木村牧場 木村誠
栃木県 那須塩原市 搾乳牛:60頭、経産牛:60頭 取材日:2023年11月29日
カビ毒問題への挑戦
記者「以前、カビ毒による問題に直面していたとお聞きしましたが、その時の具体的な状況やエピソードを教えていただけますか?」
木村さん「実際にカビ毒の問題に直面した時は、牛たちが軟便や食滞に悩まされていました。この問題に対処するために、アソードを導入しました。当初はカビ毒サプリを毎日50グラム程度使用していましたが、現在は10グラムに減らし、それでも効果的です。この変更により、毎月の使用量も減り、コストも毎月15万ほど抑えられるようになりました。」 記者「アソードの導入が牛たちの健康にどのような影響を与えましたか?」 木村さん「アソードを使い始めてから、軟便や食滞の問題が大幅に減少しました。すぐに効果が出たわけではありませんが、長い目で見ると、牛たちの健康が大きく改善されていることに気づきます。病気が減り、獣医を呼ぶ必要が少なくなったのは大きなメリットです。」 記者「導入するきっかけは何だったのですか?」 木村さん「導入のきっかけは、牛が砂利などを舐める行動が多く見られたことでした。鉱塩やミネラルの増量も効果がありませんでした。近隣の農家さんがアソードを使っていると聞き、導入を決めました。長い目で見て効果が出ることを理解していたので、根気よく続けることができました。」 記者「農業経営や牛の飼育にどのような変化がありましたか?」 木村さん「コマーシャルではないんですが、アソードをやるようになってから牛の異常や変化が少なくなってきてるのは間違いはないと思います。また、これによりコスト削減が実現しました。牛の健康状態が安定すると、牧草以外の飼料を減らすことが可能になり、経営の効率化に貢献しています。観察力を高めることが重要で、異常を早期に発見することで対処できるようになりました。」 自己評価は低く見積もれ
記者「木村さんは今の自分に足りない部分があると感じているそうですが、具体的にはどのような点ですか?」
木村さん「そうですね、私は常に自分に何が足りないかを考えています。特に、コロナ禍を経験してから、人との接触の大切さがより鮮明になりました。コロナの隔離状況は、私たちに多くのことを見直す機会を与えたんです。人間関係の重要性を再認識し、これからの農業経営にも大きな影響を与えています。」 記者「コロナ禍を経験して、農業経営における人との繋がりについてどのように考えが変わりましたか?」 木村さん「コロナ禍を通して、人との繋がりが情報の源泉であることを強く実感しました。インターネット情報だけでは不十分で、直接の人間関係から得られる情報の価値は計り知れないです。特に、農業の世界では、他の農家との情報交換が非常に重要で、互いに学び合うことで、全体の知識や技術が向上します。」 記者「農業経営において、自分の現在の取り組みに何点をつけるとしたら、どう評価しますか?」 木村さん「もし自分の牛舎の運営に点数をつけるなら、40点くらいかもしれません。理想にはまだまだ遠いです。自己評価を低く見積もることで飼料や牛の管理について、常に改善の余地を探し続ける意識が生まれます。」 記者「その残りの60点分、つまり改善の余地について具体的に教えていただけますか?」 木村さん「現在は特に自家飼料の質を上げることに力を入れており、最適な飼料を作るために試行錯誤しています。より良い飼料を作ることで、牛の健康と生産性を高めたいと考えています。近隣の農家さんで和泉さんという方は、牧草の質やデントコーンの栄養価を最大化する方法を模索しており、私もそのような高い目標を掲げています。しかし、気候の変動や収穫時期の管理など、難しい課題も多くあります。」 現実と向き合う農家の教訓
記者「木村さんにとって、農業や酪農に関する知識や技術を学んだ師匠はどなたですか?」
木村さん「私の師匠は一人ではありません。那須拓陽高校の斎藤達夫先生は、私の恩師の一人で、担任ではなかったものの、農業に対する考え方や生き方を学びました。また、酪農ヘルパーとして始めた際の先輩も師匠のような存在でした。彼らは私に厳しくも貴重な教えを授けてくれ、今の私の基礎を作り上げました。」 記者「斎藤達夫先生や酪農ヘルパーの先輩から、具体的にどのようなことを学びましたか?」 木村さん「斎藤達夫先生は、ただの教師ではなく、農業における真の理解者でした。彼からは、牛の飼育管理はもちろん、仕事の進め方や重要性について学びました。ヘルパーの先輩からは、農家がいない時に代わりに働くことで、実際の仕事の厳しさや農業の現実を学びました。彼らから学んだ知識と経験が今の私を形成しています。」 記者「新規就農者に向けて、農業における重要なメッセージは何ですか?」 木村さん「新規就農者へのメッセージは、夢を追う前に現実をしっかり見ることです。農業の世界は理想だけでは生きていけません。私たち長年の農家は、農業の厳しい現実を知っています。新しい農家は、夢を持つ前に、現実の農業の状況を理解し、それに基づいて計画を立てるべきです。これが農業で成功するための鍵です。」 アソード
アソードの多孔質形状がカビの吸着をするためカビ毒に悩まされることが減りました。
今では獣医代やその他の添加剤にかかる費用を大幅に減らすことができ経費削減に役立っているそうです。
Writer_T.Shimomuro
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須藤牧場 須藤晃
群馬県 前橋市 成牛:120頭、搾乳牛:95頭、育成牛全頭預託:40頭(北海道) 取材日:2023年11月28日
牧場とホテルの融合
記者「牧場とホテルの組み合わせは非常にユニークですね。この斬新なアイデアを思いついた背景について教えていただけますか?」
須藤さん「実は、このアイデアは私一人のものではないんです。ある日、異業種の方たちとの会話の中で、“須藤さんの活動ってホテルマンみたいですよね!”という話が出ました。それが「須藤牧場」の新たなる名称となったんです。」 記者「須藤牧場が持つ"酪農とホテル"というブランディングは経営においてどのような効果をもたらしていますか?」 須藤さん「最初からそのようにコンセプトが固まっていると従業員の教育がやりやすいというメリットがあります。自分たちはホテルマンであるという意識があれば牛に暴力を振るったりすることはもちろんないですし、ホテルマンとしての行動が芽生えていきます。また、うちの牧場では定期的にチェアリングや、イベントにスタッフ全員連れて行くようにしています。そうすると、直接お客さんと触れ合うことができ、感謝されたりリアルなコミュニケーションを取ることができホテルマンとしての心を育てるようにしています。」 群馬の未来を耕す
