高塚牧場 中村俊介
熊本県 人吉市 経産牛:241頭、子牛:64頭 取材日:2023年9月29日
ムリ、ムダ、ムラなく
記者「 俊介さん、自衛隊での音楽隊活動とその後の酪農経営への転身は非常にユニークな経歴ですが、自衛隊での経験が現在の経営にどのように役立っていますか?」
中村さん「自衛隊での厳しい訓練と多様な任務経験は、酪農経営に大きな影響を与えました。特に、隊員としての規律と協調性は酪農業の現場でも大切な要素です。音楽隊での経験は、厳しい環境下でも精度高い演奏を求められるため、酪農経営における「ムリ、ムダ、ムラなく」という経営理念の実現にもつながっています。組織運営のスキルとチームワークの重要性を自衛隊で学んだことが、今の経営の基盤となっています。」 記者「「ムリ、ムダ、ムラなく」という経営理念は魅力的ですが、具体的にはどのような取り組みをしていますか?」 中村さん「この理念は私たちの経営の指針です。まず、「ムリなく」では、従業員の負担を考え、適正規模での機械化を進め、効率的な運営を心掛けています。次に、「ムダなく」では、投資の採算性を徹底的に精査し、無駄なコストを削減。最後に「ムラなく」では、健全な環境下での飼育管理を徹底し、乳量の安定化を図っています。これらの取り組みにより、持続可能で効率的な酪農経営を実現しています。」 災害から希望へ
記者「地域活動や酪農業界でのリーダーシップについて教えてください。」
中村さん「 地域活動への積極的な参加は私たちの使命と考えています。JAくま青壮年部の部長として長年活動し、地域の発展に寄与した経験は、令和2年からの球磨酪農農業協同組合の青壮年部長、熊本県酪農青壮年部協議会の委員長など、さらに大きな舞台での活動につながりました。全国酪農青年女性会議の委員長に推されるなど、経験の浅さを感じながらも、酪農業界の若手が積極的に参加し、新たな風を吹き込むことに意欲的です。」 記者「 令和2年7月の豪雨でのご経験について、具体的にお聞かせいただけますか?」 中村さん「 あの豪雨は忘れられない経験でした。消防団部長としての立場で、私は自分の牧場の被害を顧みず、人命救助を優先しました。3日間自宅に帰らずに救助活動に奔走したことは、農家としてだけでなく、地域社会の一員としての責任を感じた瞬間です。その後も、災害復旧作業に精力的に参加しました。今も牧場に消防車を置き、消火活動に出動するなど、地域の安全を守るための準備を怠りません。」 牧場の未来を変える「FUNTO」:エコな挑戦
記者「高塚酪農組合が導入した「FUNTO」システムについて、その特徴とメリットを教えてください。」
中村さん「「FUNTO」システムの最大の特徴は、家畜の排せつ物を繰り返し再生し、環境に優しいサーマルリサイクルを実現している点です。低コストで敷料を再利用し、戻し堆肥として有効活用できるため、従来の糞尿処理方法に比べて大幅なコスト削減を実現しました。また、環境への影響を軽減することにも貢献しています。このシステムにより、往復1時間以上かかっていた糞尿の運搬と処理時間が大幅に削減され、作業効率が格段に向上しました。」 記者「「FUNTO」システムの導入過程での挑戦や改良点について教えてください。」 中村さん「「FUNTO」システム導入の初期には、処理量が見込みに届かないという課題に直面しました。しかし、私たちは試行錯誤を重ね、何度もの改良を経て、ついには一日の糞尿分を処理できるようになりました。これらの改良によって、初期投資の低減も実現しました。また、高塚酪農組合での実績が認められ、クラスター事業の補助対象となり、今後の導入時にはさらなる効率化が期待できるようになっています。」 記者「このシステム導入による牧場経営や環境への影響はどのようなものですか?」 中村さん「「FUNTO」システムの導入による最大のメリットは、牛舎内の環境改善です。敷料の再利用により、牛舎内がより清潔に保たれ、乳房炎の減少につながりました。これは、乳量や乳質の安定化にも寄与しています。また、糞尿の外部散布が不要になったことで、コスト削減はもちろん、周辺環境への影響も軽減されています。結果として、私たちの牧場はより持続可能で効率的な運営を実現していると言えます。」 記者「 今後の「FUNTO」システムの展望や他の酪農家への影響についてお聞かせください。」 中村さん「「FUNTO」システムは、今後も酪農業界において大きな可能性を秘めています。私たちの牧場での成功例が他の酪農家にも影響を与え、より多くの牧場でこのシステムが採用されることで、業界全体の環境負荷の軽減と効率化が進むと考えています。このシステムの普及により、酪農業界のさらなる持続可能性と環境への配慮が強化されることを期待しています。」 FUNTO
FUNTOの建設は酪農の師匠からのご紹介がきっかけだったそうです。FUNTOの導入で以前まで堆肥の運搬に往復1時間かかっていた作業をなくすことができました。また、環境にもよく牛たちの状態にも良いといった優れものです。中村さんが大事にしてきた「人脈」が生み出した産物です。
Writer_Y.Eguchi
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