有限会社 永山林業
熊本県 人吉市 親牛:54頭、育成牛:8頭、子牛:49頭 取材日:2023年9月28日
生命と共に歩む:農家の目を通して見る牛の健康管理
記者「永山さんが牛の世話でこだわっていることを教えてください。」
永山さん「牛の世話で一番大切なことは、生まれたその日から子牛をじっくりと見守ることです。私たちは、子牛に3ヶ月間人工ミルクをやっていますが、その飲む量や下痢がないかどうかを細かくチェックしています。また、経産牛の場合は、出産後の発情時期をしっかり観察することも重要です。こうして細かい観察を通じて、健康で質の高い牛を育てることを目指しています。」 記者「3ヶ月間、人工ミルクを与えられるんですね?」 永山さん「実は、生まれてすぐの1週間は母牛が育てますが、その後は哺乳瓶で人工ミルクを与えます。この時期の管理はとても重要で、下痢などの異常が出たら、すぐに対処しなければなりません。特に、白っぽい下痢を見つけた場合は、大変です。すぐに獣医を呼んで、適切な治療を受けることが必要です。この時期の世話は、牛の一生を左右すると言っても過言ではありません。」 記者「下痢をする牛への対処として永山さんが気を付けていることなどありますか?」 永山さん「下痢というのは、子牛にとってよくある問題ですが、何が原因かをしっかり見極めて、早めに対処することが大切です。同じミルクを与えていても、子牛によって反応が異なるため、私たちは常に気を配っています。少しでも軟便や水っぽい便になりそうな兆候が見えたら、すぐに獣医に診てもらいます。早く気付いて、迅速に治療することが、子牛の命を救う鍵になります。」 記者「牛の育て方で、課題に感じていることはありますか?」 永山さん「今の大きな悩みというのが、この地域の農家だけでなく、多くの人が抱えている問題です。それは、子牛の値段が下がり続けていることと、飼料の値段が上昇していることです。飼料代を削ることはできないので、経営が非常に厳しい状況になっています。さらに、牛の血統によって価格が大きく変わるため、次世代の血統選びも難しい問題となっています。」 記者「同じ血統を育てるのはダメなのですか?」 永山さん「種付けしてから10ヶ月で子牛が生まれ、その後さらに10ヶ月で評価されますが、その血統の良し悪しは実際には2年後にわかります。しかし、2年後にその血統がまだ価値を持っているかどうかは、分からないものです。そのため、一つの種類にこだわらず、様々な種類を試す必要があります。2年間かけて育てた牛が市場でどのように評価されるかが、私たちの未来を大きく左右するのです。」 頭数維持への挑戦
記者「永山林業さんが、「これはウチでしかやっていない!」と思うようなユニークな取り組みはありますか?」
永山さん「うちの畜産部門では、特に頭数を一定に保つことに力を入れています。年間で約40頭の子牛を産ませ、血統が良い牛を選んで残していますが、常に頭数を一定に保つのは簡単なことではありません。病気や事故による数の減少に対しては、細心の注意を払って管理しています。また、野生動物が牧草地を荒らすことを防ぐために放牧も行っています。これは私たちの特徴であり、地域に貢献しながら畜産業を続けていることです。」 記者「牛は事故率が高いと聞きますが、その主な原因は何ですか?」 永山さん「事故率の高さには様々な原因がありますが、特に牛の白血病、EBLが大きな問題を引き起こしています。この病気は母牛から子牛への感染が懸念されるため、私たちは人工ミルクを使って予防に努めています。しかし、夏場には吸血昆虫を介しての感染もあり、完全に防ぐのは困難です。このような状況の中で、陽性の牛と陰性の牛を適切に管理し、良質な牛を残すことが、私たちの大きな課題となっています。」 牛と地域の共生:地域を守る農家の物語
記者「永山さんの座右の銘は何ですか?」
永山さん「座右の銘が「牛と共に、地域を守る」です。私たちの仕事は、単に肉牛を育てるだけではなく、地域の伝統や自然を大切にしながら農業を行うことが本質的に重要です。牛は、単なる収入源ではなく、地域の繁栄を支える重要な存在です。牛と共に、地域全体を豊かにしていくという姿勢が、私たちの活動の中心にあります。」 記者「地域を守るということについて、具体的に教えていただけますか?」 永山さん「地域を守ることが、私たちの重要な役割です。この地域は高齢化が進んでおり、田んぼや畑を守ることが非常に重要になっています。稲作や畑仕事を通じて、みんなで協力し合い、地域の絆を深めています。年を取って体力が落ちた人たちも、機械化が進んで農業が楽になっているため、一緒に頑張っています。これは地域を守るための大切な一歩であると言えます。」 記者「農業と牛の飼育の間でどのような相互作用がありますか?」 永山さん「農業と牛の飼育は、実際には非常に密接に関連しています。私たちの場所では、稲藁を牛の飼料に使い、牛の堆肥を田んぼに戻しています。この循環が土地を豊かにし、収穫を大きく増やすのです。さらに、牧草の栽培も行い、畜産農家と非畜産農家が協力し合っています。このような取り組みによって、地域全体の経済が活性化されています。」 記者「この地域の米作りと牛の飼育がどのように共存しているのですか? 永山さん「米作りと牛の飼育は、その地域の生活の中心であり、特に重要な役割を担っています。高齢化の進展と米の消費減少により、米作りだけでは生計を立てるのが難しくなってきていますが、牛とその関連産業が地域経済を支えています。牧草の栽培や畜産製品の販売が重要になってきており、牛を通じて地域の生活や経済を豊かにしています。これは地域にとって非常に価値のある活動です。」 監視カメラ
