西尾牧場 西尾光隆
長崎県 佐世保市 母牛:100頭、子牛:40頭 取材日:2024年5月23日
牛たちの一年を支える
記者「西尾さんの牧場でこだわっているポイントを教えてください。」
西尾さん「うちは繁殖農家なので、一年一産することを非常に重視しています。一年一度で確実に牛を出産させるための環境作りに力を入れています。」 記者「一年一産を実現するために具体的にどのような行動を取っていますか?」 西尾さん「牛の妊娠期間は大体285日ですから、年産を実現するためには分娩後80日以内に再度種付けを行わなければなりません。分娩直後はすぐには種付けできないので、約40日後から種付けを開始し、残りの40日以内に成功させるようにしています。このスケジュール管理が非常に重要なんです。」 記者「その種付けを成功させるために必要なことは何ですか?」 西尾さん「まず、牛の健康状態を常にチェックし、ビタミンや微量要素の管理を徹底しています。そして、分娩後できるだけ早く初回の発情を見つけるために、牛の観察をしっかり行います。この観察と栄養管理が、種付けの成功に直結する大事な要素です。」 記者「子牛のケアについても重要だと思うのですが、その点はいかがでしょうか?」 西尾さん「そうですね。一年一産を達成するためには、子牛のケアも非常に重要です。うちでは早期に母牛から子牛を離し、ミルクを与えています。全国的には3日から1週間で離すところが多いですが、うちは可能な限り早く行っています。これにより母牛の回復を促進し、次の繁殖サイクルに備えることができます。また、子牛の栄養管理も徹底し、分娩前後のケアを行うことで、健康な成長をサポートしています。」 牛たちの健康管理を極める
記者「西尾さんの牛の状態に点数をつけるなら何点ですか?」
西尾さん「そうですね、最良の状態だと90点くらいですが、今の状態は80点くらいでしょうか。まず、一年一産が目標ですが、うちはこの10年間、ほぼ全ての牛が一年一産を達成しています。しかし、全体の健康状態を見ると、100頭中いくつかは軽い病気や肺炎などの問題が発生します。それでも大きな問題なく順調に育っていますので、80点と評価しています。」 記者「母牛の繁殖成績は具体的にどのようなものですか?」 西尾さん「うちの平均分娩間隔は約11.6ヶ月です。12ヶ月を切れば一年一産が可能になりますが、これを10年以上達成してきました。種付けの回数は平均1.8回で、理想は1回ですが、現実的には1.5回を目標としています。また、全ての牛が均等に良い成績を出すように、さらに改善を目指しています。」 記者「点数を100点に近づけるために改善したいポイントは何ですか?」 西尾さん「今のところ、分娩前後の栄養管理を徹底していますが、種付けの成功率をさらに高めるために、ホルモン注射などを活用しています。また、個々の牛の状態をより詳しく観察し、必要に応じて適切な対応を行うことが重要です。今後もこの一年一産という基本方針を維持しつつ、さらに細かい管理を行っていきたいです。」 記者「具体的にどのような改善が効果的だと考えていますか?」 西尾さん「今も飼養管理はしっかり行っていますが、牛の栄養状態を常に最適に保つことが重要です。特にビタミンやミネラルの不足を防ぐため、適切なエサや添加剤を使用しています。また、繁殖機能をサポートするために、種付けのタイミングを正確に見極めるための観察を徹底しています。これらの取り組みを継続し、さらに改善することで、牛の状態を100点に近づけていきたいです。」 二度と来ない今日を百日のように
記者「師匠や目標にしている方はいらっしゃいますか?」
