山田牧場
熊本県 阿蘇郡 成牛:120頭、育成牛:80頭 取材日:2023年9月25日 トウモロコシ畑:20ha
はじめに
乳製品が豊富に店頭に並び、多くの人々が毎日飲む牛乳。しかし、その牛乳がどのようにして私たちの手元に届くのか、実は知らない人が多いのが現状です。特に現代の小学生たちは、牛乳がどのように作られるのかを知らない子供が多いと言われています。そこで、山田さんが運営する牧場では、小学生に対して搾乳体験を提供しています。このような取り組みを通して、「食の応援団」という有志の団体も立ち上げ、酪農の知識を広めようとしています。この記事では、山田さんがどのようにして「酪農家から酪農経営者」へと成長し、地域社会に貢献しているのかについて紹介していきます。
地元で生きる、地元で育む
ーー山田さんの牧場で行われている小学生への搾乳体験はどんな目的で始められたのですか?
今の小学生たちは給食でいつも飲む牛乳が牛から搾られていることを知らない子が多いんです。そういう子達に正しい知識をつけて欲しいという思いで「食の応援団」という有志の団体を立ち上げました。その一環で行われているのがこの搾乳体験です。子供たちが自分たちで乳搾りを通して正しい知識を付けてもらったり、「美味しい」と言って飲んでもらったりすることが私にとってのやりがいの一つとなっています。搾乳体験を通して地方と北海道の酪農の違いについて触れています。テレビのようなメディアでは、北海道の酪農が新鮮であるといったイメージで描かれることがありますが、実際には搾乳後の工程や配送距離の問題で消費者の手元に届くまでに時間がかかります。そういった意味で地方の牛乳の方が実は新鮮さが保たれやすいんですね。イメージは北海道の方がいいのが現状ですが、新鮮さでいうなら地方の牛乳の方が優れています。つまり「旬で飲むか、イメージで飲むか」ということです。北海道の牛乳が悪いというわけではなく正しく知ることで地方の牛乳の良さを最大限に知ってもらいたいという願いが込められています。 ーー若い人たちに正しく知ってもらうという取り組みはすごく大事ですね。ソフトクリームなど乳製品の販売を始めようと思ったきっかけも教えていただけますか? 自分で搾った牛乳を生産調整で捨てるのは心苦しいので、それが1/3でも1/5でも売れるだけ売ろうという思いで始めました。はじめは知らなかったのですが乳製品の販売には乳処理業の免許が必要だと言われ、ゼロから勉強しましたね。 酪農家から酪農経営者へ
ーー新規事業を始めるにあたって多くの困難に直面されたことと思います。どのような信念をもって乗り越えていったのでしょうか?
昔から大切にしている考え方があります。それが「酪農家ではなく酪農経営者であれ!」という考え方です。これは常に言い続けている言葉です。例えば台風が来たとするじゃないですか?一般のサラリーマンなら台風が来ても屋根のある事務所の中で仕事をすることができます。ですが、酪農はそういうわけにはいきません。台風が来ると牧草は濡れ、牛舎は大きな被害を受けたりもします。そのような自然災害というリスクと戦いながら生活していく必要があります。加えて現代の酪農は世間的にも大変厳しい状況だと言われています。ですのでただ乳搾りをしているだけで満足していたらこの環境で生きていくことができません。起業家、経営者として酪農で経営をする心を持ち利益を上げていくことを人並み以上に考えながら取り組むことが大事です。 ーー酪農経営者は農家の知識以外にも経営の知識などが必要だと思います。経営の知識の中で山田さんが大事にしている考え方など教えていただけますか? 経営においての基本は「人・物・金」です。この3つすべてがそろっていないと経営はできません。酪農家は乳を搾ることだけに考えが寄ってしまいますが酪農経営者なら「人・物・金」に考えを巡らせ、商品開発やレストランの経営状況、お店の品揃えなどなどすべてのことに目を光らせる必要があります。お金をつぎ込めば誰にだっていい商品は作れますが、それをいつまでにさばいてしまうのかまで追求します。そこを追求しだすと「早く売らなければいけない」という考えになり、次は安売り競争に転じてしまう。そうなってしまうと利益がなくなってしまいます。酪農経営者になるだけなら簡単ですが利益を追求するというところまで考えるととても大変ですね。 後退せず前進のみ
ーー酪農家が酪農経営者になっていくためには考え方から変えていく必要があると感じましたが、山田さんはどういうモチベーションを持って変わっていったのでしょうか?
私は「挑戦」という言葉がすごく好きで、常に前を向きに挑戦していく気持ちを大切にしています。死ぬまで勉強を続けることで成長して来れた気がします。「俺の人生にバックギアはない」。障害物が現れても、様々な方法を考え前に進み突破していく。自分の人生には後戻りするつもりがなく、バックギアを使用することはありません。さらなる成功を目指し、それを伝えたいと思っています。 ーー最後に今後酪農を始める方々に伝えたいメッセージをいただいてもいいですか? 酪農には完成はありません。これで満足するということはありません。誰でも右肩上がりの人生を送ることを願いますが、人生はそんなにうまくいかない。どこかには必ずぶち当たります。人生を一直線で進むことはありえません。挫折や悪戦苦闘しながら前に進んでいきます。成功するためには様々なルートがあります。一直線で進めなかったら、別の方法で挑戦してみることも考えます。生きていればどうにもこうにもならないことがたくさん起こりますが、そんな時は「ピンチはチャンス」と思ってください。ピンチの状況でも挫折せずに前に進めばチャンスをつかみ取ることができます。誰もが一人ではありません。人とつながりを持ち、わからないことがあれば頼る。そのために「人・物・金」。人を動かすために努力して立派な酪農経営者になってください。 編集後記
「人生、死ぬまで挑戦」。この言葉が山田さんの哲学を象徴しています。酪農という厳しいフィールドで、ただ乳を搾るだけでなく、地域社会に貢献する方法を模索し、若者に知識を伝え、乳製品のビジネスまで展開。それはすべて、挑戦の連続であり、後戻りすることなく前に進む姿勢から来ています。山田さんが大切にしている「人・物・金」の三要素は、酪農だけでなく、どんなビジネスや人生にも共通する普遍的な要素です。私たちも、山田さんのように「挑戦」を心に留め、人生の各局面でその精神を実践すれば、多くのことが変わるでしょう。最後に、山田さんの挑戦と情熱がこれからも多くの人に感銘を与えることを願っています。
アソード
今後乳質の改善も視野に入れ商品の質を高めていきたいそうです。
アソードの乳質改善効果についてのポテンシャルに期待しているとおっしゃっていました。
Writer_T.Shimomuro
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