記者「須藤牧場といえば群馬トランスフォームプロジェクトというイメージがありますがその取り組みについて詳しく教えていただけますか?」
須藤さん「群馬トランスフォームプロジェクトは私と農事組合法人元気ファーム20の関根さん、そして群馬の稲作農家の方々と取り組んでいる耕畜連携のことを指します。飼料を作ってくれるのは稲作農家の方になるので最初は牛のお腹を満たせればいいという感覚になることは仕方ないところでした。しかし、私たちはホテルマン。ホテルマンとしてお客様である牛たちにより良い飼料を提供するべきだという思いのもと様々な試行錯誤、稲作農家の方々との積極的なコミュニケーションの果てに信頼を得ることができ良質なサイレージにする技術を得ることができました。直接牛の健康と乳量、乳質にはまだ反映されてはいないのですが、2週間ごとに飼料を調整し、常に最適な状態を保つことでより良い牛乳を作り出せるように努めています。」 記者「群馬トランスフォームプロジェクトロゴにはどのような想いが込められていますか?」 須藤さん「このロゴデザインは田んぼの田の字がモチーフになっています。田んぼの農家さんの考え方や意識を変えていこう、田んぼの使い方を変えていこう。そしてその想いが周りに広がって行くと農業自体がもっと良くなって行くという想いでつくっています。」
須藤さん「こちらのロゴは今ではとても有名な"農業をデザインする"という株式会社ファームステッドさんにデザインして頂きました。」
記者「事業展開についての今後の計画はどのようにお考えですか?」
須藤さん「当牧場の今後の展望は、まず継続が最優先で、そのためには法人化が不可欠だと思っています。法人化をすることで第三者にもスムーズに事業を引き継げるようになります。さらに、牧場の第三者継承も視野に入れています。継承するにあたり後継者育成は切っても切り離せないので、ここで経験を積んだ従業員たちが須藤牧場の第一牧場、第二牧場、第三牧場のように牧場を分けてそれぞれの牧場を経営してもらおうと考えています。」 記者「従業員の給料に関して、経営者と従業員の間に感じられる認識のズレについてどのようにお考えですか?」 須藤さん「給料に関する認識のズレは、確かに深刻な問題です。私たちは従業員に対して給料を1万円増やしたことを大きな努力と捉えていますが、従業員から見ればそれは些細なことに過ぎないかもしれません。このような感覚の違いは、事業の背景や経営の困難さを知らないことから生じるものです。そこは従業員との信頼関係が必要であり、信頼を築いていくためにはビジョンや理念が必要になってくるんだろうなと思います。」 他者のために生きる
記者「現代の若者とのコミュニケーションにおいて、どのような点を意識していますか?」
須藤さん「現代の若者は、環境意識が高く、社会的な価値観も大きく異なります。彼らは、単に給料の多寡だけでなく、仕事がどのように地球環境や社会に貢献しているかを重視します。私たちも、このような価値観を理解し、リスペクトすることが重要です。彼らがテクノロジーと共に育った世代であることを理解し、その視点から牧場経営に新たなアイデアや発想を取り入れることが、若者との良好な関係構築につながります。」 記者「障害者を雇用したことで、牧場の仕事のシステムや雰囲気にどのような変化がありましたか?」 須藤さん「障害者を雇用することで、私たちの牧場の仕組みやチームワークに大きな変化がありました。障害を持つ従業員を適切にサポートするために、より明確なコミュニケーションが取れるような工夫を行いました。これにより、他の従業員も自分たちの作業プロセスを再考し、改善に取り組むようになりました。障害者ができる仕事を基準にすることで、全員がより効率的に動くようになり、意外にも生産性が向上しました。このような変化は、牧場全体の働き方にプラスの影響を与えています。」
記者「社長が経営方針を決定し、現場は従業員に任せるスタイルについて、その効果について教えてください。」
須藤さん「社長が経営方針を決定し、従業員に現場を任せることで、従業員は自立して働く機会を得ています。例えば従業員を雇う場合、自分たちが採用を決めるようにするとその社員を大事に育てようという気持ちが芽生えるんです。 逆にここで社長が出て行ってしまうと、"社長が勝手に雇ったヤツじゃん"という感覚になってしまいます。現場は従業員に任せることで、物事を自分ごととして考えながら、組織全体の成長に寄与することができます。この経営スタイルは、従業員が主体的に行動する気持ちを育て、組織全体の成長を促進しています。」 記者「須藤さんが大切にしている「為に生きる」という座右の銘について、その具体的な意味とビジネスや私生活における影響について教えてください。」 須藤さん「「為に生きる」という座右の銘は、他人を最優先にするという考え方を指します。これは、ビジネスにおいて目先の利益を追いかけるのではなく、相手に勝たせ利益をもたらすことを重視する姿勢を意味します。私生活においても、家族やパートナーへの思いやりや感謝の心を大切にし、常に他者の幸せを考えることが重要です。この姿勢は、ビジネスの成功だけでなく、個人生活においても深い充実感と満足をもたらします。」 アソード
アソードを使うようになって当時悩んでいたガスだまりによる事故が激減したそうです。
その他にも牛の健康状態の改善に寄与し、今では須藤牧場にはなくてはならない愛用品です。
Writer_T.Shimomuro
高塚牧場 中村俊介
熊本県 人吉市 経産牛:241頭、子牛:64頭 取材日:2023年9月29日
ムリ、ムダ、ムラなく
記者「 俊介さん、自衛隊での音楽隊活動とその後の酪農経営への転身は非常にユニークな経歴ですが、自衛隊での経験が現在の経営にどのように役立っていますか?」
中村さん「自衛隊での厳しい訓練と多様な任務経験は、酪農経営に大きな影響を与えました。特に、隊員としての規律と協調性は酪農業の現場でも大切な要素です。音楽隊での経験は、厳しい環境下でも精度高い演奏を求められるため、酪農経営における「ムリ、ムダ、ムラなく」という経営理念の実現にもつながっています。組織運営のスキルとチームワークの重要性を自衛隊で学んだことが、今の経営の基盤となっています。」 記者「「ムリ、ムダ、ムラなく」という経営理念は魅力的ですが、具体的にはどのような取り組みをしていますか?」 中村さん「この理念は私たちの経営の指針です。まず、「ムリなく」では、従業員の負担を考え、適正規模での機械化を進め、効率的な運営を心掛けています。次に、「ムダなく」では、投資の採算性を徹底的に精査し、無駄なコストを削減。最後に「ムラなく」では、健全な環境下での飼育管理を徹底し、乳量の安定化を図っています。これらの取り組みにより、持続可能で効率的な酪農経営を実現しています。」 災害から希望へ