西尾さん「はい、私には二人の師匠がいます。まず一人目は長崎農大の研修で出会った荒木大作さんという方です。大学のカリキュラムで1年生の時に1週間、2年生の時には1か月の研修があり、その時に出会った方なんです。元々地元では農業には興味がなかったのですが、その方の牧場での経験が大きな影響を与えました。彼の牧場では120頭の牛を飼っていて、規模の違いに驚きました。彼は学生だった私に機械の操作や牛の種付けなど、さまざまな経験をさせてくれました。この経験が私が地元に戻って牧場を継ぐ決意を固めるきっかけになりました。」 記者「もう一人の師匠についても教えてください。」 西尾さん「もう一人は地元の農家の鳥山さんです。大学を卒業して地元に戻った後、国の後継者育成制度を利用して鳥山さんのもとで2年間研修を受けました。彼もまた、多くの経験をさせてくれる方で、牛の共進会に参加したり、地元の農家コミュニティに私を紹介してくれたりしました。彼のおかげで地元での活動がスムーズに進みました。」 記者「そうした経験が牧場経営にどのように役立っていますか?」 西尾さん「鳥山さんのおかげで、地元の農家コミュニティに溶け込みやすくなりました。また、牛の共進会などのイベントに参加することで、多くの知識と経験を得ることができました。これらの経験が、現在の牧場経営に大いに役立っています。」 記者「最後に座右の銘を教えてください。」 西尾さん「『二度と来ない今日というこの日、この一日を百日のように生きたい』という言葉です。この言葉は小学生の頃に出会い、今でも心に残っています。毎日を大切にし、一瞬一瞬を全力で生きることが大事だと感じています。」 記者「その言葉を大事にしている理由を教えてください。」 西尾さん「小学生の頃、親しい人の死や大切なものを失う経験を通じて、日々を大切に生きることの重要性を感じました。後悔しないためにも、今できることを全力でやることが大切だと思っています。」 ニュー・ハイコロィカル
ニュー・ハイコロィカルは、ビタミンやミネラルを含む添加剤です。牛の健康をサポートし、特に子宮の状態を良好に保つことで、自然発情を促進し、分娩間隔の改善に寄与します。
Writer_T.Shimomuro
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山崎牧場 山崎隆幸
長崎県 松浦市 親牛:11頭、子牛:7頭 取材日:2024年5月22日
堆肥で繋ぐ未来
記者「牛飼いの生い立ちについて教えてください。」
山崎さん「私の家は代々牛を飼っていて、父も祖父も牛を飼っていました。家では3頭ほどの牛を飼いながら、タバコの栽培も行っていました。小さい頃から牛小屋が家の近くにあったので、自然と牛の世話を手伝うようになりました。中学校を卒業してからは北松農業高校に進学し、その後は農業大学に進みました。大学では同じ志を持つ仲間と出会い、刺激を受けました。大学で学んだことを元に、卒業後は地元に戻り、家業を継ぎました。」 記者「刺激を受けたことで、家業の牛飼いを継ぐ決心をしたということですね。」 山崎さん「そうですね。大学での学びと出会いが、私にとって大きな影響を与えました。父親の背中を見て育ったこともあり、牛飼いとして生きていく決心がつきました。」 記者「先ほど、タバコの栽培もされているとおっしゃっていましたが、牛飼いとタバコ産業にはどのような関連がありますか。」 山崎さん「はい、タバコの栽培には良質な肥料が必要です。私たちは牛から出る糞尿を肥料として利用しています。ただ、そのまま使うと匂いや塩分の問題がありますので、一度堆肥として熟成させ、塩分を抜いてから使用します。こうすることで、臭気の問題も軽減され、環境に優しい農業が可能になります。」 記者「堆肥の匂いや塩分問題の対策として、どのような方法を取られていますか。」 山崎さん「堆肥を適切に処理するために、まず牛糞を天日干しして発酵させます。これによって、匂いが軽減され、塩分も自然に抜けていきます。また、堆肥散布機を使って畑に均等に撒くことで、土壌の改良にも役立てています。こうした工夫を重ねることで、良質な堆肥を作り、持続可能な農業を実現しています。」 記者「堆肥の管理にはどのような工夫をされていますか。」 山崎さん「堆肥の管理には、使用する分と保存する分をしっかり分けて行っています。必要に応じて堆肥散布機を使って畑に撒き、適度に量を調整しています。こうすることで、堆肥が過剰にならないようにし、効率的に資源を活用しています。」 未来を見据えた畜産経営
記者「山﨑さんがご自身の牛の状態に点数をつけるなら何点でしょうか。」
