満に思うことが多く、上司に嚙みついてばかりでした(笑)それは決して上司が悪いのではなく、私自身に問題がありました。指示されて動くということが向いていなかったと思います。この経験のおかげで、私は“自分で考え、自分でやっていく”ほうがいいと気づくことができました。 しかし、特にやりたいことがあっただけではありません。そんなとき、酪農家の友人・松野佑哉さんのお父さんから「じゃあ、お前も酪農せんか」と言われました。松野さんとしては軽いノリだったのかもしれませんが、その言葉をきっかけに酪農に携わるようになりました。 ― 酪農ヘルパーを9年、新規就農を決意 もちろん酪農のことはさっぱりわからなかったので、勉強のために酪農ヘルパーを始めました。結果的に9年間、ヘルパーとして働いていましたが、その間に自分で牧場を持って酪農をするタイミングを見計らっていました。 私が酪農経営を始めるタイミングは、“松野さんに認めてもらえてから”ということが絶対条件でした。ヘルパー時代、いろんな牧場で働いていると「自分で酪農始めなよ」と言っていただくことも多かったです。しかし、私は松野さんからのGOサインがないと始めないと最初からから決めていました。 ― 気持ちの波、不安との葛藤 正直言うと、ヘルパーをしながら経営の厳しい牧場もたくさん見てきました。それを目の当たりにすると、“絶対にやってやる”という気持ちにも不安が芽生えます。やりたい、でも本当にできるのかという気持ちの波がずっとありました。 ただ、ヘルパーとして働く上で、自分の中に必ずあったのは「いつか酪農をするかもしれない」という意識です。もしかしたら酪農はできないかもしれない、でももし始めたときのために農家さんに積極的に入り込んで質問することを常に意識していました。 ― 作業ではなく、身につけること ヘルパーって下手したらただの作業になってしまいます。私が9年間大事にしていたことは、いろんな牧場で働く経験を無駄にしないことです。「なんでこの牧場の牛はこんなに乳量が多いんですか?」「酪農経営ってどんな考えでやっていますか?」など、いろんな経営者に常に質問していました。 いいと思ったところはもちろんですが、良くないと思ったところはなぜそうやっているのかを聞くようにしていました。そうすると、自分が気づいていなかったメリットがあったりします。ヘルパーが何の質問してんだって思われていたかもしれませんが(笑) いろんな牧場のたくさんの情報の中から取捨選択し、整理した結果、私の今の酪農経営になっています。いろんな引き出しを持てたことは強みだと感じます。 ― 自信を持つための努力 新規就農は自信がないとできません。新規就農をしたいと言うのは簡単ですが、一番難しいのは“一歩踏み出す勇気”を持つことです。農大生や従業員として働く若い人たちの中には新規就農したいと思っている人はたくさんいます。しかし、研修や実際働くなかで厳しさを知り、離脱していってしまうことが9.5割です。 多くの人の最終的な壁が、“踏み出す一歩”です。その勇気の一歩を踏み出すために大事なことは自信を持つことです。自信がないとできないし、自信があれば始めるんです。私は自信しかありませんでした。 しかし、その領域まで持っていくには、勉強が必要ですし、努力が必要です。いっぱい経験をしないといけません。新規就農するには“踏み出す勇気”が必要ですし、その勇気の一歩には“自信”が必要で、その自信には“努力”が必要です。 ②士気が上がる環境を意識的につくる― 環境が大切 新規就農するには環境も大切だと思います。ヘルパーのときから大事にしていたことが酪農家と付き合うことです。私はヘルパーで留まりたくなかったですし、意識的に同世代の酪農家が集まる場所に飛び込んでいっていました。 それはモチベーションにも繋がっていました。周りが羨ましく見えて、やっぱり酪農っていいな、俺もこの仲間と一緒に酪農したいなと思える場所でした。おそらくこの環境がなければ酪農はしていないと思います。 ― 負けたくないという気持ち そして、その環境にいると負けたくないという気持ちが湧いてきます。ヘルパーって酪農家より少し下にいる気がして悔しい気持ちがありました。やっぱり同じ土俵で一緒に酪農がしたい、もっと頑張らないといけないと思っていました。 憧れや悔しさ、いろんな影響を与えてもらった環境です。 ― 酪農経営がスタートしてからも 最初は牛が一頭もいません。ヘルパーでお世話になっていた農家さん一軒一軒に話をし、牛を譲っていただけないかお願いしました。結果、最初は25頭からスタートし、半年で乾乳牛も含めて40頭になりました。約35頭は農家さんから譲っていただき、残りはセリで導入しました。 私はヘルパーをしていたおかげで農家さんと繋がりがありました。多くの方々の援助のおかげで始めることができたと思います。 ③行動する前に考える― 直接的利益に手をかける 経営をしていく上で、利益を生むところに手をかけ、直接的な利益にならないところはアウトソースするように意識しています。 