記者「地域活動や酪農業界でのリーダーシップについて教えてください。」
中村さん「 地域活動への積極的な参加は私たちの使命と考えています。JAくま青壮年部の部長として長年活動し、地域の発展に寄与した経験は、令和2年からの球磨酪農農業協同組合の青壮年部長、熊本県酪農青壮年部協議会の委員長など、さらに大きな舞台での活動につながりました。全国酪農青年女性会議の委員長に推されるなど、経験の浅さを感じながらも、酪農業界の若手が積極的に参加し、新たな風を吹き込むことに意欲的です。」 記者「 令和2年7月の豪雨でのご経験について、具体的にお聞かせいただけますか?」 中村さん「 あの豪雨は忘れられない経験でした。消防団部長としての立場で、私は自分の牧場の被害を顧みず、人命救助を優先しました。3日間自宅に帰らずに救助活動に奔走したことは、農家としてだけでなく、地域社会の一員としての責任を感じた瞬間です。その後も、災害復旧作業に精力的に参加しました。今も牧場に消防車を置き、消火活動に出動するなど、地域の安全を守るための準備を怠りません。」 牧場の未来を変える「FUNTO」:エコな挑戦
記者「高塚酪農組合が導入した「FUNTO」システムについて、その特徴とメリットを教えてください。」
中村さん「「FUNTO」システムの最大の特徴は、家畜の排せつ物を繰り返し再生し、環境に優しいサーマルリサイクルを実現している点です。低コストで敷料を再利用し、戻し堆肥として有効活用できるため、従来の糞尿処理方法に比べて大幅なコスト削減を実現しました。また、環境への影響を軽減することにも貢献しています。このシステムにより、往復1時間以上かかっていた糞尿の運搬と処理時間が大幅に削減され、作業効率が格段に向上しました。」 記者「「FUNTO」システムの導入過程での挑戦や改良点について教えてください。」 中村さん「「FUNTO」システム導入の初期には、処理量が見込みに届かないという課題に直面しました。しかし、私たちは試行錯誤を重ね、何度もの改良を経て、ついには一日の糞尿分を処理できるようになりました。これらの改良によって、初期投資の低減も実現しました。また、高塚酪農組合での実績が認められ、クラスター事業の補助対象となり、今後の導入時にはさらなる効率化が期待できるようになっています。」 記者「このシステム導入による牧場経営や環境への影響はどのようなものですか?」 中村さん「「FUNTO」システムの導入による最大のメリットは、牛舎内の環境改善です。敷料の再利用により、牛舎内がより清潔に保たれ、乳房炎の減少につながりました。これは、乳量や乳質の安定化にも寄与しています。また、糞尿の外部散布が不要になったことで、コスト削減はもちろん、周辺環境への影響も軽減されています。結果として、私たちの牧場はより持続可能で効率的な運営を実現していると言えます。」 記者「 今後の「FUNTO」システムの展望や他の酪農家への影響についてお聞かせください。」 中村さん「「FUNTO」システムは、今後も酪農業界において大きな可能性を秘めています。私たちの牧場での成功例が他の酪農家にも影響を与え、より多くの牧場でこのシステムが採用されることで、業界全体の環境負荷の軽減と効率化が進むと考えています。このシステムの普及により、酪農業界のさらなる持続可能性と環境への配慮が強化されることを期待しています。」 FUNTO
FUNTOの建設は酪農の師匠からのご紹介がきっかけだったそうです。FUNTOの導入で以前まで堆肥の運搬に往復1時間かかっていた作業をなくすことができました。また、環境にもよく牛たちの状態にも良いといった優れものです。中村さんが大事にしてきた「人脈」が生み出した産物です。
Writer_Y.Eguchi
球磨酪農育成牧場
熊本県 球磨郡 育成牛:400頭 取材日:2023年9月28日
預託牧場の飼料と献身
記者「預託牧場というと人の牛を預かるという通常とは違うこだわりがありますよね!中でも飼料についてはどんなこだわりを持たれているのですか?」
淵田さん「私たちは栄養管理にとても力を入れており、「育成20」という森永の配合飼料を使用しています。これは主に離乳後の牛のためのものですね!妊娠後期の牛には「MD18」という別の配合飼料を与えています。また、地元の酪農家や牧草を余らせている農家から牧草を購入することで、必要な栄養を牛たちに与えていますよ!」 記者「タイミングに応じて使う配合飼料を変えているんですね!牛を預かる上での難しさなども教えてください!」 淵田さん「農家さんに納得していただきながら健康管理を進めていくと言うところが難しいと思います!異常がない状態の牛も、入牧してからストレスや病気に見舞われることがあります。そのため、定期的なワクチン接種や予防接種は欠かせませんね。ですがそれでも流産などの事故は避けられません。特に未経産牛は事故率が高いため、預けていただいている農家さんに対してリスクを認識してもらう必要があります。牛が集団で飼われる環境になるため、群れの中で弱っていくことも起きてしまいます。綿密な観察を行うことで早期発見できるようにしています。」 記者「日々の牛舎チェックがポイントになると言うことですね!健康状態は季節要因なども大きく関わりそうですね。」 淵田さん「季節に応じた対処も重要ですよ!夏は暑さからくるストレスが流産の原因となりやすく、冬には寒さが子牛の下痢や風邪の原因となります。そのため、適切な量の飼料を与えて、必要に応じた治療を行いながら、日々の管理を怠らないよう努めています。このような環境の中で種付けに最適な時期を見極め、細かく農家さんに情報共有しています。退牧前は獣医の鑑定を通じて健康状態を確認し、安全と健康を優先した上で農家さんに返すようにしています。」 農家の誇りと原動力 - 『牛が1番』という生き様
記者「淵田さんの座右の銘を教えてください。」
