株式会社 洞田貫牧場
熊本県阿蘇市 乳牛:300頭 取材日:2023年5月24日
先代から伝わる酪農術
『農業をするなら酪農と決めていた』、平成8年から約30年近く熊本県阿蘇市で洞田貫牧場を経営する洞田貫優造さん。そのキッカケは優造さんの祖父が宮崎で酪農をしていた時代まで遡ります。
祖父の影響で幼いころから作業に参加しており、『どの作業も好きです(笑)』と今でも酪農の楽しさをかみしめながら仕事に取り組む姿勢は、祖父の時代から築き上げられた酪農術が生み出したものの一つであるそうです。 現在はご家族、従業員の方々と一緒に牧場を経営しており、息子の雄大さんが後継ぎとして今後も洞田貫家の酪農術を引き継いでいきます。 恵まれた阿蘇の大地を活かした牧草作り
洞田貫牧場の牧草は合計100町からなる広大な土地を利用して作られています。中でも、山で40町ほどの土地から作られる牧草を収穫する際は、凹凸な道での作業となるため命がけの作業が10日~14日間続きます。『自分で作れば品質管理もできる』と優造さん。乳酸菌を入れ発酵させることで、食いつきも良くなり消化も上がります。胃腸にもよく働くため、乳酸菌を牧草に入れることは洞田貫牧場にとって鉄則だそうです。しかし、発酵をしすぎると下痢など悪影響を及ぼすため見極める力が重要となります。
阿蘇でやるからには土地を利用するをモットーに、恵まれた環境を最大限に活用しています。 造られる循環型酪農
畜産は私たちの命の源であり、なくてはならないものとなっています。そんな健康の元を支える職業に携わっている優造さんにとって、もう一つ大きな役割があるそうです。
それは、国土の保全です。もし畜産が衰退すれば草が荒れ、山が荒れてしまいます。 毎年行われている野焼きにも参加しており、阿蘇の恵まれた自然を保ち続けることが使命であると常に意識しているそうです。その意識は牧草を自己管理することや、堆肥を利用することにもつながっており、自然の循環を担うことはこれからも洞田貫牧場の大切な役割であり続けます。 長時間に及ぶ作業や、危険な作業、その他の活動にも積極的に取り組む多忙な毎日を過ごしている優造さんの原動力は、”酪農が好き”という気持ちだそうです。 偶然ではなく必然的に造られる循環型酪農をこれからも実践していきます。
ミネラル豊富な赤水
洞田貫牧場の水は赤水と呼ばれる天然ミネラル豊富な水となっています。
ボーリング設備を取り付け、阿蘇の大地が作る特有の水を牛たちに与え、健康状態をより良いものにしています。 搾乳ロボット
洞田貫牧場では300頭の乳牛を管理するために搾乳ロボットを二台導入しています。
24時間稼働しており、一台で一日最大60頭搾乳できます。 最先端技術と伝統の酪農術で常により良いものを作り続けます。 こだわりの牧草
前述にあった通り、洞田貫牧場の牧草は自己管理されています。
乳酸菌を入れ発酵することはこだわりであるそうです。 ランク付けも独自で行っており、どの牛にどの比率でどの草を与えるのか常に考えています。 画像には収まらないほどのロールの数は驚きです。
Writer T.Moriyama
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有限会社つだ牧場
熊本県大津町 120頭 取材日:2023年2月7日
今回私たちが取材に向かったのは熊本県大津町のつだ牧場さん。ご家族で経営されており代表取締役の津田朋哉さんと津田稜平さんのご兄弟にインタビューしました。牛舎にはたくさんの牛と自社で生産している自給飼料(デントコーン)、そして事務所内には複数のパソコンモニターがあり先進技術にも意欲的に取り組んでいるご様子でした。
搾乳ロボットを導入した酪農
2016年から搾乳ロボットを導入しており、搾乳作業に時間を取られない分、その他の作業に時間を割くことができるため助かっています。随時、乳量等を確認できるため最新の情報で分析を行えるといった良いこともありますが搾乳時に牛を直接見られない分、今まで以上に牛を観察し病気などの発見が遅れないように気を遣っています。
