稲本牧場 稲本裕
長崎県 松浦市 経産肥育牛:2頭、肥育牛:2頭、母牛:32頭、子牛:20頭 取材日:2024年3月29日
テールペイントと牛温恵
記者「稲本さんの畜産技術についてのこだわりを教えてください。」
稲本さん「私たちの牧場では牛のコンディション管理に細心の注意を払うようにしています。種付けの成功率を高めるためにテールペイントやビタミン剤の投与を行い、また、アルギスタミナを含む栄養補助食を与えて体調管理を徹底しています。」 記者「テールペイントを使用することの具体的なメリットは何ですか?」 稲本さん「テールペイントは非常に実用的な商品です。常に牛たちを見ているわけにはいかないので、テールペイントを用いることで、発情期に入った牛を簡単に識別できます。朝夕にペイントをチェックするだけで、発情のサインを見逃すことがなく、効率的な管理が可能になります。」 記者「他にはどのような工夫をしていますか?」 稲本さん「冬場は特にエネルギー管理に力を入れています。寒さによるエネルギー消費を補うため、トウモロコシを飼料に加えることで体温の維持と健康状態の向上を図っています。この小さな工夫が、牛の発情期の管理と分娩間隔の維持に大きな効果をもたらしています。」 記者「他にも牛温恵にすごく助けられているとお聞きしましたが、具体的にどのような改善が見られましたか?」 稲本さん「牛温恵の導入は革命的でした。センサーが体温の変化を捉え、出産のサインを携帯に通知してくれます。これにより、突発的な問題を事前に防ぐことができ、出産に関連するリスクを大幅に低減しました。生まれてくる子牛たちの健康状態も明らかに向上し、安心して管理ができるようになりました。」 データで見る畜産の未来
記者「稲本さんの牛の現在の状態に点数をつけるとしたら、何点になりますか?」
稲本さん「正直なところ、50点と評価します。多頭飼いをしていると、全ての牛が常に最高の状態にあるわけではありません。しかし、私たちは常に基礎から改善を目指し、分娩間隔の最適化や体調管理に力を入れています。」 記者「その50点を100点にするために、他にどのような取り組みをしていますか?」 稲本さん「例えば、季節ごとに異なる栄養管理を施し、テールペイントの活用により発情期の管理を行っています。冬場はトウモロコシを加えた特別な配合飼料やビタミン剤で体調管理をしています。これらの施策は季節に応じて変わるため、常に状況に適した管理を心がけています。また、一つの方法に固執せず、長期的な視点でデータを収集し、その効果を評価することが重要です。例えば、ある飼料添加剤を1年間試し、その結果をデータベース化して効果を検証するといったことも私たちの牧場では大切にしています。」 記者「畜産業におけるICTの活用も積極的に行っているということですね。」 稲本さん「畜産業界でもICTの活用はもはや不可欠です。例えば、ファームノートのようなデジタルツールを利用することで、効率的にデータ管理ができ、改善点が明確になります。データを基にして判断し、最適な管理方法を模索しています。」 畜産の道標—師匠とライバル
記者「師匠や目標としている人物はいますか?」
稲本さん「鷹島地区で畜産を営んでいる大石さんと稲本侑紀さんを尊敬しています。彼らは私にとって師匠であり、ライバルでもあります。彼らとは親戚関係にもあるので、非常に良い刺激を受けています。」 記者「大石さんを尊敬するポイントは具体的にどのようなところですか?」 稲本さん「大石さんの経営における冒険心と、常に時代を見据えた行動が素晴らしいと思います。特に、新しい挑戦を恐れず、常に畜産業界の未来を考えた経営をされている点は、私も見習いたいところです。経産肥育を始めたのも、大石さんの影響を受けた一例です。」 記者「稲本侑紀さんの尊敬するポイントについて教えてください。」 稲本さん「稲本侑紀さんは、牛の細かなコンディションを見極める能力に長けています。どんなに小さな変化も見逃さず、私が質問するとすぐに的確なアドバイスをくれます。農協職員としての経験も豊富で、様々な事例に基づいた知識を持っているため、私にとって貴重な存在です。」 記者「畜産業界で生きていく上での心構えや哲学はありますか?」 稲本さん「畜産業界は不確実性が高く、安定した相場がないため、精神的にも肉体的にも大変な業界です。そのため、『死ぬこと以外かすりキズ』という心構えで日々を過ごしています。考えすぎず、でも適度に真剣に、そして時には軽い気持ちで業務に臨むことが大切だと学びました。この業界で生き抜くためには、自分自身に合った経営スタイルを見つけ、柔軟に対応していくことが重要です。」 牛温恵
牛温恵は、牛の体温を見るセンサーで、出産前の合図を見つけるツールです。牛の体温(普段は38℃ほど)が出産前に1℃ほど下がるので、その変化を見つけて携帯に知らせます。これで、出産の準備の時期を知り、出産のトラブルを大きく減らすことができます。
テールペイント
テールペイントは、牛の尾に塗って、牛が発情期に特定の行動をすると塗料が剥がれるアイテムです。これを使うと、発情期の牛を早く正確に見つけられ、繁殖の管理が上手くいくようになったと話していました。
Writer_Y.Eguchi
0 コメント
岡本牧場 岡本拓也
佐賀県 東松浦郡 親牛:70頭、子牛:40頭 取材日:2024年3月28日
毛並みから健康を読む
記者「岡本さんの牛の育て方で、特に注目すべき技術や知識があれば教えてください。」
岡本さん「私が祖父から受け継いだのは、健康な牛の様子をよく観察し、その基準から外れた牛を見つける技術。これに、獣医の専門知識を組み合わせて、病気を早期に発見し、治療期間を短縮しています。」 記者「具体的にどのような点を見ているんですか?」 岡本さん「私たちは、牛の毛並みや背中のラインに注目しています。健康な牛は、毛が逆立たず、背中のラインが綺麗です。また、耳が垂れていないかもチェックします。さらに、総合的な雰囲気や違和感を感じ取ることが重要です。細かい観察によって、健康状態を見極めるんです。」 記者「その方法で改善された点はありますか?」 岡本さん「昔に比べて、病気を早期に発見できるようになりました。それによって治療期間が短くなり、場合によっては重い治療を回避できるようになりました。この早期発見と迅速な対応は、牛の健康はもちろん、経済的な面でも大きな改善をもたらしています。」 改善無限:進化する畜産
