株式会社ASO塚本ファーム
熊本県 阿蘇市 親牛:9頭、肥育牛:110頭 取材日:2023年8月31日
はじめに
畜産業において、健康な牛を育てるためには獣医さんのサポートだけでなく、正しい知識と情熱が必要です。今回取材した株式会社ASO塚本ファームでは代表の塚本さんの畜産経験と彼の肉作りへの情熱に迫り、特に下痢の予防と対策について論文をもとに詳しくお話を伺いました。この記事では、畜産における論文をもとにした下痢対策と健康管理に焦点を当て、塚本さんの独自のアプローチに迫ります。
畜産への情熱と専門知識の追求
ーー生い立ちと畜産に関する論文を読むようになった背景について教えてください。
高校時代は熊本農業高校に通い農業経済科というところでパソコンや簿記の勉強を行いました。畜産については宮崎大学で学びました。食料生産科学科に進学し、畜産と植物について学びました。院まで進みましたがそちらでは教育関係を学び、卒業後は音楽関係や自動車関連の仕事に就きましたがその後、故郷の熊本に戻り、農業高校で教鞭をとりました。その後仕事を辞めるタイミングで結婚、令和3年に家業を継ぎ今に至ります。 自分で営む上で、獣医さんに頼るだけでなく自分で正しい知識を身に付けなくてはいけないと思い論文を読む機会が増えました。周囲でBRDCの蔓延も相まって本気で勉強を始めました。論文はとっかかりは難しく感じるのですが実はシンプルな文章なので意外と読みやすいものですよ。 下痢に対する実証されたアプローチ
ーー畜産農家の方々が一番悩まれているものとして「下痢」があげられると思うのですが、論文をもとにした下痢の予防や対策について教えていただけますか?
子牛の成長の仕方、つまりは内臓の成長の仕方が健全であるかどうかというのが一つのポイントですが、健全であるという前提で考えたら季節的なものであったり病気が考えられます。しかし、分娩後すぐに下痢するようであれば母牛への餌の与え方(健康状態)が原因でほぼ間違いないです。母牛に与える餌の設計を見直してみるのがいいでしょう。 その後の話になると胃の中の柔毛の発達の度合いが子牛の消化能力に大きく影響を及ぼすことが分かっているので、柔毛を早く発達させるために早めに固形物を食べさせたほうがいいです。生まれて1週間以内に固形のスターターを食べさせる農家さんもいらっしゃいます。 第一胃はそういう固形物を柔らかくしたり消化する部分で、吸収するための胃は第四胃になります。ですので飲んだ乳を吸収するのは第四胃が発達していれば十分です。第一胃の柔毛の発達ができないまま育つと、餌を食べるようになったタイミングでほぼ確実に下痢をします。だから餌を増やしていくという段階の前にお腹の中を作ってあげるという取り組みが大事ですね。 ーー生育段階がもっと進んで子牛が下痢をしたらどうですか? 基本的に餌の設計の見直しを行うべきかなと思います。濃厚飼料と粗飼料は何をあげてるか?その量、バランスなど微妙な変化でお腹の中のpH値が変わってしまい慢性的な下痢を引き起こしてしまいます。牧場自体が下痢体質の繁殖農家は市場でも下痢しますし、せりで落とされた先でもずっと下痢をします。ひどい子は1ヶ月以上続き何をしても治らないです。そうなると1ヶ月や2ヶ月ぐらいじゃ戻らないことがほとんどです。いかに餌を食べ始める段階で餌の設計を確立できるかが重要ということですね。原因が牛舎の環境(菌やウイルスなど)という場合もありますけどね。 ほかにも飲み水の温度は下痢にかなり影響してきます。冷たすぎたり、ヒーターでお湯が出るようにされてない農家さんでは飲水量がかなり減ります。また、飲んでもお腹を壊しがちです。飲み水の温度のケアも非常に重要です。 ーー下痢を効果的に対策する方法などはありますか? 私が調べた中で一番いいなと思ったのが乳酸菌系添加剤+オリゴ糖+ミネラル系の添加剤の組み合わせですね。乳酸菌とオリゴ糖の組み合わせというのが菌を働かせるうえですごく効果的な組み合わせなんです。プロバイオティクス(乳酸菌)と、プレバイオティクス(乳酸菌の栄養源であるオリゴ糖)を組み合わせたシンバイオティクスを摂取することが牛の腸内環境を整える鍵になります。シンバイオティクスは感染症を引き起こすような悪い菌が腸内で異常増殖するのを抑えたり、腸のバリア機能を改善してくれたり、私たち人間の腸活でも注目されています。牛の下痢は、菌がルーメン(第一胃)のpH値を変えてしまうことが原因で起こることが多いですが、シンバイオティクスを与えることで腸内環境の急激な変化を防ぐことが期待できるため、pHの変化に対して緩衝的に働いてくれるシンバイオティクスは下痢の予防にぴったりです。ミネラルは各成分で様々な役割があります。例えばシリカにはいろんな悪いものをこし取る性質があったり、アソードに含まれる酸化鉄は腸内の悪いガスを吸着するので悪玉菌の発生を抑制したりなど成分によって様々です。そういった1つ1つの機能を総合的に見て、この組み合わせが一番いいなと私は思います。 個性豊かな美味しい肉の追求
ーー塚本さんの農場の今後の展望や思いを教えていただけますか?
私たちは肉本来の味わいにとことん追求した「本当に美味しい肉」を作りたいと思っています。肉の質を高めること、つまりアミノ酸などの旨味成分を高めていくことは非常に難しい技術です。何度も試行錯誤を重ね餌の配合を変えたり試食したりを繰り返し、ようやく旨味を高めることに成功しました。今後は新たに加工場を設立して肉の提供をしていきたいですね。その際ブランド名はあえてつけず、その子たちその子たち1頭1頭の個性を楽しんでもらう取り組みをしていきたいですね。 編集後記
美味しい肉の秘密は牛たちの健康から始まります。自ら作り上げる農場だからこそ、正しい知識を自ら習得し活用する姿は取材していて大変感銘を受けました。また、牛たちの個性を活かし、ブランド名に頼らず、一頭一頭の個性を楽しむアプローチは他に類を見ない発想で面白さを感じました。塚本さんの取り組みが美味しさを求める人々に新たな感動を提供し続けることでしょう。
ハエたたき
塚本ファームには不思議とハエがあまりいません。これも論文に基づく仕掛けがあるのかと思いきやこれはすべて人力なんだそうです。愛用のハエたたきで毎日ハエから牛たちを守っているそうです。
Writer_T.Shimomuro
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