山﨑さん「55点ぐらいですかね。8ヶ月で出荷できる牛もいるし、運動場があるおかげで発情のタイミングが見つけやすいという利点があります。適度な運動ができる環境が整っていることで、牛の健康管理もしやすくなっています。しかし、まだ改善の余地があると感じています。」 記者「その55点を100点に近づけるために、具体的にどのような改善を考えていますか。」 山﨑さん「まず、子牛の下痢を防ぐために、スターターをしっかり与えて4、5か月まで管理観察を徹底したいです。また、母牛のコンディション管理をしっかり行い、配合飼料を適量に保つことで健康を維持させたいと思っています。そして、受精卵移植などを活用して血統の改善を進め、一年一産を目標に頑張りたいです。」 記者「おすすめのアイテムや道具について教えてください。」 山﨑さん「おすすめのアイテムは、鉱塩です。必要な時に必要なミネラルを手軽に取ることができ、人手をあまりかけずに管理できるので助かっています。」 記者「鉱塩はどのくらい使われているんですか。」 山﨑さん「もう10年ほど使っています。鷹島地区でも多くの方が鉱塩を利用しています。醤油かすや大豆かすを使っている方もいますが、私は鉱塩を愛用しています。」 鷹島の誇りを胸に
記者「師匠や目標にしている方はどなたですか。また、どういったところを尊敬しているのでしょうか。」
山﨑さん「目標にしている方は、鷹島の先輩方です。鷹島の先輩方は分娩間隔が全国でも上位で、一年に一度の分娩をしっかりと実現しています。毎年、全国上位に入ることもあり、セリ市でも高値で評価されることが多いです。特に、牛の太り具合が良く、油が少ないため、購買者から高く評価されています。」 記者「具体的なエピソードがあれば教えていただけますか。」 山﨑さん「鷹島の牛は太りすぎず、適度な脂肪でカラッとした肉質が特徴です。これが購買者から高く評価されている理由の一つです。実際にセリ市で高値がつくことが多く、平均でも鷹島地区の牛は高く評価されています。」 記者「最後に、座右の銘を教えてください。」 山﨑さん「私の座右の銘は『二刀流』です。牛飼いと他の事業を複合経営していくことを意味しています。例えば、牛飼いとタバコ栽培を並行して行うことで、どちらかの相場が下がっても収入を安定させることができます。将来的には、自分で人工受精や育成技術を磨いて、より高品質な牛を育てていきたいと思っています。」 鉱塩
鉱塩は、手軽に必要なミネラルを補給できる便利なアイテムです。
10年以上にわたり利用され、特に鷹島地区で広く愛用されています。 醤油かすや大豆かすを使われる農家も多いですが、鉱塩の人気も根強いそうです。
Writer_Y.Eguchi
岩﨑畜産 岩﨑淳治
熊本県 大津町 交雑育成牛:100頭、親牛:45頭、子牛:25頭 取材日:2024年5月16日
観察が命
記者「岩﨑さんの一家相伝の技術や、技術的な部分でこだわっているポイントについて教えてください。」
岩﨑さん「私たちのこだわりは観察にあります。毎日、牛の様子を細かく観察することで、健康状態を把握しています。これにより、病気の早期発見や対策を取ることが可能になります。特に、牛の動きや餌の摂取状況、ふだんと違う行動が見られた場合には、すぐに異常を疑います。観察は一見地味ですが、非常に重要な作業です。」 記者「観察の具体的なポイントについて、もう少し詳しく教えてください。」 岩﨑さん「例えば、牛が餌を食べに来ない場合や、食欲が明らかに低下している場合、それは何かしらの問題が起きているサインです。過去に熱が原因で餌を食べなくなった牛がいたので、まずは体温を測ります。異常があればすぐに獣医を呼び、治療を始めます。観察を通じて、日々の健康管理がどれだけ大切かを実感しています。」 記者「具体的なエピソードとして、過去にどのような異常を発見し、どのように対処したか教えてください。」 岩﨑さん「小さな牛が耳を下げているのを見たことがあります。それは中耳炎の予兆でした。普段からの観察で異常に気づけたので、早期に治療を開始し、重症化を防げました。また、下痢が見られた場合にはすぐに消毒を行い、専用の薬を使って対処します。こうした早期発見と対応が、牛の健康維持に大いに役立っています。」 記者「下痢に対する対策について、もう少し詳しく教えてください。具体的にはどのような薬を使っていますか?」 岩﨑さん「うちでは、消毒に加えてミヤリサン(宮入菌末、ゲンノショウコ末、トウモロコシデンプン、人工カルルス塩、乳糖水和物を含む)やトルラミン(トルラ酵母、コハク酸、テトラーゼTを含む)といった薬を使っています。ミヤリサンは下痢止めとして使用している整腸剤します。トルラミンは消化機能を助ける消化機能促進剤です。実際に効果があることは日々の飼育で実感しています。」 健康管理のプロフェッショナル