飼槽に置いてある飼料のカロリーバランスも考えており、濃度を濃くすると満足する牛が増え搾乳ロボットに自発的に入らなくなったり、薄くすると乳量が減ったりするため、牛の状態を見ながら調整しています。 自家育成によるロボット搾乳に合わせた牛群改良
自家育成をしていますがロボット搾乳に合わせた牛づくりも行っています。改良だけをしていくのは簡単ですが、ロボット搾乳に向かない牛が産まれたりするので乳頭配置や搾乳スピードといったロボットに合った牛を改良しています。また、種にはこだわっていて欧米の種を使用しています。データ数が多いので、その中でロボット搾乳に合った牛が産まれてくるように、考えながら種を選定しています。
自給飼料を生産し安定した牧場経営へ
今は餌の高騰で大変な時期ですが、数年前までは酪農バブルと言われている時期もあり自給飼料を生産しないオール購入の牧場でも多くの収益を上げられる時期もありました。
何十年も自給飼料を生産していると飼料を買った方が安い時期は飼料生産に割く時間と労力、機械代を考えると費用対効果が悪く感じることもありますが、現在は自給飼料のおかげで飼料高騰の影響を抑えられています。また兄弟がもう1人いて飼料生産を専門で担当しており、今後は飼料の販売まで手掛けて行きたいと考えています。「良い時は良い、悪い時は悪い」という収益の波がある経営よりは、自給飼料を生産し様々な工夫を行いながら牧場としてなるべく安定した経営が行えるよう努めています。土地の関係上増頭による規模拡大は難しいため、各々の担当箇所をより良くして経営が右肩上がりになって行くようにしたいですね。 取材を終えて
ご家族がそれぞれの得意分野で役割分担しつつロボットのような先進技術も取り入れて効率よくお仕事されている印象を受けました。今後もつだ牧場さんの発展には目が離せません!取材ありがとうございました!
株式会社松野牧場 代表取締役社長 松野佑哉
熊本県合志市 搾乳牛:約70頭 取材日:2023年1月31日
①牛にはいいものを― 就農のきっかけを教えてください! 学生時代は野球に没頭していたため、就農は全く考えていませんでした。酪農業は祖父の代から続く家業ですし、高校卒業後は農業系の大学に進学したので、ゆくゆくは農業関係の仕事に就ければという想いはあったと思います。大きなきっかけは結婚ですかね。結婚を機に家業を継ぐという覚悟ができ、父にも伝えました。しかし、「今すぐにはさせられない」と言われ、焼肉屋で2年くらいアルバイトをしましたね。 その後、うちの牧場で働き始めましたが、酪農の知識はゼロに近い状態でした。とにかく周りの酪農家の話を聞いて、父の仕事ぶりを見て学ぶといった感じでしたね。そのとき20歳だったので、新規就農して11年になります。 ― 飼料や飼育に関してこだわりはありますか? 今は特に、飼料やその他経費も高騰している厳しい状況ですが、牛には常にいいものをあげたいと思っています。なかでもデントコーンにはこだわっています。というのも、うちはデントコーンサイレージを多めに給与しているため、牛への影響力が大きいんです。その他の飼料とのバランスは重要ですが、自給飼料でまかなえる餌の割合が増えるとコスト削減になります。ありがたいことに合志市は他の地域と比較してデントコーンの発育に適した環境です。現在、3月収穫分(1期作)で10町、8月収穫分(2期作)で5町、4月後半収穫するイタリアンを5町ほど作っています。 ― やはり年によって品質や収量は違うのでしょうか? 台風などの天候に左右されるため、その年によって出来は変わりますが、一番重要なのは刈る時期だと思います。もちろん、土壌の成分分析や雑草に栄養を摂られないように除草剤をまくことも大切です。しかし、天候や発育を常に意識し、刈る時期、植える時期を適期に行うことが品質の向上に繋がると考えます。 ②先を見据えた行動を― お父様の代と比較して飼料の内容は変わっていますか? 主な内容は一緒ですが、少しずつ変えています。餌の内容を任せてもらえるようになってから、自分のなかで“もっとこうしたい”という想いが強くなりました。父も口を出したいことがたくさんあったと思いますが、やりたいようにやらせてくれました。主となる部分はほとんど変えていませんが、細かい部分はらくのうマザーズの方にアドバイスをいただきながら飼料設計しています。飼料をコロコロ変えることはあまり良くありませんが、牛の状態とサイレージの分析結果をもとに日々改良を続けています。草の品質や餌の価格など、いろんな人から情報を聞き、先手先手で行動することが大切だと思います。 ― 先見の明が重要ということですね…! それは本当に重要だと思います。そのためには酪農家の先輩や仲間、関連業者さんたちからの情報収集は怠りません。周りには同世代の酪農家も多いので情報交換もしやすく、切磋琢磨しあえる関係性です。この環境は本当に恵まれていると思いますし、自分にとって大きな存在ですね。 ― 以前から伺いたかったのですが、松野さんのコミュニケーションのコツを知りたいです! なんでしょうか…自分ではよくわかりませんね(笑)強いて言えば、周りを見ることですかね。自分もまだまだですが、視野を広くすることで相手の気持ちを理解することができるのかなと思います。牛も同じですね。1日中牛舎にいることはできないので、せめて牛舎にいるときは牛を見ることを意識しています。酪農家は皆さんそうだと思いますが、牛舎内を歩いているだけで常に牛に目がいきます。一方で、オフのときは野球をしたり趣味に没頭したり、オンオフをしっかり切り替えることも大切だと思います。 ③常に高みを目指す― 一昨年、代表に就任されて心境の変化はありましたか? 特別変わらないですね。正直始めたばかりのときは何がなんだかわからないし、毎日同じことの繰り返しで何事もやらされている感覚でした。しかし、いつの間にか“俺が変えてやる”や“もっと良くしていきたい”という感情が芽生えていました。両親を追い越せという気持ちで、オンワード・ホルスタイン*¹という冠名にあるように常に向上心あるのみですね。今は情勢的にも厳しいですが、やれることをやっていかなければいけないと思います。 *¹ オンワード=「向上する」の意 ― 松野さんは共進会にも参加されていますよね? 就農した当時、父が共進会に参加していたことがきっかけです。自分も共進会に牛を出し始めると、徐々に楽しさがわかるようになっていきました。自分にとっては酪農に対して熱を持つことができたきっかけの一つであったと思います。共進会との出会いが自分を変えてくれた気がしないでもないですね。最初はどんな牛がいい牛なのかもわからなかったので、同世代の仲間と一緒に全国の牧場や共進会、時には海外にも行き、いろんな牛を見ました。この経験は私の財産となっています。 ― 印象に残っている大会はありますか? 第34回熊本県乳牛共進会です。この熊本県大会でグランドチャンピオンを獲ることができ、北海道の全共に繋がりました。すごくプレッシャーがありましたが、自分の牛を北海道まで連れ行き、酪農王国の牛たちと並び、あの場に立てたことは本当にいい経験になりました。プレッシャーというか緊張…本当に緊張していましたね(笑) 両親に牧場をお願いできたことで、自分はいろんな場所でいろんな経験ができ、本当に勉強になりました。 ― 野球で培った集中力もプラスになったのではないでしょうか? それもあるかもしれませんが、認めてもらいたい気持ちが大きかったかもしれません。両親が築いた牛群、基盤があったので始めた酪農ですが、認めてもらいたい気持ちや全国のトップレベルの人達に早く追いつきたい気持ちがあったのも確かです。共進会はいい交流の場でしたし、学んだことがたくさんあります。やっぱり共進会の存在は大きいですね。
― 最後に今後の展望を教えてください!