淵田さん「「牛が1番」ですかね。牛が私たちの仕事の中心なので!畑の仕事も大切ですが、健康な牛がいなければ始まらないんです。例えば、扇風機が壊れた時はほかの作業をしていても牛たちが暑さでストレスを感じないように真っ先に修理しました。農家さんの牧場にいく時にたまに思うんですけど、自家用車やトラクターにとてもお金をかけている人がいます。けれど、牛舎に行くとボロボロだったり、だいぶ古いバルクを使っている農家さんがいたりするんです。どこにお金をかけてもいいと思うんですが本当はそっちにお金をかけるべきなんじゃないかなと思いますね。そういう気持ちが後々健康な牛に繋がっていくと思うんです。」 記者「淵田さんの牛への愛が伝わってきます!淵田さんは牛が好きで畜産業界に入ったんですか?」 淵田さん「もともとは建設業にいたんです。ですが以前の会社が倒産しちゃって。そこで知人からたまたま声がかかって20歳の時に畜産業界に転職し、今に至ります。経験を積むうちに牛への愛情も深まっていきました!」 記者「全く異業種からの転職だったのですね!?スタッフの方はどうなんですか?」 淵田さん「今いるスタッフは、最短で1年、最長で3年の経験者ばかりです。最近は若いスタッフが多くなりましたが、それでも日々の観察を怠らず、健康な牛を育てています。私たちの仕事は常に観察が大切で、小さな変化にもすぐに気づけるよう教育しています。」 永田浩徳という名の指針
記者「淵田さんが尊敬している方はどなたですか?」
淵田さん「たくさんいますが一番は株式会社アドバンスの社長、永田浩徳さんですね。彼の経営する育成牧場は300頭規模で、社長の考え方や環境が素晴らしいんですよね!まず彼の牧場では、状態の悪い牛の預け入れは断っているそうです。そしてその農家に行って状態の悪い牛を作らないように酪農家の視点でアドバイスまでしてくれるそうです。」 記者「なるほど!酪農家の経験を踏まえたアドバイスまでされているんですね!他にもお聞かせください。」 淵田さん「牛舎もストレスや病気が少ない飼育環境になっています。うちも新しい牛舎を立てようと思っていて通気システムはアドバンスさんの牛舎を参考にさせてもらっているんですよ!それだけ学べることも多く、考え方や経営のやり方まで尊敬していますね!」 記者「ありがとうございました!」 アソード
アソードに含まれる酸化鉄が下痢や健康状態の改善をサポートするため愛用しているそうです。
Writer_Y.Eguchi
山田牧場
熊本県 阿蘇郡 成牛:120頭、育成牛:80頭 取材日:2023年9月25日 トウモロコシ畑:20ha
はじめに
乳製品が豊富に店頭に並び、多くの人々が毎日飲む牛乳。しかし、その牛乳がどのようにして私たちの手元に届くのか、実は知らない人が多いのが現状です。特に現代の小学生たちは、牛乳がどのように作られるのかを知らない子供が多いと言われています。そこで、山田さんが運営する牧場では、小学生に対して搾乳体験を提供しています。このような取り組みを通して、「食の応援団」という有志の団体も立ち上げ、酪農の知識を広めようとしています。この記事では、山田さんがどのようにして「酪農家から酪農経営者」へと成長し、地域社会に貢献しているのかについて紹介していきます。
地元で生きる、地元で育む
ーー山田さんの牧場で行われている小学生への搾乳体験はどんな目的で始められたのですか?
今の小学生たちは給食でいつも飲む牛乳が牛から搾られていることを知らない子が多いんです。そういう子達に正しい知識をつけて欲しいという思いで「食の応援団」という有志の団体を立ち上げました。その一環で行われているのがこの搾乳体験です。子供たちが自分たちで乳搾りを通して正しい知識を付けてもらったり、「美味しい」と言って飲んでもらったりすることが私にとってのやりがいの一つとなっています。搾乳体験を通して地方と北海道の酪農の違いについて触れています。テレビのようなメディアでは、北海道の酪農が新鮮であるといったイメージで描かれることがありますが、実際には搾乳後の工程や配送距離の問題で消費者の手元に届くまでに時間がかかります。そういった意味で地方の牛乳の方が実は新鮮さが保たれやすいんですね。イメージは北海道の方がいいのが現状ですが、新鮮さでいうなら地方の牛乳の方が優れています。つまり「旬で飲むか、イメージで飲むか」ということです。北海道の牛乳が悪いというわけではなく正しく知ることで地方の牛乳の良さを最大限に知ってもらいたいという願いが込められています。 ーー若い人たちに正しく知ってもらうという取り組みはすごく大事ですね。ソフトクリームなど乳製品の販売を始めようと思ったきっかけも教えていただけますか? 自分で搾った牛乳を生産調整で捨てるのは心苦しいので、それが1/3でも1/5でも売れるだけ売ろうという思いで始めました。はじめは知らなかったのですが乳製品の販売には乳処理業の免許が必要だと言われ、ゼロから勉強しましたね。 酪農家から酪農経営者へ
ーー新規事業を始めるにあたって多くの困難に直面されたことと思います。どのような信念をもって乗り越えていったのでしょうか?
昔から大切にしている考え方があります。それが「酪農家ではなく酪農経営者であれ!」という考え方です。これは常に言い続けている言葉です。例えば台風が来たとするじゃないですか?一般のサラリーマンなら台風が来ても屋根のある事務所の中で仕事をすることができます。ですが、酪農はそういうわけにはいきません。台風が来ると牧草は濡れ、牛舎は大きな被害を受けたりもします。そのような自然災害というリスクと戦いながら生活していく必要があります。加えて現代の酪農は世間的にも大変厳しい状況だと言われています。ですのでただ乳搾りをしているだけで満足していたらこの環境で生きていくことができません。起業家、経営者として酪農で経営をする心を持ち利益を上げていくことを人並み以上に考えながら取り組むことが大事です。 ーー酪農経営者は農家の知識以外にも経営の知識などが必要だと思います。経営の知識の中で山田さんが大事にしている考え方など教えていただけますか? 経営においての基本は「人・物・金」です。この3つすべてがそろっていないと経営はできません。酪農家は乳を搾ることだけに考えが寄ってしまいますが酪農経営者なら「人・物・金」に考えを巡らせ、商品開発やレストランの経営状況、お店の品揃えなどなどすべてのことに目を光らせる必要があります。お金をつぎ込めば誰にだっていい商品は作れますが、それをいつまでにさばいてしまうのかまで追求します。そこを追求しだすと「早く売らなければいけない」という考えになり、次は安売り競争に転じてしまう。そうなってしまうと利益がなくなってしまいます。酪農経営者になるだけなら簡単ですが利益を追求するというところまで考えるととても大変ですね。 後退せず前進のみ
ーー酪農家が酪農経営者になっていくためには考え方から変えていく必要があると感じましたが、山田さんはどういうモチベーションを持って変わっていったのでしょうか?
