美間坂牧場
佐賀県唐津市 和牛:65頭 取材日:2023年6月14日
はじめに
美間坂牧場では、ICT(※1)導入による効率化とゲノム(※2)活用による品質向上に取り組まれています。また、自家牧草の栽培にも工夫を凝らしており、牛の健康と成長に寄与しています。本記事では、肉牛枝肉共励会で2年連続最優秀賞を受賞した美間坂さんの取り組みについて詳しくご紹介します。
(※1)情報処理および通信技術の総称を指す用語のこと (※2)遺伝子と染色体から合成された言葉で、DNAのすべての遺伝情報のこと ICT化で変わる牧場の日常
ー美間坂さんの牧場でのICT導入について具体的な変化など教えていただけますか?
ICTの活用は私たちの業務を大きく変えました。一つは、牛の分娩に関してです。以前は分娩が近づくと、夜通しで見守る必要がありました。しかし、今ではICTの力を借りて、分娩の兆候が現れたときにメールで通知を受け取ることができます。これにより立ち会う頻度が減り、必要以上の労力を割かずにすむようになりました。私自身、この時間を活用して趣味のゴルフを楽しむ時間が増えたほどです。また、このシステムで体調の微妙な変化もすぐに察知でき、必要なケアを適切なタイミングでできるので、牛たちにも優しい道具だと思っています。 最優秀賞への道:ゲノム活用
ー美間坂さんの牧場でのゲノム検査についてお伺いできますか?
私たちの牧場では、ゲノム検査を行って牛一頭一頭のケアに活かしています。具体的には、BMSという遺伝子検査を導入し、その結果を基にエサの調整や、優れた遺伝的特性を持つ子牛の選び出しています。この方法により、私たちは牛の遺伝的な可能性を最大限に活用することができます。 ーゲノム検査のおかげで「見た目」だけではわからない子牛たち1頭1頭の特性を知ることができるのですね。 そうですね。これらの遺伝情報を通じて、病気への耐性や生産性の向上も図ることができます。実際に、当牧場の牛は2年連続で肉牛枝肉共励会の最優秀賞を受賞しました。これも、ゲノム解析を通じて適切な育成を行えた結果と考えています。 牧草品質が牛育成に与える影響
ー美間坂牧場で自家製の牧草を利用していると聞きましたが、その詳細を教えていただけますか?
自家牧草は私の一つのこだわりでもあります。私たちの牧場では、A飼料の「アソード」を食べた牛の堆肥を活用して、土壌を肥沃に保ち、そこで自家製の牧草を栽培しています。この牧草は栄養バランスが理想的で、牛たちの健康維持と成長にすごく役立っています。高品質な牧草を与えることで、種付けの成功率が上がっている気がします。また、自家製の牧草を使用することで、飼料価格の高騰への対策にもなっています。そういった点も含めて、牛たちの品質向上に貢献しています。 ー牧草作りは季節や天候などの影響をうけるのでとても労力がかかるそうですが、美間坂さんお一人でされているのですか? そうですね。基本的には私一人ですべて行っています。一人で牛の世話と牧草の栽培を手掛けるのは確かに大変な作業です。「牛への愛情」があるからこそ、この仕事が続けられるのでしょうね。 ーありがとうございました。 編集後記
今回、美間坂さんの牧場を訪問し、ICT技術の導入やゲノム検査、自家牧草栽培など、革新的な方法で畜産業に取り組む姿を間近で見ることができました。畜産業と聞くと伝統的なイメージが強いかもしれませんが、美間坂さんの牧場のように、最新の技術を活用しながら経営する姿は、まさに新時代の畜産業の姿だと感じました。畜産業とは「牛への愛情」と語る美間坂さんの笑顔には、深い愛情と喜びが溢れていました。
こだわりのアイテム
自家牧草
美間坂さんの育てる牧草はアソードを取り入れた牛の堆肥から作られます。
牧草の質次第で種付けの良さが変わってくるため牧草づくりには特に強いこだわりをもって取り組んでいます。
Writer_T.Shimomuro
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古河畜産
佐賀県唐津市 和牛:母牛70頭、F130頭、仔牛70頭 取材日:2023年6月14日
はじめに
牛たちが安心して生活し、その健康と発育を最大限に引き出すためには何が必要でしょうか。その答えは、単なる物理的な環境や飼料だけではありません。古河畜産の古河さんが提唱するところでは、それは「愛情」と「配慮」、「清潔な環境」と「効果的な飼料」それらを総合的に組み合わせたものです。これらの要素が牛たちの健康、そして結果的には畜産経営の成功につながると、古河さんは強く信じています。この記事では、古河さんが行っている愛情溢れる牛の育成法と、変動する環境要因に立ち向かう持続的な経営方法について紹介していきます。
愛情溢れる牛の育成法
ー牛を育てる上で古河さんが特にこだわっていることを教えていただけますか?