記者「岡本さんの牛に点数をつけるとしたら、どう評価しますか?」
岡本さん「現状で70点と評価したいですね。以前に比べて、私たちの管理方法も進化しましたし、牛の血統も向上していますから。」 記者「その70点の評価に至った具体的な改善点は何ですか?」 岡本さん「実は、昔に比べて競りでの成績が安定してきたんです。これまでの5、6年間で年間10頭の保留がある中で、病気の減少や畜産技術の向上が生じています。その結果、市場での評価が高まっていますね。まだまだ改善の余地はありますし、特に病気の早期発見や予防にもっと注力していく必要があります。こうした取り組みを積極的に進めていけば、より良い成績を収めることができると思っています。」 記者「青年部で試験農家としての活動もされているそうですが、その経験は岡本さんにとってどのように影響していますか?」 岡本さん「青年部での活動は新しい知見を得る絶好の機会です。最新の飼育技術や研究結果を学び、それを自分たちの牧場にも応用しています。試験農家としての経験は、新しい方法のテストと、改善への取り組みを強化する大きなモチベーションになっています。実際に試してみることで、理論だけでは得られない貴重なデータと実践的知識を蓄積しています。」 記者「オススメのアイテムや道具はありますか?」 岡本さん「私のオススメはやっぱりエプロンですね。獣医さんが使う防水のエプロンが特に便利でして、汚れ防止はもちろん、ポケットがたくさん付いているので、注射器やロープなどの小物もすぐに手に取れます。もうこれがないと仕事にならないくらい、毎日着用しています。」 記者「そのエプロン、どこで手に入れることができますか?」 岡本さん「これはワークマンで見つけたんですよ。耐久性もあり、価格も手ごろで、機能性を考えると本当にお買い得だと思います。足元までカバーするタイプではないので、そこは少し改造して使っていますが、基本的にはとても良い商品です。」 透明性と向上心、データドリブンで未来へ
記者「青年部の環境について詳しく教えてください。」
岡本さん「私は、青年部の活動を通じてすべてをさらけ出す環境で学んでいます。ランキングを見て自分の位置を知り、改善の必要がある部分を理解しようとしています。特に分娩間隔や牛の体重管理など、細かいデータまで公開されていて、それが私たちの成長に直結しているんです。」 記者「その透明性がある環境で、具体的にどのような成果を得ていますか?」 岡本さん「このシステムのおかげで、私たちは常にデータに基づいて改善を図ることができます。例えば、分娩間隔が改善されたり、販売価格が平均以上に保たれたりしています。最初はランキングの下位だったのが、今では上位に食い込むことができています。」 記者「岡本さん、農場運営における座右の銘は何ですか?」 岡本さん「牛の一頭一頭の把握が私の座右の銘ですね。一頭一頭をきちんと把握することで、それぞれの牛の健康状態や生産性を最大限に引き出せます。例えば、特定の牛がどのような症状を示しているか、どの子が大きく育つかなど、具体的なデータが手元にあることで、適切な対応が可能になります。」 記者「把握からどのような具体的な行動に繋がるんですか?」 岡本さん「正確なデータがあれば、次に必要な行動が明確になります。例えば、分娩後40日以上経った牛には特定の治療を施し、再び健康状態を最適化する。また、繁殖に関する具体的なルールを設けて、計画的に管理することが可能です。これらの決め事が全ての基盤となり、牧場の効率と生産性を高めるのです。」 エプロン
獣医さんが使っているのを見て使おうと思ったそうです。
防水性、利便性を兼ね備えており、また股下も割けており動きやすいため岡本さんの愛用品です。 もうこれがないと仕事にならないくらいだそうです。
Writer_Y.Eguchi
大石牧場 大石啓介
長崎県 松浦市 肥育牛:15頭、親牛:150頭、子牛:105頭 取材日:2024年3月27日
共に育つ、畜産農家の協力と進化
記者「大石さんの畜産での専門技術や、特に重視されている点について教えてください。」
大石さん「当農場では、健康的な子牛の誕生を最優先課題と捉えております。この目標を達成するためには、親牛の健康管理が非常に重要です。親牛には出産前にワクチンを接種し、子牛が生まれた直後には鉄剤投与やビタミンを補給することで、初期の健康を確保しています。これらの対策は、子牛が健康に育つための基盤を作り、病気のリスクを減らし、結果的には経済的な損失を防ぐために不可欠です。」 記者「ワクチンやビタミンの投与は、コスト面での負担はどの程度になるのでしょうか?」 大石さん「実は、多くの方が思われるほど高額ではありません。鉄剤やビタミンの投与にかかるコストは、1頭あたり約1,500円から2,000円程度です。この初期投資が、子牛の健康を守り、将来的な大きな損害を避けるための保険となります。」 記者「初期のケアが牛の健康に与える影響についてもう少し詳しく教えてください。」 大石さん「初期のケアは、子牛の将来における健康と成長に決定的な影響を与えます。例えば、早期母子分離を行ううちの牧場では、分離時に子牛が最適な健康状態にあることが極めて重要です。貧血の有無をチェックし、必要な栄養素を補給することで、子牛は強く、健康的に成長します。これにより、ミルクの摂取がスムーズになり、病気に強い体質を育てることができます。」 記者「鷹島地区の地域間交流は、畜産業においてどのような役割を果たしていますか?」 大石さん「当地域では、農家間の協力と情報交換が非常に活発です。セリが終わった後には、農家同士が集まって成果や改善点について話し合います。このようなコミュニケーションは、みんなで成長しようという意識を高め、餌の配達や最適な飼育方法の共有につながります。共同で購入した餌を使ったり、互いに知見を共有したりすることで、全体としての生産性の向上を図っています。」 人と技術で描く牛の健康向上計画