記者「岩﨑さんが自分の牛に点数をつけるなら何点ですか?」
岩﨑さん「75点ですね。健康状態が良いことが大きな理由です。牛たちはしっかり寝ていて、ストレスなく過ごしています。また、餌もよく食べているので、総じて健康だと感じています。健康管理に気を使い、適切な環境を提供することで、この点数を保っています。」 記者「牛たちの健康を保つために具体的にどのような工夫をされていますか?」 岩﨑さん「牛の相性を見て部屋を分けることにこだわっています。群れに入れたときに強弱ができるので、弱い牛同士を一緒にして、強い牛からのストレスを避けるようにしています。これにより、餌の取り合いや怪我のリスクを減らし、牛たちが安心して過ごせる環境を作っています。」 記者「75点を100点にするために改善したい点は何ですか?」 岩﨑さん「種付けの成功率を上げることです。受胎率を改善するために、発情の観察をもっと徹底し、必要に応じてホルモン注射などの対策を講じています。観察力を高めることが、種付けの成功率を上げる鍵だと考えています。」 記者「オススメのアイテムや道具があれば教えてください。」 岩﨑さん「監視カメラですね。導入前は夜中に何度も見回りをしていたのですが、カメラを設置してからはその必要がなくなりました。これにより従業員の負担が減り、効率よく牛の監視ができるようになりました。」 ご縁を育む
記者「目標にしている師匠や尊敬している方をご紹介ください。」
岩﨑さん「近所のETファームの田代さんです。田代さんは、情報量が多く、勉強熱心な先輩であり、血統の組み合わせや繁殖方法について具体的なアドバイスをいただいています。」 記者「具体的にはどのようなアドバイスをいただいているのですか?」 岩﨑さん「直近では、血統の組み合わせについて教えてもらいました。適切な掛け合わせをすることで、健康で優秀な牛を育てることができるんです。田代さんは次に流行りそうな血統やトレンドにも詳しく、そういった知識をシェアしてくれます。田代さんはとても気さくで話しやすい方で、この地域でもよく知られており、皆から信頼されています。彼と話していると、いつも新しい発見があり、勉強になります。」 記者「座右の銘は何ですか?」 岩﨑さん「『一期一会』ですね。人との繋がりを大切にすることで、多くの学びやチャンスが生まれます。これまでの経験でも、紹介された方との出会いが新しい道を開いてくれることが多かったです。例えば、繁殖農家さんから良い種牛を紹介してもらったことがあります。その結果、非常に優秀な牛が育ちました。また、畜産農家同士で情報交換することで、病気対策や飼育法について新しいアイデアを得ることができました。」 監視カメラ
監視カメラ導入前は、夜中の見回りが頻繁で従業員が疲弊していました。カメラ導入後は、遠隔で状況を確認できるようになり、見回りの負担が大幅に軽減されました。その結果、無駄な見回りが減少し、従業員の負担が軽減され、業務の効率が向上しました。さらに、異常が発生した際も迅速に対応できるようになり、安全性が向上しました。
Writer_T.Shimomuro
竹内牧場 竹内雄哉
熊本県 菊池郡 肥育牛:220頭、親牛:50頭、子牛:30頭 取材日:2024年5月13日
肥育から一貫農家への転向
記者「竹内さんの就農のきっかけを教えてください。」