私たちの畜舎では、愛情と配慮が何よりも重要だと考えています。まず最初に考えるべきは、牛たちが過ごす場所、つまり畜舎の清潔さです。人間が心地よく寝れるほど清潔な環境を保つことを心がけています。それにより、牛たちはストレスフリーな状態で過ごすことができるのです。 また、食事に対しても配慮は欠かせません。私たちは「アソード」というA飼料を使用し、健康維持や成長促進に繋げています。アソードを使い始めてから、牛たちの毛並みのツヤが出始め、風邪や病気に対する抵抗力も上がりましたね。 愛情と礼儀を大切にしたコミュニケーション
ー古河畜産の運営において大切にしている考え方を教えていただけますか?
私たちの畜舎では挨拶や礼儀を非常に大切にしています。コミュニケーションは社員やアルバイトスタッフとの関係性に大きな役割を果たします。私たちは全員が大切なチームの一員だと考えていますし、それぞれに愛情を持って接しています。日々の業務においても、丁寧な指導や声かけを行い、全員が働きやすい環境を整えるように努めています。 また、掃除についても同様です。打ち合わせなどで来客があった際に応接室が汚いと心象が悪いじゃないですか?また来たいと思ってもらうことはお互いにとってメリットがあると思うので掃除についてもくどいように言っています。 こうした日々の取り組みが人とのコミュニケーションを円滑にし、全体の雰囲気をよくすると信じています。そして意図的に経営や時間、人にも「ゆとり」を生み出しています。そのゆとりは牛たちにも伝わると思うんです。 変動要因に立ち向かう
ー持続的な経営をするためにどのような戦略を立てていますか?
まず、経営計画を立てることがとても重要です。しかし、現実は常に変動要因に満ちていますね。 それが気温だったり、牛の健康状態だったり、社会情勢だったり。それらに対応するために、経営計画は柔軟に変更していかなければならないと考えています。 就農したばかりの時期の話ですが、経営を安定させるために外部採卵事業を立ち上げました。さらに、ICT(※1)機器を使って牛の状態管理を行い、仔牛の体調変化の見逃し問題を解決してきました。 ー常に変化する問題に立ち向かい続けることは相当な情熱がないとできないことだと思いますが、古河さんにとって畜産業とはなんですか? 食事も掃除もコミュニケーションもそこから生まれる「ゆとり」も。何事も牛を中心に考えたものです。畜産業は「牛を子どものように育てる」気持ちがあるからこそできる仕事だなと思います。 ーありがとうございました。 (※1)情報処理および通信技術の総称を指す用語のこと 編集後記
古河さんの取り組みを見ていると、その一貫性と情熱を深く感じられました。「牛を子どものように育てる」この言葉は古河さんの経営哲学の核心であり、牛たちへの愛情を表現したものです。畜舎の清潔さ、高品質な飼料の使用、そして社員やアルバイトスタッフとのコミュニケーション。それぞれが深い愛情を示しています。逆境にも屈せず情熱を持って取り組む古河さんの姿勢は、私たちにとっても大きな学びを与えてくれます。愛情と尊重をもとにした古河さんの経営哲学は、畜産業を営む方々に響く大切なメッセージだと思いました。
こだわりのアイテム
JAY・LORミキサー
JAY・LORミキサーを使うことで調理から給餌までにかかる時間が短縮できるのだそうです。牛が食べやすい大きさで均一に飼料をカットできるところがこだわりです。
Writer_T.Shimomuro
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