私は「挑戦」という言葉がすごく好きで、常に前を向きに挑戦していく気持ちを大切にしています。死ぬまで勉強を続けることで成長して来れた気がします。「俺の人生にバックギアはない」。障害物が現れても、様々な方法を考え前に進み突破していく。自分の人生には後戻りするつもりがなく、バックギアを使用することはありません。さらなる成功を目指し、それを伝えたいと思っています。 ーー最後に今後酪農を始める方々に伝えたいメッセージをいただいてもいいですか? 酪農には完成はありません。これで満足するということはありません。誰でも右肩上がりの人生を送ることを願いますが、人生はそんなにうまくいかない。どこかには必ずぶち当たります。人生を一直線で進むことはありえません。挫折や悪戦苦闘しながら前に進んでいきます。成功するためには様々なルートがあります。一直線で進めなかったら、別の方法で挑戦してみることも考えます。生きていればどうにもこうにもならないことがたくさん起こりますが、そんな時は「ピンチはチャンス」と思ってください。ピンチの状況でも挫折せずに前に進めばチャンスをつかみ取ることができます。誰もが一人ではありません。人とつながりを持ち、わからないことがあれば頼る。そのために「人・物・金」。人を動かすために努力して立派な酪農経営者になってください。 編集後記
「人生、死ぬまで挑戦」。この言葉が山田さんの哲学を象徴しています。酪農という厳しいフィールドで、ただ乳を搾るだけでなく、地域社会に貢献する方法を模索し、若者に知識を伝え、乳製品のビジネスまで展開。それはすべて、挑戦の連続であり、後戻りすることなく前に進む姿勢から来ています。山田さんが大切にしている「人・物・金」の三要素は、酪農だけでなく、どんなビジネスや人生にも共通する普遍的な要素です。私たちも、山田さんのように「挑戦」を心に留め、人生の各局面でその精神を実践すれば、多くのことが変わるでしょう。最後に、山田さんの挑戦と情熱がこれからも多くの人に感銘を与えることを願っています。
アソード
今後乳質の改善も視野に入れ商品の質を高めていきたいそうです。
アソードの乳質改善効果についてのポテンシャルに期待しているとおっしゃっていました。
Writer_T.Shimomuro
谷川牧場
熊本県 人吉市 搾乳牛:90頭、子牛:60頭 取材日:2023年8月29日
はじめに
美味しい牛乳は、牛の健康と飼育環境によって大きく左右される。この度、人吉の酪農家である谷川さんを取材しました。谷川さんは自家牧草の栽培や竹サイレージの導入、子牛のケアなど、独自の飼育方法で牛の健康を維持し、高品質な牛乳を生産しています。この記事では、「青春は牛と共に」という谷川さんの思いのもと行う飼育方法やこだわりについて紹介していきます。
酪農家の魅力的な給餌戦略
ーーまずは牛舎と飼料について、大切にしているポイントを教えていただけますか?
うちでは飼料については、自給飼料とオーツヘイ、そしてビールかす等を積極的に給与しています。特に、大和フロンティアさんが提供する竹サイレージは、臭いの問題を解決するために大変役立っています。竹サイレージの導入以降、周辺住民からのクレームも減り、地域との良好な関係を築いています。また、ビールかすは乳脂肪率の向上に貢献し、品質の高い牛乳を生産する基盤を提供しています。 ーー自家牧草についてもう少し詳しく教えていただけますか? 自家牧草の栽培において、私たちは環境への負荷を最小限に抑えることを心がけています。これは、経済的な観点だけでなく、持続可能な農業を実践するための取り組みでもあります。人工肥料を過度に使用することは、財政的な課題につながるだけでなく、周辺地域への悪影響も考慮しなければなりません。そのため、自分のところで出た堆肥を使って自家牧草の栽培をしています。 子牛への目配り・気配り・心配り
ーー子牛の成長に合わせた飼養方法について教えていただけますか?
生まれて7日間ほどは、子牛を自分たちの目の届く範囲に置いて、ホルダーでしっかり飲めるようになるまで細かく面倒を見るようにしています。子牛が十分な量の初乳を摂取できているか、下痢や肺炎などになっていないかなど。生まれたばかりの子牛はデリケートなため細心の注意を払っています。その後哺乳ロボットに移行した後も哺乳ロボットに対して恐怖や不信感を持たないようにサポートしながら切り替えていきます。 ーーしっかり自分で哺乳ができるまで特別にサポートしてあげるのですね。 そうですね。今はまだできないのですがいつかは哺乳ロボットの近くに個別飼育できるようなペンを作ってあげたいですね。子牛たちも私たち自身も安心して育てることができる牛舎にしていきたいです。 手順の工夫が牧場の成功へ
ーー牧場の実績とそこに至るまでの努力について教えていただけますか?
私たちの牧場は、搾乳手順の改善により、乳質が向上しました。以前の体細胞数は17万程度でしたが、2年間通った札幌の専門学校の八紘学園で学んだ知識のおかげで現在は10万を切る水準に改善されました。この改善により、牛乳の品質が向上し、消費者により美味しい牛乳を提供できるようになりました。ただし、乳脂肪率が下がってしまったため、この課題に対処する方法を模索中です。去年、県の乳質の良さを決める大会で優良賞を受賞し、それ以降も改善に努めています。これからもより質の高い牛乳を提供できるよう、努力を続けていきます。 編集後記
谷川さんの牧場を訪れて、私たちは改めて酪農家の青春と情熱を感じました。谷川さんは、牛たちを大切に思う気持ちと、より良い牛乳をつくりたいという想いが強く、そのこだわりが給餌戦略にも表れています。
竹サイレージの導入や自家牧草の栽培、子牛への手厚いケアなど、谷川さんの独自の取り組みは、酪農を青春のように楽しむ姿があってのものなのでしょう。これからも、谷川さんが「青春」の気持ちを持ってより美味しい牛乳を届けてくれるのが楽しみです。 竹サイレージ
牛舎内のニオイ対策で使用しているそうです。
竹を主原料としたサイレージで牛たちの嗜好性も高く谷川牧場の愛用品なのだそうです。
Writer_T.Shimomuro
株式会社COLLECT
熊本県 阿蘇市 経産牛:470頭、育成牛:300頭、子牛:130頭 取材日:2023年8月31日
はじめに
渡邊さんは、ただ牛を飼うだけでなく、その食べる草一つ一つにまで情熱を注いでいます。独自の哲学とともに畜産経営を展開し、常に高い品質とサービスを追求しています。渡邊さんが考える“努力と結果”の関係、独自の「積み木理論」での経営判断、そしてその全てを支える家庭の存在。その多面的で深い洞察は、牧場運営だけでなく、多くのビジネスパーソンやこれからの生き方を考えるすべての人に貴重なヒントを提供してくれるでしょう。この記事では、渡邊さんの畜産経営における独自の哲学と、その背後に流れる深い思いについて紹介していきます。