記者「牛の健康状態に点数をつけるとしたら、どの程度ですか?」
大石さん「65点ですね。生き物を扱う仕事は常に予測不可能な要素があり、24時間体制で緊張感を持って対応しなければなりません。見落としや病気の発生、そしてセリでの平均価格に達しない個体が出ることなど、これらの課題が私たちの牧場を65点に留めています。」 記者「点数を上げるためにどのような改善策を考えていますか?」 大石さん「まずは人員の確保です。現在のスタッフ数では全ての牛に行き届かない場面があります。もっと多くの目で牛を観察し、異常に素早く対応できれば、牛の健康状態を改善し、市場での価値を高めることができるでしょう。」 記者「おすすめのアイテムや設備はありますか?」 大石さん「去年完成した堆肥センターです。6,000万円の投資でしたが、この堆肥センターのおかげで、私たちは牛の堆肥から高品質な有機肥料を生産することが可能になりました。発酵から完熟化まできちんと管理された環境で、臭いもほとんどなく、土のような質感の肥料を製造しています。これを地元の農家に提供し、販売も行っており、結果として地域社会への貢献としても機能しています。また、肥料の袋詰め作業を就労継続支援B型のような障害を持たれている方々に手伝っていただくことで、仕事の機会を提供し、それによって少しでも社会貢献ができればと思っています。このように、私たちの事業は地元の方々と協力しながら進めております。」 ピンチをチャンスに変える
記者「師匠や目標としている方はいますか?」
大石さん「私の師匠は、佐賀県肥前町の井上匡実さんです。一見すると厳しそうに見えますが、非常に優しく、親身になって相談に乗ってくれます。彼は自分のことよりも周りや地域のために尽力しており、その姿勢が深く尊敬している理由です。」 記者「井上さんの地域活性化への貢献について教えてください。」 大石さん「井上さんはJAの繁殖部会の部会長を務めたり、若手を支援したりすることで地域活性化に貢献しています。特に若手農家との交流や勉強会を積極的に行い、経験や知識の共有を促しています。これらの活動が地域の農業や畜産業を盛り上げ、若い世代に希望を与えています。」 記者「座右の銘について教えてください。」 大石さん「私の座右の銘は「ピンチはチャンス!」です。特に近年、牛の市場価格が不安定で、多くの農家が苦労しています。しかし、このような時こそ新しいチャレンジをする勇気が必要だと考えています。たとえば、市場価格が低い時には、質の高い牛を育て上げて将来の価格回復に備えるなど、ピンチをチャンスに変えることができます。」 記者「今後の畜産業界での展望や計画についてはどのように考えていますか?」 大石さん「畜産業界は今後、さらに厳しい状況に直面するかもしれませんが、私たちは一貫経営への切り替えや、自分たちのスキルアップを通じて対応していきたいと考えています。市場の変動に柔軟に対応し、経営の多角化や効率化を図ることで、将来にわたって持続可能な畜産業を目指しています。」 堆肥センター
こちらの堆肥センターは去年完成したもので、6,000万円の建設費がかかっているそうです。
そのおかげで牛の堆肥から高品質な有機肥料を生産することができるようになったと話していました。 臭いもほとんどなく、土のような質感の肥料を製造・販売しています。 また、肥料の袋詰め作業は障害を持たれている方々に手伝っていただくことで、仕事の機会を提供し社会貢献していきたいと話していました。
Writer_T.Shimomuro
稲本牧場 稲本侑紀
長崎県 松浦市 経産肥育牛:2頭、未経産牛:10頭、親牛:48頭、子牛:40頭 取材日:2024年3月27日
ICTと手のぬくもりが育む、未来の牛たち
記者「稲本さんが牛を育てる上でこだわっている一家伝来の技術や最近得た情報、専門的な知識について教えていただけますか?」
稲本さん「私たちは代々伝わる育牛技術に、最新の知見を取り入れることで、より質の高い牛の育成に励んでいます。特に、超早期に母子を分離し、60日で離乳させる手法を取り入れ、その後は牧草中心のエサに切り替えることで、健康で強い牛を育てることにこだわっています。獣医と連携し、予防接種プログラムを徹底しており、各種ワクチンや予防薬を使用して、牛の健康管理にも力を入れています。」 記者「その育成技術についてもう少し詳しく教えていただけますか?」 稲本さん「私たちは、子牛が早期にしっかりと栄養を取り入れることができるよう、スターターを積極的に与えています。5ヶ月齢を過ぎた後は、濃厚飼料を減らし、牧草を主体にしたエサに切り替え、より自然に近い環境での育成を心がけています。また、獣医との密接な協力のもと、ボビバック、TSV3、バイコックスなどのワクチンや、必要に応じてドラクシンといった抗生剤、駆虫剤のイベルメクチンを使用し、牛の健康を守っています。」 記者「最新技術の導入によって、具体的な成果や改善点はありましたか?」 稲本さん「実際、ICT技術の活用、特にファームノートの導入により、牛の管理が飛躍的に向上しました。日々のデータをもとに発情の早期発見や、種付けの最適なタイミングの判断が容易になり、管理漏れが大幅に減少。かつては手書きのメモに頼っていたのが信じられないほどです。結果として、分娩間隔が11.5ヶ月という理想に近いサイクルを達成しています。」 質と生産性の向上へ
記者「自分の牛の状態に点数をつけるとしたら、何点になりますか?」