竹内さん「就農のきっかけは、幼少期からずっと牛と一緒に過ごしていたことです。実は、小学校から高校までは逆に牛飼いにはなりたくないと思っていたんです。しかし、大学に進学した頃に、実家が牛を飼っていることもあって、家業を継がなければならないという気持ちが強くなりました。また、収入面でも安定しており、将来的に家庭を守ることができると考えて、就農を決意しました。」 記者「なるほど。肥育農家から一貫農家に変わられたと思いますが、一貫経営に取り組まれたきっかけは何でしょうか?」 竹内さん「一貫経営に取り組んだ理由の一つは、若かったこともありますが、その時期に繁殖牛の価格が非常に高かったことが大きな要因です。これはチャンスだと思い、思い切って繁殖にも手を出しました。繁殖牛を自分で育てることで、コストを抑えながら収益を上げられると考えました。」 記者「経営的な部分で将来の見通しも考えて、繁殖にも取り組まれたということですね?」 竹内さん「はい、そうです。繁殖と肥育の両方を手掛けることで、どんな状況になっても強みを持てると考えました。自分で育てた牛を肥育まで行うことで、経営の安定性を高められると思っています。これからの農業経営において、多角的に取り組むことが重要だと感じました。」 記者「確かに、最近では繁殖と肥育の両方を行う農家が増えていますね。」 竹内さん「そうですね。繁殖と肥育の両方を行うことで、技術的にも経営的にも自分の価値を高めることができます。それにより、経営の幅が広がり、安定した収入を得ることができます。これからもこのスタイルで頑張っていきたいと思います。」 竹内牧場の牛育て奮闘記
記者「自分の牛の状態に点数をつけるなら何点でしょうか?」
竹内さん「50点くらいでしょうか。理由としては、繁殖を始めたばかりなので、まだ経験が浅いです。周りからは若手と言われますが、それでも『いい牛だね』と言ってもらえることもあれば、まだまだだと感じることもあります。値段面でもまだ満足いく結果が出せていません。今の状態では、繁殖と肥育のどちらもまだ成長の余地が多いと感じているので、50点としました。」 記者「その50点を100点に近づけるためにどのようなことをしていきたいと考えていますか?」 竹内さん「まずは飼料の改良ですね。今使っている粗飼料と濃厚飼料の比率を見直し、与える量を調整していきたいと思います。具体的に言うなら、牛一頭一頭に対して適切な比率を考えることが大切です。牛によって食べる量が違いますので、それぞれに合った飼料を与えることで、健康な牛を育てたいと考えています。」 記者「購入飼料を使用されている理由は何ですか?」 竹内さん「家族経営なので時間がないというのが大きな理由です。自分たちの労働時間を考慮して、購入飼料を使うことで効率よく仕事ができるようにしています。原価は高くなりますが、その分、時間と労力を節約できるので、この方法を選んでいます。」 記者「おすすめのアイテムや道具があれば教えてください。」 竹内さん「牛舎ですね。特に肥育用と繁殖用で牛舎を分けることが重要です。繁殖牛舎では、作業効率を上げるために高さや幅に気を付けました。他の牧場を見学して、いいところを取り入れつつ、自分たちの環境に合った設計にしました。例えば、親と子牛が一緒にいると怪我するリスクがあるので、子牛だけが入れる扉を作ったりしています。」 逃げずに頑張る
記者「座右の銘は何ですか?また、それが大事だと思う理由を教えてください。」
竹内さん「座右の銘は『逃げずに頑張る』です。逃げるのは簡単だと思うんです。特に今の畜産業は不景気で、厳しい状況が続いています。でも、その状況にどう立ち向かうかが重要だと思っています。逃げずに頑張っていけば、後々きっと良いことが訪れると信じています。だからこそ、この言葉を大事にしているんです。」 記者「確かに、不景気の中で赤字になるリスクは昔に比べて高いですもんね。」 竹内さん「そうなんです。その中でどうやって黒字にしていくかが課題です。でも、諦めずに努力を続ければ、必ず結果はついてくると思っています。やめなければ、逃げなければ、道は開けると信じています。」 記者「最初は牛飼いをしようと思っていなかったのに、今こうして牛を飼っていることについてどう思いますか?」 竹内さん「いざやってみたら、やりがいがあると感じています。もう7年になりますが、もっと早くから継ぐために勉強していれば良かったなと思うこともあります。ただ、今はこの仕事に誇りを持っていますし、収益を上げるために努力することにやりがいを感じています。」 記者「畜産のやりがいとは、具体的にどんな点にありますか?」 竹内さん「やはり、良い成績が出たときです。自分が理想とする牛が育った時に非常に大きなやりがいを感じます。例えば、理想的な体型や健康状態の牛が育ち、その牛が市場で高評価を受けた時の達成感は何にも代えがたいものです。」 牛舎