牧草哲学と師匠
ーー牛に与えるエサについてこだわりを教えて下さい。
牧草にはこだわっていますね。牧草の作り方が良くないと美味しくない牧草ができてしまいます。牧草には見分け方があって肥料が悪いと黒っぽい草になるんですが、いい肥料で育った草は南国の海のように青く透き通った色になります。夕日に当てるとすごく綺麗な淡い青色に見えるので、春は必ず見に行って今年の生育の良し悪しの判断をしています。 ーー渡邊さんが牧草の知識を学ぶ上で師匠としていた方はどなたですか? ファームテックジャパンの東出社長です。東出社長は牛のこと、土のこと、堆肥のことについて大変勉強させていただきました。いい堆肥にはミミズができて悪いものには蛆が湧く、発酵してるのか腐ってるのか、そのことを深堀して教えていただいていました。 努力と結果、そして「積み木理論」
ーー渡邊さんが畜産経営において考えている理念などあれば教えてください。
努力すれば結果が出るっていいますが、こんなの当たり前だと思っていて、それに加えて結果があるものに対して努力 しなくちゃいけないという考えはあります。結果が先を行ってるから努力しても努力しても追いつけないぐらいでなければいけないと20代の時に言われました。その当時は何を言ってるのかわからなかったのですが、ようやくその理屈がわかり始めたかなと思っています。つまりお客様の持つ次から次に湧き上がる需要を満たし続けるために絶え間ない供給を続けていくことが大事ということです。 ーー自分に厳しく努力をし続けることが大事なのですね。そのモチベーションを維持するための秘訣は何ですか? 目標を持つことです。1年間の目標を私の頭の中で考えて「これは絶対やり遂げる!」と決めて1日ずつ達成に向けたハードルを越えていくことが重要です。その際に他人と競争してはいけません。「あの人に勝つんだ」と努力して本当に勝った時にまた「次のあの人に勝つ!」と次々に目標を探すことになりキリがないです。なので自分の目標を自分で作って、「どうその目標をクリアするか?」を常に考えるようにしています。 ーー目標に向かって進む際に経営者として悩むことは多々あると思いますがその悩みとどう向き合っているか教えてください。 私の場合は必要なもの、不必要なものを「積み木理論」で組み立てて判断するようにしています。「これをするためにはこれが必要」というのを積み木のパーツで例えて詰んでいくのです。そうすることで「今何をしなければいけないか」が明確になるので無駄に悩むことがなくなります。また、物事を「点で見る」ことを「線で見る」ように変えていくことで見る世界が変わった経験もしました。「自分は朝早くから仕事してようやくここまできたのに、あの人はもっと先まで進んでる。なんて自分はできないやつなんだ」と思っていた時期もありました。ですが実はその人たちは私がやっていることをやっていなかったりと、そこに至るまでのプロセスが自分と大きく違っていたのです。その瞬間「点」だけではなく過程「線」に視点を変えることが悩みの解決に結びつくことがあるのだと実感しました。 人生哲学と妻の支え
ーー今から就農される若者に伝えたいことなどありますか?
私の持論で人生は3段跳びと似ていると思っています。10代、20代は助走期間で、ここで助走を頑張った人が30代でステップを跳べます。またこの30代でも失敗する人は出てしまうのですが、助走を最大限に生かして大きくステップを踏めたら40代でジャンプに繋がります。この40代で体制崩さず躍進できれば60代で着地できると思います。60代まで跳び続けることが必ずしもその人の幸せとは限りませんが若いうちにサボってしまうと30代のステップで跳べないので一生懸命助走してほしいです。 ーー最後に渡邊さんを影で支えているかおるさんの存在について教えてください。 そうですね。家内がいなかったらやはりここまで大きくはならなかったと思います。家のことも一人でやってくれています。最初はまだ子供も小さかったので牛のことは全て私一人でやっていたのですが一人ではだんだん手が回らなくなっていきました。それを見て家内が子牛を見てくれるようになりました。子牛が手から離れたのはすごく大きかったですね。経営をしていく中で社長にしかわからない悩みというのはありますがそこを一番理解してくれる唯一の存在が家内です。いつも感謝しています。 編集後記
渡邊さんにお話を伺い、何より感じたのは「感謝」です。家庭を始め、自然、牛、そして師匠との出会いまで、全てに感謝の意を示しながら努力を積み重ねてきたからこそ、今の成功があると思いました。渡邊さんの独自のこだわり、それはただ単に経営の成功を目指すのではなく、関わるすべての要素に感謝の心があったのだろうと感じます。その心こそが、経営者として、そして人として大切なことであるとこのインタビューを通して強く感じました。
タンカー
写真にも納まりきれないスケールを持ち、周囲も「あの巨大なタンカーの会社」と言うほどのインパクトです。株式会社COLLECTのシンボルとなるほどのこのタンカーは30トンもの堆肥を積載できるそうです。堆肥作業が圧倒的に楽になったと話されていました。
Writer_T.Shimomuro
佐藤牧場 佐藤翔悟
熊本県合志市 搾乳牛:35頭 取材日:2023年8月28日
①一歩踏み出す、自信と努力― 酪農をはじめたきっかけは、ある人の一言から スタートは「経営がしたい」と思ったことです。高校卒業後は一般企業に就職しましたが、毎日不満に思うことが多く、上司に嚙みついてばかりでした(笑)それは決して上司が悪いのではなく、私自身に問題がありました。指示されて動くということが向いていなかったと思います。この経験のおかげで、私は“自分で考え、自分でやっていく”ほうがいいと気づくことができました。 しかし、特にやりたいことがあっただけではありません。そんなとき、酪農家の友人・松野佑哉さんのお父さんから「じゃあ、お前も酪農せんか」と言われました。松野さんとしては軽いノリだったのかもしれませんが、その言葉をきっかけに酪農に携わるようになりました。 ― 酪農ヘルパーを9年、新規就農を決意 もちろん酪農のことはさっぱりわからなかったので、勉強のために酪農ヘルパーを始めました。結果的に9年間、ヘルパーとして働いていましたが、その間に自分で牧場を持って酪農をするタイミングを見計らっていました。 私が酪農経営を始めるタイミングは、“松野さんに認めてもらえてから”ということが絶対条件でした。