稲本さん「正直なところ、70点くらいでしょうか。まだ改善の余地が多く、特に分娩間隔を現在の11.5ヶ月から11ヶ月に縮め、生産性を高めたいと考えています。生産数の増加を目指しているのですが、メスの質不足や高齢牛の更新の遅れなど、解決すべき課題も多いですね。」 記者「それでは、現状の課題を乗り越えるために、今後どのような取り組みを考えていますか?」 稲本さん「まずは、メスの発育DG(1日あたりの平均増体量)を改善させることと、生産効率を高めるための戦略を練ることが重要です。分娩間隔を短縮し、年間を通じて安定して子牛を生産できる体制の構築を目指しています。また、高齢牛の効率的な更新計画を立て、全体の生産性の向上に努めたいと思います。これらの課題に対処することで、総合的な品質と生産数の向上を目指します。」 記者「稲本さんのおすすめの道具やアイテムがあれば教えてください。」 稲本さん「私は削蹄師なので、削蹄に関するものなのですが、軽トラックに直接取り付けしている削蹄保定枠がオススメアイテムです。これは、削蹄の際に牛舎によっては牛を繋ぐ場所がない牛舎もあります。そういう場所であっても牛を繋いで削蹄できるようにするためのもので、持ち運びが容易で、場所を選ばずに仕事ができる点が大きなメリットです。この保定枠のおかげで、効率的に牛の策定作業ができるようになりました。」 「まだまだこれから」広がる可能性
記者「稲本さんにとっての師匠や、目標としている人物について教えていただけますか?」
稲本さん「私にとっての師匠は、残念ながら亡くなられた稲本誠さんです。彼は鷹島地区のリーダー的存在で、牛飼いの中でも特に尊敬される人物でした。兄貴分でもあり、親戚でもある彼は、私が農協で勤めていた時からの知り合いで、彼のおかげで私も牛飼いを始めることができました。彼は機械操作など、多くの技術的な知識も教えてくれ、見たことのないような新しい技術や情報を提供してくれました。」 記者「誠さんの人柄についてもう少し詳しく教えてください。」 稲本さん「誠さんは、本当に優しくて、前向きな人でした。決して嫌なことを言うことがなく、必要なアドバイスは的確に、しかし優しく教えてくれるような人でした。私だけでなく、多くの人が彼に頼り、尊敬していました。彼の死は、私たちコミュニティにとって大きな損失でしたが、彼のようにみんなに頼られる存在になれればと思っています。」 記者「最後に、稲本さんがこれからも忘れずにいたい、座右の銘や心に留めておくべき言葉があれば教えてください。」 稲本さん「私の座右の銘は、「まだまだこれから」です。どんなに困難な状況でも、まだまだ改善できる点はあるし、挑戦すべきことはたくさんあります。私たちの牧場では、現在、繁殖をメインにしていますが、これからは生産活動の範囲を広げ肥育への展開、受精卵移植技術の取得などにも挑戦していきたいと考えています。実際に今現在、経産肥育にはチャレンジし始めています。この座右の銘を胸に、牧場の規模拡大や収益性向上を目指して、日々の業務に取り組んでいきます。経済的な負担や技術的な困難はありますが、「まだまだこれから」の精神で乗り越えていきたいと思います。」 削蹄保定枠
削蹄する際に農家によっては牛を繋ぐ場所がない牛舎があり作業が難航する場合があるそうですが、稲本さんの使っている軽トラックに直接取り付けしている削蹄保定枠では、場所を選ばずに仕事ができるそうで大変重宝していると話していました。持ち運びも容易で作業効率が格段に上がったそうです。
Writer_T.Shimomuro
稲本牧場 稲本祥子
長崎県 松浦市 経産肥育牛:2頭、未経産牛:10頭、親牛:48頭、子牛:40頭 取材日:2024年3月27日
牛の足元から見る世界
記者「祥子さんが削蹄師を目指そうと思ったきっかけは何ですか?」
祥子さん「実は、以前JAに勤めていた時、削蹄の仕事を初めて目の当たりにしました。そこでプロフェッショナルな方々と働く機会があり、その刺激的な経験から自分も挑戦してみたいと強く感じるようになりました。女性としての壁や限界を言われることもありましたが、できないならできるようになろうと決意。夫の支持も得て、資格取得のために勉強を始めました。」 記者「祥子さんの旦那様である侑紀さんも削蹄師として活動されていると聞きましたが、その影響は大きかったですか?」 祥子さん「はい、夫はもう10年以上削蹄師として活動していて、彼の働く姿から多大な影響を受けました。肉体労働の厳しさや、それに立ち向かう精神力を間近で見て、私もやれるかもしれないと思い始めたんです。夫の支えがあったからこそ、挑戦する勇気が持てました。」 記者「女性としての挑戦にはどのような困難がありましたか?」 祥子さん「確かに物理的な強さや、社会的な偏見といった障壁は存在します。しかし、私は幼少期から負けず嫌いで、できないと言われると余計にやりたくなる性格なんです。だから、できないことがあれば、できるようになるまで挑戦する。知らなければ勉強する。その精神で今まで乗り越えてきました。」 記者「削蹄師としての今後の目標は何ですか?」 祥子さん「まだ修行中の身で、完璧ではないですが、できるところまでチャレンジしてみたいと思っています。削蹄師としての技術を磨きながら、女性でもこの道で成功できることを証明したい。そして、いつかは安全で効率的な削蹄ができるような環境を自分たちで整えられたらと考えています。」 牛たちのネイリスト
記者「削蹄師とは具体的にどのような仕事をするのですか?」
祥子さん「削蹄師とは、牛の足、つまり爪のケアを専門とする職人のことです。牛が快適に歩けるよう、爪を整えたり、必要に応じてグラインダーで削るなどして、牛の最適な爪の状態を実現します。よく言われるのが削蹄師とは牛のネイリストで、牛の体重が重いため、爪の健康は牛自体の健康に直結しています。年に1回から2回のケアで牛の状態を大きく改善できる、非常に重要な仕事です。」 記者「削蹄師の仕事の重要性についてもう少し教えてください。」 祥子さん「牛の足は、その重量を支える重要な役割を担っており、『第二の心臓』とも称されるほどです。爪の状態一つで牛の健康状態が大きく左右されるため、私たちの仕事は牛の命を守る上で非常に重要です。経験に基づき、どのように爪を切るかを決定し、牛が心地良く過ごせるように細心の注意を払います。」 記者「削蹄師の数はどれくらいいるのですか?」 祥子さん「私の地域では削蹄師会に15名ほどが在籍していますが、全国的に見てもプロとして活動する削蹄師は決して多くはありません。農家自身で削蹄される場合も多いですが、削蹄には専門的な知識と技術が求められるため、プロに依頼する価値は非常に大きいのです。」 記者「プロに依頼するのはどのような時ですか?」 祥子さん「牛の爪は一頭一頭異なり、正確な判断が求められます。素人でも削蹄することは可能ですが、その後どのように爪が伸びていくのか?、どのような負荷がかかっていくのか?まで予測することはできません。ですがプロが削蹄すると、経験豊富な削蹄師ならではの判断で、牛が心地よく感じる最適な爪の状態を実現できるのです。短期的には費用がかかるかもしれませんが、長期的に見れば牛に足周りからのストレスを与えず健康を保ち、生産性を高めることができるため、欠かせない投資だと考えています。」 笑顔で切り拓く未来