竹内牧場の牛舎は作業効率を重視して設計されています。見学した牧場の良い点を取り入れつつ、環境にあった形で設計をしているそうです。親牛と子牛を分けるための扉を設置し、怪我のリスクを軽減しています。
Writer_T.Shimomuro
矢嶋牧場 矢嶋行
北海道 別海町 育成牛:30頭、親牛:90頭、子牛:30頭 取材日:2024年5月9日
心の足並み揃った全員飼育
記者「矢嶋さんの牧場でこだわっている飼育方法やポイントを教えていただけますか?」
矢嶋さん「うちは和牛の繁殖農家で、妊娠した牛は運動できる場所で分娩に備えて、足腰を強化してもらってます。後は特に子牛が生まれてからの3ヶ月間にこだわっています。生まれたばかりの子牛には必ず母親の乳を飲ませるようにしています。これはとても大切で、子牛が母親の乳房をしっかり確認してから飲むように、時間をかけて見守っています。なかなか飲まない子牛もいますが、そこはじっくりと手をかけて対処しています。」 記者「親の乳を飲ませることが重要だとよく言われますが、矢嶋さんが特に重視している点はありますか?」 矢嶋さん「和牛はホルスタインに比べて乳の量は少ないですが、その乳に含まれる栄養素や免疫グロブリンの量が豊富と言われています。この栄養素をしっかりと子牛に摂取させることで、発育状況が良くなり、病気にかかりにくくなると考えています。特に免疫グロブリンが重要で、これを摂取することで子牛の健康状態が大きく向上します。」 記者「他にもこだわりのポイントがあるとお伺いしましたが、教えてください。」 矢嶋さん「母親の乳を1週間から10日程度飲ませた後は人工飼育に切り替えますが、その際に使うミルクや量を個別に調整しています。全ての子牛に同じ量を与えるのではなく、それぞれの状態を見ながら、必要な量や栄養素を判断して与えています。このように個別対応することで、各子牛が最大のパフォーマンスを発揮できるように工夫しています。」 記者「1頭1頭の管理は大変だと思いますが、何人で作業されているんですか?」 矢嶋さん「私と妻の2人で主に作業を行っています。小学生の男の子が2人いますが、休みの日には手伝ってくれます。現在、繁殖用の親牛が約90頭、育成中の子牛が30頭、生まれてから3ヶ月までの子牛も約30頭います。合計で150頭ほどを2人で管理しているので、妻の負担も大きくかなり大変ですがチーム矢嶋家族で協力して頑張っています。」 壮健に挑戦
記者「自分の牛の状態に点数をつけるなら何点ですか?」
矢嶋さん「そうですね、技術はまだまだですが牛への点数は約90点だと思います。新規就農時に前のオーナーから引き継いだ母牛や育成牛を考慮すると、そのくらいの点数が妥当だと思います。元々日本の黒毛和種は改良が進んでおり、そもそものポテンシャルが高いと捉えているので後は人間が能力を最大限引き出すことが重要なのですがそこの技術はまだまだなので日々挑戦です。現在の牛たちは血統も良く、分娩事故もなく助かっています。」 記者「90点の理由として、どのような点が評価されているのですか?」 矢嶋さん「先程申した通り日本の黒毛和種は改良が進んでおり、元々のポテンシャルが非常に高いはずです。そのため、親牛の管理さえしっかりできればそこから生まれる子牛も血統や状態が非常に良いと捉えてします。また、今のところ早期対処で下痢や病気も少なく管理できていますので、この点数をつけています。」 記者「この90点を100点にするために、今後どのような取り組みを考えていますか?」 矢嶋さん「現在のマイナス10点は、哺育中の牛や育成牛の体重増加に関してです。60日前後で販売する牛、約10ヶ月未満で販売する牛の評価を向上させるため、DG(1日あたりの体重増加量)をもっと上げたいと考えています。具体的には、冬季の環境管理、ミルクの量や質、草の量や質を改善し、子牛の成長を最大限に促進する方法を模索しています。」 記者「体重を増やすために具体的にどのような取り組みをしていますか?」 矢嶋さん「まず、生まれてくる子牛が大きければ体重を増やしやすいのですが、母牛に負担がかかるため、お腹の中での過剰な大きさはこれ以上どうなのかなと思い、産まれ落ち状態からの改善にフォーカスしています。産まれて間もない子への環境管理やミルクの量、スターター飼料の質を見直し、ミルク卒業後の草の質や量を調整しています。特にルーメン(第一胃)の発達をしっかりと促すため、3か月までの間に適切な管理を心がけ思考しています。」 感謝の心