監視カメラの影響もあり分娩前の牛の状態を遠隔から確認ができ、労力の削減ができているそうです。
大変重宝しているそうです。
Writer_Y.Eguchi
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荒牧牧場
熊本県 阿蘇市 親牛:20頭、子牛:15頭、肥育牛:80頭 取材日:2023年8月21日
はじめに
畜産農家たちはどのようにして高品質な牛肉を生産しているのでしょうか?また、地元社会とどのように連携し、持続可能な地域経済を築いているのか?さらには、新しい知識やテクニックをどのようにして取り入れ、自分自身でその価値を評価しているのか?これらの疑問に答えるべく、今回は熊本県で受賞歴も豊富な荒牧さんの牧場に焦点を当て、その独自の哲学と成功の秘訣に迫ります。
栄誉と革新
ーー荒牧さんの牧場はあか牛の共進会で素晴らしい功績を上げられているとお聞きしましたがどのような賞を取られていますか?また工夫していることなども教えてください。
うちは熊本県のあか牛の共進会で金賞5回、銀賞2回受賞しています。熊本共進会での受賞は、私たちの長年の努力の証だと思っています。特に「バガス」の使用は大きな変化をもたらしてくれたと思っています。このさとうきび由来の餌は、牛たちの柔毛を強くし、健康状態を向上させる効果があります。ですので様々な栄養の吸収が促進されるんですね。「バガス」を使っている農家はあまり聞かないのですがうちでは重宝しています。自らが納得した方法を積極的に取り入れ、高品質な牛肉を生産することが、私たちの共進会での成功につながっています。受賞は、これらの努力が業界で認められた結果であり、今後も技術の向上と品質の維持に努めていこうと思います。 地元への愛情ー地産地消の考え方
ーー品質高く育てられた牛が消費者に届くまでのプロセスにおいて荒牧さんがこだわっていることなどありますか?
地元で売ることで県外のお客様に阿蘇のいいところを知ってもらえます。産地直送だから新鮮で、品質も落ちません。観光客の方々にも熊本のあか牛を食べていい思い出を作ってもらって帰ってもらいたいですね。これで地域ともっと繋がれるし、地元経済も活性化するんです。お客様も、どこでどう作られた肉なのか、はっきりわかるから安心して食べられるし、信頼もできるんですよ。それに、生産者としても、お客様がどう思ってるのか直接聞けるから、もっといい方向に進めるんです。みんなで地域を盛り上げて、業界全体も活気づけたいですね。 知識と納得
ーー荒牧さんが知識を収集する上で気をつけていることなどあれば教えてください。
知識を収集するということは、事業の成長と品質管理に欠かせないものです。私は上手な人で信用できる人に話を聞き、その情報を自分で納得するまで嚙み砕くことが重要だと考えています。相手はそれが正解だと思っていることが実は間違っていたということはよくあることです。素直に聞くことももちろん大事ですが、鵜呑みにしすぎず一度自分の中で噛み砕き、納得した上で取り入れることを私は心がけています。 編集後記
荒牧さんの地産地消の考え方やバガスの使用は確かに功績を上げる要素ですが、それだけではなく、絶え間ない学びと真実を追求し続けることが重要だと教えてくれました。荒牧さんが話す「上手な人で信用できる人に聞く」や「自分で納得するまで嚙み砕く」という考え方は、私たちがどんな分野であれ成功するために心がけるべき事柄だと思います。受賞歴だけが全てではなく、その背後にある思考と行動が本当の価値を形成しています。
バガス
さとうきびから、砂糖を作るためにショ糖を圧搾した残りの繊維の部分を「バガス」といい、柔毛を強くする効果があります。荒牧さんの牧場が共進会で功績を上げるきっかけとなったこだわりの商品なのだそうです。
Writer_T.Shimomuro
宮﨑牧場
熊本県阿蘇郡 親牛:18頭、子牛:11頭 取材日:2023年8月25日
はじめに
健康は、人にとっても家畜にとっても、最も重要なテーマの一つです。では、健康を最優先にした畜産業はどのような姿をしているのでしょうか?その答えを探るために、今回は宮﨑牧場の宮﨑和成さんを取材しました。こちらでは、「健康第一」を一貫したテーマとして、動物たちの生活全体に落とし込んでいます。この記事では、その農家で「健康第一」という心を通して伺える3つのプライドについて紹介していきます。
柔軟な心、健康な家畜
ーー宮﨑さんの大事にされている「健康第一」についてどのようなことを意識されているか教えていただけますか?