記者「削蹄師に必要なおすすめの道具とその特徴について教えてください。」
祥子さん「あまり知られてない道具としては『括削刀(かっさくとう)』という道具が挙げられます。これは、爪の病気治療に使われる細いかぎ爪の形をした道具で、耳かきに似た形をしています。爪の中にたまった膿を除去する作業に使うのですが、この道具を使って正確に膿を取り除くことで、牛の足の健康を保つことができます。非常に特殊な道具ですが、削蹄師にとっては欠かせないものの一つです。削蹄師は刃物の手入れが非常に重要で、切れ味を維持するために砥石での研ぎ作業が欠かせません。砥石で研ぐ際は、粒度を変えて段階的に行い、最終的には細かい粒度で仕上げることで切れ味を保ちます。このプロセスは技術と経験が要求されるため、削蹄師として日々勉強し続けています。」 記者「牛の爪を扱う上での困難はありますか?」 祥子さん「牛の爪は、その硬さが異なり、牛舎の環境によっても大きく変わります。例えば、床が乾燥している場所にいる牛は爪が硬く、濡れた環境にいる牛は爪が柔らかくなります。硬い爪を扱う際は、バーナーで熱して柔らかくする必要があることもあります。このように、爪の状態を見極めて、適切な道具を選んで使用する技術が求められるのです。」 記者「尊敬する人物はいらっしゃいますか?」 祥子さん「はい、私の夫であり、削蹄師でもある侑紀さんです。彼は牛に対する深い愛情と、仕事における真面目さで私をいつも支えてくれます。技術的な面だけでなく、牛を心から理解しようとする姿勢が、私が尊敬するところです。彼のように牛の健康を第一に考え、日々技術を磨き続けることが私の目標です。」 記者「座右の銘はありますか?」 祥子さん「私の座右の銘は、「笑っているやつが一番強い!」です。仕事でも日常生活でも、どんなに厳しい状況にあっても、笑顔を忘れずに前向きに取り組むことで、意外にも困難を乗り越えられると信じています。現在、経済的な厳しさもありますが、夫と二人で新たな挑戦を探しながら、笑顔を絶やさずに乗り越えていきたいと思っています。」 削蹄道具
削蹄作業には様々な専門道具が存在し目的に応じて使い分けます。
切れ味を維持するために刃物の手入れは欠かせないそうです。
Writer_T.Shimomuro
上村畜産 上村阿南
熊本県 下益城郡 経産牛:14頭、未経産牛:2頭、子牛:7頭 取材日:2024年3月25日
代々受け継ぐ畜産の極意
記者「上村さんの牧場では、一家相伝の技術や最近得た情報など、畜産に関する専門技術的なお話を伺えますか?」
上村さん「我が家では代々伝わる技術で、特に血統の良い牛の選び方や育て方には自信があります。祖父の時代から続くこの方法は、牛を健康的に大きく育てる秘訣を数多く含んでいます。最近では、牛の初期育成に関する新しい情報も取り入れており、濃厚飼料を使った育成法や出荷前の飼料調整、さらには牛の快適さを考慮した環境作りなど、日々進化する畜産技術を実践しています。」 記者「牛を太らせる技術について、具体的にどのような方法があるのでしょうか?」 上村さん「牛を理想的に太らせるためには、胃袋の容量を最大限に活用することが鍵となります。祖父から受け継いだ技術と、私が新しく学んだ知識を組み合わせて、牛の胃袋を丈夫にするために稲わらを使用しています。稲わらは消化にも良く、免疫力向上にも寄与し、結果的に300キロを超える健康な牛を育てることができます。この方法は昔から多くの成功例があり、現代でもその効果を実感しています。」 記者「牛を購入する際に、どのようなポイントを重視していますか?」 上村さん「牛を選ぶ際には、血統はもちろん、牛の形状、特に前方の張りや尻尾の付け根などを詳細にチェックします。祖父から学んだ視点で、牛を後ろから見たときの長方形のバランス、横から見たときのフォルムを重要視しています。これらのポイントは、牛の健康状態や将来の成長ポテンシャルを判断する上で非常に役立ちます。細部にまで目を配ることで、質の高い牛を見極めることが可能です。」 祖父から受け継ぐ知恵と新たな試み
記者「上村さんの牧場で育てられている牛の状態を点数で評価するとしたら、何点になりますか?」
上村さん「正直に言うと、私たちの牧場の牛の状態は50点ですね。主な理由としては、牛の密飼いから来るストレスです。密度が高いことで牛たちはストレスを抱えやすくなっており、それが最大の課題となっています。」 記者「50点という評価のプラスの面はありますか?」 上村さん「もちろん、プラスの面もあります。例えば、牛舎が狭いことで、事故が起きた際には迅速に対応できる点です。また、狭い空間により、餌の食いつきや管理がしやすく、一定期間内に出荷できる牛を効率的に育てることができます。このような管理のしやすさが、私たちの牧場の強みとなっています。」 記者「現在の状態からさらに改善するために、将来的にどのような計画がありますか?」 上村さん「今後は牛舎の改善に力を入れていきたいと考えています。具体的には、牛たちがより広い空間でストレスなく過ごせるように、新たな牛舎を借りる計画を進めています。これにより、牛たちの健康状態の向上や生産性の向上を期待しています。また、日差しや環境を改善することで、牛たちがより快適に過ごせるように取り組んでいます。」 記者「牧場で使用しているオススメのアイテムはありますか?」 上村さん「はい、私たちの牧場では「スーパートップ」という乳酸菌の製品を使用しています。これは牛の腸内環境を整える効果があり、下痢の予防や食欲増進に役立っています。この製品を使うことで、牛たちの健康を維持し、生産性を高めることに成功しています。」 記者「師匠や目標としている人物はいますか?」 上村さん「はい、私にとっての師匠であり目標は祖父です。長年の経験と知識に裏打ちされた祖父の方法は、今でも私たちの牧場運営の基礎となっています。祖父のように経験豊富で賢明な畜産家になることを目指して、日々努力を続けています。」 美里牛の再興:美里町の誇りを世界へ
