東牧場
熊本県 阿蘇郡 親牛:42頭、子牛:20頭、肥育牛:15頭 取材日:2023年9月14日
はじめに
農家の努力と情熱、それが高品質な牛肉の源です。何がその背後にあるのか、どのような工夫と知識、そして心構えが求められるのか。そうした疑問に答えるために、東牧場の東さんにお話を伺いました。この記事では、牛の健康を維持するための特別な注意点、地域との情報交流、そして畜産業界の現状と今後についての見解など、多角的に牛肉生産のリアルを深掘りしていきます。
日々の献身: 牛の健康を育む農家の知恵
ーー子牛の健康を考える際に特に気をつけることは何ですか?
畜産において観察力は非常に重要だと思っています。健康状態を確認するためには、毎日牛を観察する必要があります。私の場合は下痢、痩せ具合の日々の変化については重視していますね。ほかに重視しているとしたら、敷料の状態も重要な要素です。牛舎内の床には鋸屑などの敷料を敷いていますが、頻繁に清掃や交換を行うことが必要です。特に冬場はお腹が冷えるため、牛の下痢が増え、敷料は汚れやすくなります。うちの牛舎では通常、冬場は2週間に1回程度、夏場は1か月に1回程度の頻度で床の清掃や交換を行っています。敷料が汚れたままにしてしまうと、雑菌やウイルスの繁殖が進み病気や肺炎、さまざまな問題やストレスを引き起こす可能性があります。牛は快適な環境を求める生き物であり、床の清潔さは牛の生活や健康に直接的な影響を与えます。清潔で快適な環境は、牛のストレスを軽減し、より健康的な成長を促す重要な要素です。牛舎の管理者や飼育者は、観察力を養いながら、牛の健康状態や環境に十分な注意を払うことが重要ですね。 教えと学びの連鎖: 地域共同で築く持続可能な畜産
ーー周囲の農家さんとの情報交換などは定期的に行っていますか?
畜産は一人ではできないこともたくさんあるので、わからないことがあったらすぐに他の農家さんたちに相談するようにはしていますね。逆に相談されたら教えるようにして双方で情報共有するようにしています。過去には、サシが入らなくて困っていた時に、タンパク質の補給について教えてもらったり、この成分が足りないなどアドバイスをたくさんいただきましたね。ですが他の人が成功している方法をそのまま真似るだけでは上手くいかない場合もありますので、それぞれのポイントを参考に試行錯誤することはとても大事だと思っています。あとは血統についてですかね。あの方はどんな母体に何の種をつけたか?それでサシにどんな影響があったのかと事細かに聞いています。また、この病気になった時にどんな薬が効いたのか、どんな餌をやっているのか、など気になったらすぐに人に聞くようにし、そこで集まった情報から自分で噛み砕くようにしています。 ーー血統についてのお話が出ましたが東さんが考える赤牛のおすすめの血統を伺ってもいいですか? 大体は光晴重ですね。光晴重はサシの入りもよく、枝肉重量も大きいです。ただ、光晴重はもういないので、後継の第二光晴を私としては推しています。あと、重波泉も最近のメインになっていますね。この3つが今畜産界では多いのではないのでしょうか?どれもサシの入りもよく体も大きいので選ばれているのだと思います。 ーー血統の良い牛を育てても環境が良くないと十分に育ってくれないとよく聞きますが牛舎環境に配慮したこだわりなどはありますか? 夏はハエが増える時期ですので消毒を定期的に行っています。風通しなどにも配慮しています。逆に冬場は牛舎を閉め切っていますね。寒さ対策としてベストを牛に着せてあげたりインバーターの暖房を上から照らしてあげたりします。私の考えですが最近は品種改良なども進んで牛が弱くなっているように感じます。昔からされている畜産家の方々もみんな「昔の牛は強かった」と口をそろえて言われていますからね。昔に比べてより一層牛への配慮の質が求められていると思います。 荒波を乗り越えて: 畜産業の厳しさとその先にある喜び
ーー現在畜産業界は飼料高騰や市場価格の低下など様々な面で苦しんでいると言われますが、東さんのご意見を伺ってもよろしいでしょうか?
畜産業は今とても厳しいです。特に牛の飼料の値上がりなどですね。しかし、これは一般の人や普通の会社にも同様であり、もう仕方ないことなのかなと思っています。畜産家の立場では、肉が高い方が良いと思っていますが、一般消費者の立場では、高額な肉は安くあってほしいと思われますので、その需要と供給のバランスをしっかりと定めていくことが重要だと私は思っています。 ーー最後に新しく畜産業に参入する方々に向けたアドバイスなどあれば教えてください。 やはりたくさんの人の意見を聞くことや積極的に質問することが一番良い方法だと思います。経験に基づいてアドバイスしていただける人が身近にいることはとても心強いです。また畜産業は辛いこともあるかもしれませんが、それ以上に喜びも感じる瞬間もたくさんあります。例えば、私の場合、最初に育てた牛が元気に赤ちゃんを産み、お母さんも元気でいるという状況になった時です。そして、その子たちを10ヶ月ほど育ててから市場に出荷するのですが、それが大きなサイズであると、高価で買い取ってもらえます。そのような経験をするとやる気が湧いてくると思います。 編集後記
東さんのお話を通じて、牛一頭一頭に手間暇かける農家の方々の献身的な努力がいかに大切であるかを再認識することができました。「牛に感謝」という言葉は、単なる感嘆ではなく、その生命を尊重し、そのおかげで成り立っている産業への感謝の象徴です。東さんは、「畜産業は辛いことも多いですが、その先には大きな喜びが待っている」と言います。新規就農される方々や就農して間もない方々にそのやりがいが広く、深く伝わることを願っています。
アソード
サンプルを使ってみて牛たちの嗜好性に驚きました。知人の農家も愛用しているとのことで今後の牛たちの健康状態改善に期待しています。
Writer_Y.Eguchi
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