例えば、私にとって利益になるのは乳や肉です。コストを抑えるために自給飼料ばかりを頑張って作ることは、コストが抑えられても時間がかかります。その結果、牛の状態も見られなくなり、乳量が下がったり、乳質が落ちたりすると元も子もないのです。 可能なところはアウトソースし、大事なところは自分でしっかりやります。 ― 行動する前に考える “どこに手をかけるか”と同じくらい、“どこで手を抜くか”も重要だと思います。どういうことが必要で、どういうことがいらないか、行動する前に考えることです。 何のために利益を出すのか、私の答えは自分のためです。時間もお金と同じくらい大切なので、自給換算での利益を追求するようにしています。 週一休みを取り、自分の時間、家族との時間をつくることも大切だと考えます。 ― 今の情勢を乗り越えていることが自信になっている 私が新規就農してから、酪農業界の情勢は厳しくなっていきました。この状況下、酪農経営を継続できていることは、ある意味自信となっています。 ― 改めて、酪農家として新規就農して良かったですか? 今の環境は私にとてもマッチしています。全くストレスがなく、いい選択ができたと思っています。
中村牧場
熊本県 人吉市 搾乳牛:100頭 取材日:2023年8月28日
はじめに
一頭一頭の牛が健康であるためには、日々のケアが欠かせません。さらに、そのケアを担当するのは人間であり仲間です。この仲間たちがどのように連携し、どう情報交換と切磋琢磨を重ねているのか。仲間の存在というのがこの畜産という大変な仕事を頑張るモチベーションとなるのです。
この記事では、日常のルーティンワーク、暑熱対策、そして最も大切な「仲間」について紹介していきます。 日常と牛たちの微細なシグナル
ーー中村さんは日常におけるルーティンワークではどのようなことに気を付けていますか?
牛たちの異変にいち早く気付くよう心がけています。たとえば、牛が首を地面につけて寝ている場合、何か異常が起きている可能性が高いです。さらに、耳垂れが起きていると、マイコプラズマ(中耳炎)の可能性ががあります。 また反芻をあまり行わない牛がいたら要注意ですね。夏場の暑い季節では暑熱によるストレスで反芻の回数が減る牛もいたりするので。反芻がうまく行われないとルーメン内の微生物の活動効率が下がりうまく栄養を摂ることができないのです。熱を測ったり、考えられることをやって解決しないようだったら獣医さんを呼んで対処しています。 こうしたルーティンワークは、牛たちに起きる数々の問題に対して適切な処置を行うために不可欠です。 暑熱対策〜ソーカー〜
ーー牛たちが暑さにどのように対処しているのか教えてもらえますか?
牛舎の暑熱対策は非常に重要で、うちではソーカーと呼ばれる装置を10年前から使っています。ソーカーとは首元に水をかけて体温を下げる機械のことですね。人間は肌が露出しているので水にぬれて風が当たると涼しく感じますが、牛は毛で覆われているため体温調節が難しいんです。 5月くらいから10月くらいまで、特に気温が高い時期には、このソーカーを使用しています。 一般に使われる細霧は使い方が難しく、季節やタイミングを見て使わないと、湿度が上がりすぎるなど逆効果になってしまうこともあります。その点、ソーカーはタイマー式で調整可能なのでそういった心配がありません。ですから、牛舎環境を良好に保ちながら、暑熱対策しています。 仲間の力と至福のひととき
ーー畜産経営において「仲間」とどのように協力しているのかお聞かせください。
畜産経営は、一人では困難な作業がたくさんあります。だからこそ、情報交換や切磋琢磨が欠かせません。私の住んでいるこの木上地区は仲がいいと周りから言われていて、牧草の収穫など大きな作業が終わるたびに、打ち上げがてらみんなで集まって飲んでいます。これが仲間との絆を深める大事な時間です。 仲間と一緒に働き、共に問題を解決していく過程が、この仕事のやりがいなのかなぁと思いますね。 編集後記
個々のスキルや知識はもちろん重要ですが、それを高め合い、集結させて初めて大きな力となります。中村さんが語る「幸せ」とは、仲間とともに過ごす時間や、大きな作業を終えた後の打ち上げでみんなで笑い合っている瞬間です。この取材では、そのような独特の絆と共同体の美学が垣間見れました。おそらくこれが、農家の方々がこの厳しい仕事を続ける原動力であり、私たちが美味しい牛乳や肉を食べられる秘訣なのだと思いました。
ソーカー
ソーカーはタイマー式の噴水装置のことで牛の暑熱対策に用いられます。温度センサーも付いており設定の切り替えも自動でできるため気温の状態に合わせて最適な暑熱対策が行えるのだそうです。
Writer_T.Shimomuro
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