記者「上村さんの育てている美里牛について詳細を教えてもらえますか?」
上村さん「私たちの住む美里町は赤牛の名産地で、ここでは昔から美里牛と呼ばれるブランド牛を育てています。10年以上前、この地域の牛は県内の展示会などで高い評価を受け、その子牛たちも優れた肉質で出荷されるという良い循環がありました。しかし、高齢化の波により育てる人が減少し、美里牛ブランドも徐々に影を潜めていきました。」 記者「味や品質については、他の赤牛と比べてどうですか?」 上村さん「美里牛の肉質は、他の有名な赤牛と比較しても遜色ない品質です。美里町では主に草を食べて育つため、油が少なく、赤身が多い肉質になります。これはさっぱりとした味わいで、胃にもたれることが少ないため、多くの方に好まれます。」 記者「美里牛を育てることによって、上村さんが目指す未来像は何ですか?」 上村さん「私たちは美里牛を通じて、美里町の魅力を全国、そして世界に発信したいと考えています。SNSを活用してPR活動を行い、地元の伝統を守りつつ、新しいファンを獲得することが目標です。美里牛が再び名声を取り戻し、地元経済の活性化にも繋がることを願っています。」 記者「地域振興に貢献する若い力として、上村さんの取り組みは非常に重要ですね。」 上村さん「はい、私たち若い世代が地元を盛り上げ、美里牛を含む地元の特産品を全国に、そして世界に広めることができれば、地域全体が活性化します。地元への愛と誇りを持って、美里牛のブランド再興に向けて頑張ります。」 スーパートップ
スーパートップは乳酸菌系の添加剤で、腸内環境を整える効果があります。
下痢の予防や食滞の改善で貢献しており、使うことで牛たちの健康を維持していると話していました。
WriterY.Eguchi
知里口畜産 知里口香穂里
熊本県 阿蘇市 母牛:50頭、子牛:40頭 取材日:2024年3月25日
母牛から学ぶ畜産の知恵
記者「知里口さん、畜産技術において過去に体験された成功事例について教えていただけますか?特に、牛の健康や生産性を向上させるための具体的な方法についてです。」
知里口さん「はい、畜産の現場では日々、様々な課題に直面しています。特に子牛の管理においては、環境要因が大きく影響することが多いですね。私たちは添加剤の使用や哺乳ロボットの清掃といった基本的な管理を徹底することで、子牛の健康状態を大きく改善することができました。これにより、病気の発生が減少し、成長の安定化を図ることができるんです。」 記者「その環境要因とは具体的にどのようなものでしょうか?また、それを管理することでどのような改善が見られるのでしょうか?」 知里口さん「母牛の管理方法に大きく依存しています。母牛群の管理を改善することで、子牛のサイズに一貫性が生まれ、病気に弱い子牛が減少しました。これは、不必要に多量の添加剤やビタミン剤を使うことなく、健康な子牛を育てる上で非常に重要なポイントです。安定した環境や健康的な母牛の元で育った子牛は、成長が順調で管理がしやすくなるんですよ。」 記者「具体的にどのような添加剤が効果的だったのでしょうか?」 知里口さん「アソードという添加剤が非常に有効でした。阿蘇の赤土由来の100%天然の土なのですが、阿蘇の赤土は昔から血液をサラサラにする効果があると言われていて、肝臓の機能をサポートし、解毒作用を助けるため、私はそれを強肝剤として見ています。使っていると牛の健康を維持する効果を実感しました。血液の状態が良好になることで、牛の肝機能が向上し、全体的な健康が保たれやすくなります。これは、人間の健康管理にも似ていますね。特に価格の面でもアソードは他の添加剤に比べてコストパフォーマンスが高く、使用しやすい点が魅力でした。母牛の管理にこの添加剤を使うことで、より健康な子牛が育つようになりました。」 畜産の質を高める
記者「ご自身が管理している牛に点数を付けるとしたら、どのくらいですか?」
知里口さん「だいたい65点くらいをつけますね。時期によっては55点になることもあります。これ以上の点数を出そうとすると、かなりの投資が必要になるんです。たとえば、良い種を導入したり、母牛の管理をさらに改良したりすることが求められますが、それには相当なコストがかかりますからね。」 記者「今後、点数を向上させるために具体的にどのような取り組みを考えていますか?」 知里口さん「はい、現状65点は損益分岐点としてはまずまずですが、もちろん改善の余地はあります。次のステップとしては、飼料の均等配分や牛同士の相性を見ながらスタンチョンの配置を最適化することを考えています。これによって飼料を効率良く消費させ、全体の健康状態を向上させることが期待できます。」 記者「投資を抑えつつ、実現可能な改善策としてはどのようなことが考えられますか?」 知里口さん「具体的には、毎日の管理をさらに丁寧に行うことです。例えば、飼料の配分をもっと細かく調整することや、牛たちの健康を日々観察し、小さな変化にも迅速に対応することが挙げられます。これらはコストをあまりかけずにできる改善策で、少しずつでも牛たちの状態を良くしていければと思っています。」 牛から学ぶ、畜産の真髄
記者「畜産において重宝しているアイテムや道具があれば、その詳細を教えてください。」