記者「北海道上春別で黒毛和牛の繁殖を行うことは珍しいと感じますが、これを取り組もうと思われた背景について教えてください。」
矢嶋さん「そうですね、私は5年前に畜産業界に転職し、約4年間クラウド上で台帳管理をしたり、牛に装着するセンサーデバイスを扱う会社で働いていました。そこで牛の発情や病気を検知するセンサーを北海道の農家さんなどに提供していました。その仕事を通じて初めて畜産業界に触れ、黒毛和牛の魅力を知りました。牛を繁殖させ販売することで生計を立てるビジネスモデルに強く惹かれ、自分も和牛の繁殖に挑戦したいと思うようになりました。前職で関わった農家さんが後継者不足や高齢化で悩んでいるのを見て、少しでも役に立てればという思いもありました。」 記者「そのような背景があったのですね。具体的にはどのようなステップを踏んで現在の状況に至ったのですか?」 矢嶋さん「最初は北海道全域で就農先を探していました。その中で地域おこし協力隊という制度を知り、北海道の道北地方の小平町で和牛の預託施設での仕事を始めました。当地域では農業と畜産の両立で営んでる方が多い素晴らしい地域でした。牛飼いとしての現場経験がなかった我々に親身になって接してくれる方ばかりで様々な事を教わりました。しかしあくまでも私の目標はというかワガママというか、和牛のみで生計を立てたい思いが強く、3年間の定住を前提にした制度でしたが、結果1年間で退任させて頂き他の地域での就農を模索しました。そんな中、現在の就農先となる上春別での農協や地元の方々の支援を受け、ようやく夢を実現することができました。」 記者「地域おこし協力隊としての経験もあったのですね。現在の農場での支援についてもう少し詳しく教えてください。」 矢嶋さん「上春別の農協や地元の方々には非常に感謝しています。新規就農するにあたって、資金計画や営農計画など、色々な面で支援を受けました。また、地域おこし協力隊として活動していた小平町の方々にも、和牛一本でやりたいという私の夢の背中を押して頂き、応援していただきました。関係各所様々な皆さんの支えがあってこそ、今の農場での活動が成り立っています。」 記者「最後に、座右の銘を教えていただけますか。」 矢嶋さん「私の座右の銘は『人間万事塞翁が馬』です。良い時も悪い時も、自分の進むべき道を見失わずにモチベーションを保つことが大切だという意味です。祖母から教わった言葉で、幼い頃から野球を通じてこの教えを心に刻んでいました。どんな状況でも前向きに取り組むことを忘れずに、牛の繁殖にも挑んでいます。」 哺乳ロボット
哺乳ロボットは、子牛が自分のペースでミルクを飲むことができるよう設計されています。これにより、子牛のストレスを軽減し、健康な成長を促進します。また、飼育者の労力を大幅に削減し、時間を有効に活用できるため、育成管理が効率化されます。ミルクの量やタイミングを自動で調整する機能もあり、子牛一頭一頭に最適なケアを提供します。
ミルクバケツ
手作りのミルクバケツは、市販の哺乳ボトルでは対応できないニーズに応えます。特にハッチ(子牛用ゲージ)に取り付ける部分が市販品にはないため、自作することでコストを抑えつつ、使い勝手を向上させています。また、ミルクバケツと哺乳ロボットの乳首の形状を統一することで、子牛がスムーズに飲み慣れることができ、切り替え時のストレスを軽減します。これにより、育成環境が整備され、子牛の成長に最適な条件を提供します。
Writer_T.Shimomuro
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