健康第一は私たちの牧場の最も大切なテーマです。畜産業は環境や市場、そして動物自体の健康に非常に影響を受けるため、柔軟性が必要です。より良い意見を採用し、自分の考えに固執しないことが、実は最も大切な健康維持の一環だと私は考えています。獣医の山辺先生の指示にきちんと従うようにしていますし、最新の研究や他の成功している畜産農家からのアドバイスも積極的に取り入れます。 観察の力
ーー自分よがりの考えに固執せずに柔軟に正しいと思う情報を取り入れるということですね。実際に日々の仕事の中ではどのようなことを行っていますか?
早期離乳と日々の牛舎観察は、私たちの「健康第一」の方針において中心的な役割を果たしています。早期離乳を行うことで、1頭当たりのスペースを広くとることができます。牛のストレスの1つの要因としては1頭当たりのスペースの狭さが原因といわれています。それを広くする工夫をすることで牛たちの健康状態をよくすることができます。それに敷料の交換の頻度も下がります。親子で一緒にいると3日に1回のペースで交換する必要がありますが、親子を分けると7日~10日ほどに1回のペースになります。きれいな状態を長く保つことで牛たちにストレスを与えないような環境作りができるのです。また、ほかにも日々の牛舎観察を通じて、動物たちの微細な変化に気付くよう細心の注意を払うようにしています。例えば下痢をしているかはもちろん、動きの緩慢さ、餌の食べ具合、牛同士のいじめなど様々な面で日々気づきを持つよう心がけています。 未来の健康は強健性から
ーーそのほかに宮﨑さんならではのこだわりなどあれば教えていただけますか?
牛たちの強健性は、健康第一というコンセプトに欠かせない要素です。強健性とは、環境への適応能力のことであり、これが高いほど家畜はストレスに強く、病気になりにくいです。実は牛をセリで買ってくる際に良い血統で選んできたとしてもいざ牧場に迎えたら病気になりやすかったり、下痢をしたりと結構大変だったりします。そういう牛は強健性が低かったりすることが多いんです。買ってきた牛とは10年は付き合っていくので強健性が低いと環境に適応できずに死んでしまうことも起きてしまいます。ですのでセリで牛を選ぶ際の判断基準がとても大事になってきます。うちの牧場では「穏やかさ」を基準に選ぶようにしています。事故が起きた際には精神的ダメージも大きいので自分の牧場にあった牛を正しく選ぶということを心がけています。 編集後記
この取材を通じて、宮﨑さんの牧場で実践されている「健康第一」の理念の深さと具体性に驚かされました。柔軟な心で獣医の山辺先生の指示を積極的に取り入れたり、正しいと思う考えを柔軟に取り入れる姿勢など、「一人よがりにならない考え方」が印象的でした。また、セリで自分の牧場に迎え入れた後の飼育まで考えるなど、事故や病気で牛をなくしてしまった経験を糧に考えている姿もとても重要な教訓を与えていると感じました。
ビタコーゲン
食欲がない牛にこれを使って食欲の増進をしているそうです。ビタコーゲンを使うと食いが良くなってくれるので助かっているようです。
Writer_T.Shimomuro
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