知里口さん「我々の牧場では、Uモーションを非常に重宝しています。Uモーションは牛の発情や健康状態を正確に把握するのに役立ちます。現代では、管理者が牛一頭一頭の顔や名前を把握しきれないこともありますが、Uモーションを使用することで、細やかな管理が可能になります。特に分娩時にその価値を実感しており、牛にとってもストレスが少なく、私たちにとっても非常に効率的なツールです。」 記者「尊敬している人や影響を受けた人について教えてください。」 知里口さん「齋藤先生に非常にお世話になりました。齋藤先生は全酪連の先生で、SNSを通じて栄養学の基礎を教えていただきました。また、高手牧場のお兄さんにも、SNSを通じて栄養学へ誘っていただきましたし、今は、アルバータ大学の大場先生のご著書を愛読しています。理論として正しいことというより、牛と接していて牛が伝えたい事に一番近いことを教えていただきました。」 記者「座右の銘やモットーについて教えてください。」 知里口さん「私の座右の銘は「牛が先生」です。牛自身が私たちに多くのことを教えてくれます。大場先生や齋藤先生は、牛からのメッセージを最もよく理解し、それを私たちに伝えてくれる師匠のような存在です。しかし、最終的には、牛自身が直接私たちに教えてくれることが最も価値があります。そのため、牛の声を聞き、牛のために最適な環境を整えることが、私の畜産業における最大の目標です。」 アソード
アソードは阿蘇の赤土由来の添加剤で血液をサラサラにする効果があるそうです。
肝臓の機能をサポートし、解毒作用を助けるため強肝剤の代わりとして使用しているそうです。 使っていると牛の全体的な健康が保たれやすくなり、また価格面でもコストパフォーマンスが高く、使用しやすいと話していました。 母牛の管理にこの添加剤を使うことで、より健康な子牛が育つようになったそうです。 Uモーション
Uモーションは牛の発情や健康状態をの把握のために使っています。
これを使用することで、牛一頭一頭の細やかな管理が可能になったと話していました。 特に分娩時に活躍しており、牛にとってもストレスが少なく、非常に効率的なツールとのことです。
Writer_T.Shimomuro
岩根牧場 岩根太一
熊本県 菊池市 母牛:115頭、子牛:85頭 取材日:2024年3月18日
牛肉の未来を切り開く繁殖への挑戦
記者「岩根さんの技術的な部分、特に牛の飼育方法について詳しく教えていただけますか?」
岩根さん「私たちの飼育法は、実は家族代々続く黒牛の肥育から始まりました。特に子牛の相場が高騰している今、自家で子牛を育て、そこから肥育することに重点を置いています。私たちは、4から6ヶ月の間に濃厚飼料を与え、その後は草を主食に切り替えることで、肉質を大きく向上させる試みをしています。もともと肥育農家として父から子牛を選ぶ基準を教えてもらっていたのでその知見と周囲の農家さんからのアドバイスをもとに試行錯誤して繁殖を開始しました。」 記者「実際の飼育過程で直面した課題にはどのように対処してきたのでしょうか?」 岩根さん「たくさん課題に直面しました。特にお産の事故が多く、それに対処するために、私たちは最新の技術を導入しました。牛舎には監視機器を設置し、お産の開始を即座に察知できるようにしました。この対策により、お産の事故を大幅に減らすことができ、結果として繁殖の成績も向上しました。つまり、伝統的な知識に最新技術を組み合わせることで、飼育方法を革新しています。」 記者「その技術的な工夫以外に、飼料の工夫などはありますか?」 岩根さん「はい、実は飼料にも大きな工夫を凝らしています。特に、腹作りに重点を置いていて、2ヶ月まではミルクをたっぷり与え、その後一気に半分に減らすことで、濃厚飼料の摂取量を増やします。これにより、牛の胃の容量を増やし、より多くの飼料を消化できる体を作ります。」 大きさだけじゃない、品質で勝負!
記者「自分の牛の状態に点数をつけるとしたら何点ですか?」
岩根さん「正直に言うと60点くらいですね。熊本の市場では非常に大きな牛が高く売れる傾向にあり、300キロ以上でないと価値が認められません。私たちの牛は質は良いのですが、市場の求める体重まで育てるのは難しい。理由としては、大きさだけでなく、育成方法、特に腹の作り方に重点を置いているからです。市場の要求と私たちの育成方針が必ずしも合致しない部分があり、そのギャップが60点と評価した理由です。」 記者「100点に向けて+40点を目指すにはどういった点を改善したいですか?」 岩根さん「改善点としては、やはり市場のニーズに応えつつ、私たちの品質基準を保持することです。具体的には、粗飼料主体で最後までしっかりと餌を与え、大きな牛を育てることを目指しています。しかし、最終的には、私たちの理想とする育成方法で、品質とサイズの両方で高い評価を受ける牛を育て上げることが理想です。これが私たちの目指す改善点であり、目標でもあります。」 記者「飼育におけるおすすめのアイテムや道具について教えていただけますか?」 岩根さん「私たちは、最新の監視技術を導入しており、特にUモーションというシステムが非常に役立っています。このシステムを使うことで発情のタイミングを正確に把握することができます。さらに、紙での記録からデジタルへの移行により、管理が大幅に楽になりました。この技術の導入は、私たちの飼育方法に革命をもたらし、一人でも効率的に作業を行うことを可能にしています。」 小さな一歩から始まる、岩根牧場の大きな夢
記者「師匠や目標としている方について教えてください。」