ヘルパー時代、いろんな牧場で働いていると「自分で酪農始めなよ」と言っていただくことも多かったです。しかし、私は松野さんからのGOサインがないと始めないと最初からから決めていました。 ― 気持ちの波、不安との葛藤 正直言うと、ヘルパーをしながら経営の厳しい牧場もたくさん見てきました。それを目の当たりにすると、“絶対にやってやる”という気持ちにも不安が芽生えます。やりたい、でも本当にできるのかという気持ちの波がずっとありました。 ただ、ヘルパーとして働く上で、自分の中に必ずあったのは「いつか酪農をするかもしれない」という意識です。もしかしたら酪農はできないかもしれない、でももし始めたときのために農家さんに積極的に入り込んで質問することを常に意識していました。 ― 作業ではなく、身につけること ヘルパーって下手したらただの作業になってしまいます。私が9年間大事にしていたことは、いろんな牧場で働く経験を無駄にしないことです。「なんでこの牧場の牛はこんなに乳量が多いんですか?」「酪農経営ってどんな考えでやっていますか?」など、いろんな経営者に常に質問していました。 いいと思ったところはもちろんですが、良くないと思ったところはなぜそうやっているのかを聞くようにしていました。そうすると、自分が気づいていなかったメリットがあったりします。ヘルパーが何の質問してんだって思われていたかもしれませんが(笑) いろんな牧場のたくさんの情報の中から取捨選択し、整理した結果、私の今の酪農経営になっています。いろんな引き出しを持てたことは強みだと感じます。 ― 自信を持つための努力 新規就農は自信がないとできません。新規就農をしたいと言うのは簡単ですが、一番難しいのは“一歩踏み出す勇気”を持つことです。農大生や従業員として働く若い人たちの中には新規就農したいと思っている人はたくさんいます。しかし、研修や実際働くなかで厳しさを知り、離脱していってしまうことが9.5割です。 多くの人の最終的な壁が、“踏み出す一歩”です。その勇気の一歩を踏み出すために大事なことは自信を持つことです。自信がないとできないし、自信があれば始めるんです。私は自信しかありませんでした。 しかし、その領域まで持っていくには、勉強が必要ですし、努力が必要です。いっぱい経験をしないといけません。新規就農するには“踏み出す勇気”が必要ですし、その勇気の一歩には“自信”が必要で、その自信には“努力”が必要です。 ②士気が上がる環境を意識的につくる― 環境が大切 新規就農するには環境も大切だと思います。ヘルパーのときから大事にしていたことが酪農家と付き合うことです。私はヘルパーで留まりたくなかったですし、意識的に同世代の酪農家が集まる場所に飛び込んでいっていました。 それはモチベーションにも繋がっていました。周りが羨ましく見えて、やっぱり酪農っていいな、俺もこの仲間と一緒に酪農したいなと思える場所でした。おそらくこの環境がなければ酪農はしていないと思います。 ― 負けたくないという気持ち そして、その環境にいると負けたくないという気持ちが湧いてきます。ヘルパーって酪農家より少し下にいる気がして悔しい気持ちがありました。やっぱり同じ土俵で一緒に酪農がしたい、もっと頑張らないといけないと思っていました。 憧れや悔しさ、いろんな影響を与えてもらった環境です。 ― 酪農経営がスタートしてからも 最初は牛が一頭もいません。ヘルパーでお世話になっていた農家さん一軒一軒に話をし、牛を譲っていただけないかお願いしました。結果、最初は25頭からスタートし、半年で乾乳牛も含めて40頭になりました。約35頭は農家さんから譲っていただき、残りはセリで導入しました。 私はヘルパーをしていたおかげで農家さんと繋がりがありました。多くの方々の援助のおかげで始めることができたと思います。 ③行動する前に考える― 直接的利益に手をかける 経営をしていく上で、利益を生むところに手をかけ、直接的な利益にならないところはアウトソースするように意識しています。 例えば、私にとって利益になるのは乳や肉です。コストを抑えるために自給飼料ばかりを頑張って作ることは、コストが抑えられても時間がかかります。その結果、牛の状態も見られなくなり、乳量が下がったり、乳質が落ちたりすると元も子もないのです。 可能なところはアウトソースし、大事なところは自分でしっかりやります。 ― 行動する前に考える “どこに手をかけるか”と同じくらい、“どこで手を抜くか”も重要だと思います。どういうことが必要で、どういうことがいらないか、行動する前に考えることです。 何のために利益を出すのか、私の答えは自分のためです。時間もお金と同じくらい大切なので、自給換算での利益を追求するようにしています。 週一休みを取り、自分の時間、家族との時間をつくることも大切だと考えます。 ― 今の情勢を乗り越えていることが自信になっている 私が新規就農してから、酪農業界の情勢は厳しくなっていきました。この状況下、酪農経営を継続できていることは、ある意味自信となっています。 ― 改めて、酪農家として新規就農して良かったですか? 今の環境は私にとてもマッチしています。全くストレスがなく、いい選択ができたと思っています。
中村牧場
熊本県 人吉市 搾乳牛:100頭 取材日:2023年8月28日
はじめに
一頭一頭の牛が健康であるためには、日々のケアが欠かせません。さらに、そのケアを担当するのは人間であり仲間です。この仲間たちがどのように連携し、どう情報交換と切磋琢磨を重ねているのか。仲間の存在というのがこの畜産という大変な仕事を頑張るモチベーションとなるのです。
この記事では、日常のルーティンワーク、暑熱対策、そして最も大切な「仲間」について紹介していきます。 日常と牛たちの微細なシグナル
ーー中村さんは日常におけるルーティンワークではどのようなことに気を付けていますか?
牛たちの異変にいち早く気付くよう心がけています。たとえば、牛が首を地面につけて寝ている場合、何か異常が起きている可能性が高いです。さらに、耳垂れが起きていると、マイコプラズマ(中耳炎)の可能性ががあります。 また反芻をあまり行わない牛がいたら要注意ですね。夏場の暑い季節では暑熱によるストレスで反芻の回数が減る牛もいたりするので。反芻がうまく行われないとルーメン内の微生物の活動効率が下がりうまく栄養を摂ることができないのです。熱を測ったり、考えられることをやって解決しないようだったら獣医さんを呼んで対処しています。 こうしたルーティンワークは、牛たちに起きる数々の問題に対して適切な処置を行うために不可欠です。 暑熱対策〜ソーカー〜
ーー牛たちが暑さにどのように対処しているのか教えてもらえますか?