個体のレベルアップですね。今後はゲノム検査を活用しながら個体のレベルを上げ、牧場全体のレベルを上げていく必要があると思います。より高みを目指して頑張っていきたいと思います! ー 貴重なお話をありがとうございました!
writer R.Tsujiwaki
有限会社もりもと牧場
熊本県阿蘇市 搾乳牛:130頭 取材日:2021年6月10日
酪農家牛舎は驚くほどきれいで、不思議と家畜臭が感じられず、森本さんに育てられた牛たちは毛づやがよく人懐っこい印象を受けました。
写真からも伝わってくるほど柔らかい雰囲気をお持ちのおふたりはどのような育て方をしているのでしょうか。森本さんの座右の銘は「愛」。牛が好きだから愛情をもって接するようにしているとのこと。今回は、そんな愛情あふれる森本夫妻にお話を伺いました。 ①ストレスなく健康に過ごせる環境づくりこだわっていることは特にないですが、強いて言うなら「健康」なのだと思います。「病気にさせないこと」には気を付けています。 病気にさせないために、まず「密飼い」をしないようにしています。牛も人間と同じで、狭いところに詰め込まれるとストレスを感じてしまい、よくわからない病気になって死んでしまうことがあるからです。また、経済面で見ても、頭数が多ければ多いほど良いというわけではなく、「密飼い」で20kgしか乳量が出ないより、適正量で30kg出たほうがいいですよね。それぐらい、畜産農家にとって「健康」に育てることはメリットがあるのです。 次に、餌に関しても強いこだわりがあるわけではありませんが、自分のところで育てた牧草をベースに鉄分やミネラル、ビタミンなどを適正量ブレンドして与えるようにしています。これも人間と同じで、過剰摂取してしまうと悪影響があるので、適正量を心がけています。 最後に、牛舎の環境ですが、自分がきれいな状態を保ちたいというのもありますが、酪農を始めた当初から、機械が入れないような区画は毎日、手作業で掃除をするようにしています。少ない量を毎日掃除するほうが、作業をする人の負担を減らすことにもつながりますし、牛たちにとっても清潔でストレスが少ない環境になっていると思います。 ②昨日との変化に気づくこれも病気にさせないということに繋がるのですが、牛たちに「目をみはらす」ようにしています。牛たちが人間の言葉を使って話してくれたら楽なのですが、言葉を話せるわけではないので、見ることに尽きますね。これは自分だけではなくて、一緒に働く人みんなで意識していることです。例えば、搾乳を担当している人は、「今日はこの牛が5kgしか出なかった」と報告をしてくれたり、掃除をしてくれている人が「この牛は下痢になっている」と気づいてくれたりします。こういったときに病気を疑い、すぐに対策をとるのです。 また、発情がきているかを見抜くことも大事な仕事の一つです。牛にも個性があって、発情が分かりにくい牛もいるので、それぞれの牛に対して、昨日と変化があるかを目で見て確認するように心がけています。 ③畜産のイメージを変えたい畜産には「3K」と言われる言葉があります。3Kとは「汚い・きつい・臭い」。私が嫁いだ時もそのようなイメージでした。ある日、自分と同じような酪農家の奥さんが、とても綺麗な身なりをしていて、そのことに衝撃を受けました。その方からは一切3Kをイメージすることがなく、自分もこういう風にきれいでいようと心に決めました。酪農家の奥さんである自分がいつも綺麗な身なりをしていくことで、畜産のイメージを変えていきたいと考えています。 また、畜産農家の中でも特に酪農家には、「酪友(ラクユウ)」と呼ばれる言葉があるほど、酪農家同士のつながりが強いです。このような繋がりがあることは良い伝統ですし、酪農家として、決して途絶えさせないようにしたいと思っています。 最後に、運営するうえで大事なことは?
仕事をするときには、怒らないようにしています。もちろん、従業員が危ないことをしていたら叱りますが、後から怒らなければよかったと後悔してしまうので。
いつもニコニコとしているほうが、相手にとっても自分にとっても気持ちがいいですからね。 育てる側が幸せでないと牛も健康に育たないと思います。 総合的な「愛」ですね。 ただ好きというだけではダメなのだと思いますが、やっぱり、「牛が好き」なのだろうと思います。
Witer:市木 美帆
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