岩根さん「私が尊敬しているのは、近所に住む先輩の農家さんです。その方は元々F1牛の肥育を手掛けていましたが、その柔軟な発想力と状況判断の速さで、今では200頭もの牛を飼育しています。その農家さんの強みは、時代のニーズに応じて即座に方針を変え、必要なときには牛舎を建てるなど、迅速に行動に移すことができる点です。私にとって、その方は経営だけでなく、生活のバランスの取り方も含めて大きな指標となっています。仕事とプライベートのバランスを上手く取りながら、常に新しい挑戦を恐れずに取り組んでいます。」 記者「座右の銘を教えてください。」 岩根さん「座右の銘は「小さなことをコツコツと」です。私が経営を始めた当初は、多くの計画が上手くいかず、さまざまな困難に直面しました。しかし、小さな成功を積み重ねることで、徐々に事業を成長させることができました。特に新規で事業を始める場合、周囲と同じやり方ではうまくいかないことが多いため、自分なりの小さな挑戦を続けていくことが大切です。」 記者「今後の挑戦について聞かせてください。」 岩根さん「今後の挑戦としては、私たち自身で加工から販売まで手掛けることに挑戦していきたいと考えています。現在はSNSを通じて肉の販売を行っていますが、まだ小規模な取り組みです。しかし、この取り組みを通じて直接消費者に製品を届けることの重要性を感じており、将来的には自分たちの手で加工し、より多くの人に製品を提供できるようになりたいと思っています。これは私たちにとって新たな挑戦であり、経営の一環として非常に楽しみにしています。」 Uモーション
Uモーションを使うようになり発情のタイミングを正確に把握することができるようになったそうです。また今までは紙で個体管理をしていたため、かなり時間を要していたところ、Uモーションでデジタル管理ができるようになり管理が大幅に楽になったと話していました。
Writer_Y.Eguchi
青木牧場 青木公典
熊本県 菊池市 肥育牛:90頭、親牛:100頭、子牛:62頭 取材日:2024年3月12日
究極の肉質を目指して
記者:「青木さんの牧場ならではのこだわりの飼育法などはありますか?」
青木さん:「私たちは特定の飼料の配合と与え方に大きなこだわりを持っています。独自の理論に基づき、飼料の種類や量、さらには与えるタイミングまで細かく調整しており、これが私たちの牧場の特別なこだわりかと思います。私たちは常に様々な試行錯誤を行い、牛一頭一頭の健康状態に合わせた飼料を提供することを心掛けています。」 記者:「その取り組みによって、どのような成果が見られていますか?」 青木さん:「私たちの取り組みで最も注目すべき成果は肉質の改善です。特に、飼料の質と組成を見直し、それによって赤身の割合を向上させ、脂肪の質も改善しています。さらに、牛のビタミン欠乏症を劇的に改善し、総合的に牛の健康を支え、結果的に優れた肉質を実現しています。また、牛それぞれの体質に合わせた最適な飼料選定により、消化率を高めることに成功しました。」 記者:「これらの成果を達成するまでには、相当な時間と努力が必要だったと思いますが、具体的にはどのような過程を経てきましたか?」 青木さん:「確かに、これらの成果を得るまでには多大な時間と努力が必要でした。10年以上にわたり、飼料の種類や量、そして与え方について徹底的に研究し続けてきました。この長期にわたる研究と試行錯誤の結果、今では赤身の比率が高く、かつ高品質な肉質を持つ牛を育てることができています。」 牛の健康を科学する
記者「自分の牛の状態に点数をつけるとしたら、どう評価しますか?」
青木さん「私は80点ぐらいかなと思います。その理由は、私たちが日々牛の健康管理に注力しているからです。毎日、妻が牛の検温を行い、何か異常があれば即座に対処しています。しかし、免疫力が弱い個体が一定数いるのも事実で、これはどの牧場でも共通の課題です。さらに、牛たちが健康で満足して食事をして出荷できるよう、事故率を0%にしようとすると、まだ改善の余地があることからこの評価です。」 記者「具体的に病弱な牛を減らすためにどのような対策を行っていますか?」 青木さん「下痢を始めとする様々な疾患への対策として、バイオペクトという自然由来の添加剤の使用を始めました。これは抗生物質に代わる自然治療法として、特にヨーロッパで好まれています。サトウキビから作られたこの製品は、下痢の治療において顕著な効果を示し、私たちの牧場でも大きな改善を見せています。さらに、発情や分娩の観察には監視カメラを導入しており、これにより遠隔からでも牛の健康状態を監視することが可能になりました。」 記者「これらの取り組みから、今後さらに導入を検討している新技術はありますか?」 青木さん「はい、分娩AIなどを搭載した最新の監視カメラシステムに大きな興味があります。分娩の進行状況や牛の健康状態をより詳細に、リアルタイムで把握できるようになることを期待しています。常に最新技術を取り入れ、効率的かつ健康的な牛の飼育を目指しています。」 農業に生きる情熱
記者「新規就農者へのメッセージはありますか?」
青木さん「一番大切なのは、やる気と情熱です。ただお金儲けのために農業を始めると、ほぼ確実に失敗します。牛を愛し、農業に情熱を注げる人だけが成功します。そして、お金はそれからついてくるものです。」 記者「尊敬する人の中で、特に影響を受けた人物はいますか?」 青木さん「具体的な名前を出すのは避けますが、私が若い頃に影響を受けたのは、幅広い分野で成功を収めた方です。何事にも好奇心旺盛で、その生き様が私にとっては非常に魅力的でした。」 記者「その方の生き様から学んだことは何ですか?」 青木さん「それは、好奇心の大切さです。私たちは、好奇心を持って新しいことにチャレンジし続けることで、自分の生きざまを豊かにすることができます。その方は、多岐にわたる分野で成功を収め、人生を豊かに生きた典型です。」 記者「今後の展望についてはどう考えていますか?」 青木さん「私はまだ発展途上ですが、これからも様々な挑戦を続けていきたいと思っています。若い人たちには、何事にも挑戦し続ける精神を持ってほしい。そして、それが結果的に人生の成功へと繋がると信じています。」 バイオペクト
サトウキビ由来の添加剤で下痢の治療に効果的なのだそうです。
ヨーロッパ(デンマーク)発祥の商品で抗生物質に代わる治療法として愛用しています。 監視カメラ
発情や分娩の観察には監視カメラを使用しており、遠隔からでも牛の健康状態を監視することができます。
常に新しい物を取り入れながら現状を改善していく青木さんにとって欠かせないアイテムになります。
Writer_Y.Eguchi
|