牛舎の暑熱対策は非常に重要で、うちではソーカーと呼ばれる装置を10年前から使っています。ソーカーとは首元に水をかけて体温を下げる機械のことですね。人間は肌が露出しているので水にぬれて風が当たると涼しく感じますが、牛は毛で覆われているため体温調節が難しいんです。 5月くらいから10月くらいまで、特に気温が高い時期には、このソーカーを使用しています。 一般に使われる細霧は使い方が難しく、季節やタイミングを見て使わないと、湿度が上がりすぎるなど逆効果になってしまうこともあります。その点、ソーカーはタイマー式で調整可能なのでそういった心配がありません。ですから、牛舎環境を良好に保ちながら、暑熱対策しています。 仲間の力と至福のひととき
ーー畜産経営において「仲間」とどのように協力しているのかお聞かせください。
畜産経営は、一人では困難な作業がたくさんあります。だからこそ、情報交換や切磋琢磨が欠かせません。私の住んでいるこの木上地区は仲がいいと周りから言われていて、牧草の収穫など大きな作業が終わるたびに、打ち上げがてらみんなで集まって飲んでいます。これが仲間との絆を深める大事な時間です。 仲間と一緒に働き、共に問題を解決していく過程が、この仕事のやりがいなのかなぁと思いますね。 編集後記
個々のスキルや知識はもちろん重要ですが、それを高め合い、集結させて初めて大きな力となります。中村さんが語る「幸せ」とは、仲間とともに過ごす時間や、大きな作業を終えた後の打ち上げでみんなで笑い合っている瞬間です。この取材では、そのような独特の絆と共同体の美学が垣間見れました。おそらくこれが、農家の方々がこの厳しい仕事を続ける原動力であり、私たちが美味しい牛乳や肉を食べられる秘訣なのだと思いました。
ソーカー
ソーカーはタイマー式の噴水装置のことで牛の暑熱対策に用いられます。温度センサーも付いており設定の切り替えも自動でできるため気温の状態に合わせて最適な暑熱対策が行えるのだそうです。
Writer_T.Shimomuro
有限会社ドリームファーム山本
熊本県阿蘇市 搾乳牛:90頭 養牛:親牛100頭 子牛100頭 取材日:2023年5月24日
はじめに
阿蘇の自然に囲まれた豊かな環境で牛を育てる山本牧場。その経営を支えるのは凄腕の酪農家、山本隼人さん。山本さんの働く牧場では、一頭当たりの搾乳量が平均を大きく超える驚異的な40㎏台を記録し、酪農業界でその名を轟かせています。話を伺ってみると、山本さんは気さくな人柄で、その中には牧場運営への熱い思いと、一貫したゆとりを持った運営スタイルが感じられます。この記事では山本さんの運営スタイルや取り組みについてご紹介します。
牛への優しさ
ー山本さんの牧場の特徴やこだわりは何ですか?
私たちの牧場で重視しているのは、牛への最適な環境作りですね。健康面で言うなら、「アソード」というA飼料を使って、病気や下痢の予防に最大限に配慮しております。色々な飼料や添加剤を試してきた中で、牛たちが元気になり、食いつきよく食べるのでアソードを選びました。環境面では、牛舎内の清潔さにもこだわっています。牧場付近は牛の生活臭が漂うものですが、私たちの牧場はほとんど臭いません。 ー確かに場所によっては嫌な臭いがする農家さんも多いですが、山本さんの牧場は全く臭いませんね。 アソードにも臭いを吸着する作用がありますが、それに加えて隅々まで行き届いた日々の清掃があってこそだと思っています。堆肥場に行ってもほとんど臭いがしないので来場される方々にいつも驚かれています。 「遊び心」を持つこと
ー山本さんの牧場は業績を伸ばしているとお聞きしましたが具体的な実績など教えていただけますか?
一般的に乳牛の搾乳量は30kg程度と言われますが、うちでは1頭あたり40kg以上の搾乳を行っています。追い込み(※1)たくても追い込めないというのが酪農家の現状ですが、ストレスを与えないよう牛たちへ細かなケアを行うことで追い込むレベルを上げています。 ※1 追い込む:牛の健康状態を維持しながら乳量を最大化させること ーそのような実績を上げるために必要な考え方や姿勢はなんでしょうか? 私が仕事において大切にしているのは、何より「遊び心」ですね。楽しみながらやれば、新しいことにもどんどん挑戦しやすくなるんですよ。この心構えこそが、私が常に新たな取り組みを始める原動力になっています。例えば、ウィンドレス牛舎の導入はその一つです。当時はまだあまり事例がなく、周囲から疑問の声を受けることもありましたが、「面白そうだ!これはうまくいく!」という気持ちで始めた結果、牛たちのストレスの軽減につながりました。 ー自分の「遊び心」をもって行動を起こしていくことが大事なのですね。 畜産業は大変な仕事だからこそその考え方が重要だと思います。だから、仕事以外でも趣味を楽しむ時間を設けるようにしています。それが、私の仕事への情熱を燃やし続け、新たな挑戦へと繋がっていくんです。 理想の経営とは
ー山本さんが理想とする畜産経営とはどのようなものですか?
理想的な畜産経営とは、何より「変化に対する恐怖を持たない」ことが大切だと私は思っています。今の畜産業は、社会の変化や技術の進歩により、その姿を常に変えています。かつては、「牛が好きだから」という理由だけで酪農を始めることができましたが、今はそうはいきません。そのような時代変化の中で私が最も大切にしているのは、「常に新しいことに挑戦する」という姿勢です。 自分自身が過去の概念に縛られることなく、新しい方法を取り入れて成功を収めてきた経験から言って、これが多くの畜産家にとって新たな指針になると確信しています。だからこそ、私の牧場ではこれからも新しいことにチャレンジし続けていくつもりです。 編集後記
山本さんの牧場では、牛に優しい環境づくりに努める一方で、仕事に「遊び心」をもって取り組む姿勢が印象的でした。また、「変化を恐れずに挑戦していく」その精神はすべての畜産農家で共通する考え方のように感じました。山本さんの牧場が持続可能な牛乳生産を実現しているのは、山本さんの独自の取り組みと強い信念があるからこそなのだと思いました。
アソード(リモナイト)
山本さんの牧場では「アソード」というA飼料を使用しています。牛の食いつきがよく病気になりにくいと効果を実感している、山本さんの愛用品なんだそうです。
ウィンドレス牛舎
ウィンドレス牛舎は舎内が暗いため牛たちにストレスを与えることなく元気に育つのだそうです。牛舎内は隅々まできれいに清掃されているため、ほとんど臭いがありませんでした。
趣味
山本さんの独自の発想、そして何事にも挑戦する姿勢を生み出すのは「趣味」のおかげとおっしゃっています。
音楽に車にバイクに、様々な趣味を楽しむことで大変な畜産の仕事を乗り越えています。
writer T.Shimomuro
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