藤田牧場 藤田満弦
長崎県 北松浦郡 親牛:15頭、子牛:8頭 取材日:2024年6月26日
爪から牛の健康を守る
記者「藤田さんの牧場の技術的な面でこだわっているポイントについて教えていただけますか?」
藤田さん「私自身が削蹄師をしているからというのもありますが、まず、牛の足元を観察することで健康状態を確認します。個体によっては爪が伸びやすい、変形している牛がいたりします。これらの状態を常にチェックしながら、牛の健康をサポートすることが重要です。例えば、爪が長い牛がいた場合、その牛が若い頃に病気をしたのか、生まれつきなのかを考えます。それに応じて、餌の量を調整したり、添加剤を使ったりします。このように、牛一頭一頭の健康状態に応じて適切な対応を取ることが私たちのこだわりです。」 記者「餌や堆肥の部分でこだわられているポイントについて教えてください。」 藤田さん「はい。まず、完熟堆肥を使って自家牧草を作ることで、餌の質を向上させています。自家牧草の質が高いと受胎率が高くなるようで、うちでは受胎率はそのように改善してきました。また、完熟堆肥を使用することで、自給率がアップし、肥料代も節約できます。この方法は地元の農家さんから教えてもらい、実際に取り入れてみたところ、非常にうまくいきました。牛の健康を保ちながらコストを抑えることができています。」 記者「観察力についてもこだわりがあると伺いましたが、具体的にどのようなポイントを観察していますか?」 藤田さん「はい、観察力も非常に重要です。例えば、分娩や発情のタイミングを見逃さないために朝一番に牛の後ろに回って、餌を食べているときの様子を見ます。尻尾の動きや陰部の状態を確認し、発情の兆候を見逃さないようにします。また、分娩後の発情周期も注意深く観察し、適切なタイミングでの対応を心がけています。発情を逃すと次の機会まで20日待たなければならないので、これを逃さないことが大事です。」 鷹島の知恵と独自の工夫で牛育成を改善
記者「自分の牛の状態に点数をつけるなら何点ですか?」
藤田さん「60点でしょうか。まだ改善の余地が多いです。」 記者「60点をあげられる理由として、良い部分はどのような点ですか?」 藤田さん「牛の形や受胎率は比較的良い状態です。特に、健康な牛が多く、基本的な育成はうまくいっています。ただし、血統管理や子牛の管理がまだ十分ではないと感じています。この部分を強化していけば、もっと点数を上げられると思います。」 記者「血統や子牛の管理を改善して100点に向かうためには、具体的にどのようなアクションを取っていきたいですか?」 藤田さん「今は、鷹島の農家さんと情報交換をしています。彼らから餌や管理方法についてアドバイスをもらい、それを実践しています。具体的には、胃汁移植という方法を取り入れたいと考えています。これは健康な子牛の胃の内容物を病気の子牛に移植することで、腸内環境を改善し、健康状態を向上させる方法です。これにより、下痢が減り、餌の摂取量も増えると期待しています。」 記者「他に牛の管理で気をつけている点はありますか?」 藤田さん「はい、観察力が非常に重要です。毎朝、牛の状態を観察し、発情や分娩のタイミングを見逃さないようにしています。また、餌の選択にもこだわりがあります。特に子牛の飼育には、タンパク質が高めのルミノスクラッチという飼料を使用しています。これは胃を刺激し、消化を助ける効果があります。哺乳期のエサ食いが良ければ育成期に入っても下痢することがなく増体につながるのでこの時期のケアはとても大切です。食い落ち改善の添加剤は様々試してきましたが私が使った中ではこの商品が一番合っていました。嗜好性が高く、それが原因で食べ過ぎて下痢をしてしまう牛もいるのですがそこは整菌剤でカバーしながら与えています。」 気合と根性で挑み、仲間と共に成長する
記者「師匠や目標にしている方を教えてください。」
藤田さん「私の目標は稲本侑紀さんです。侑紀さんは非常に後輩思いで、奥さん思いの人です。例えば、飲み会のときや鷹島に遊びに行くときでも、いつも心からおもてなしをしてくれます。地域の兄貴分のような存在で、みんなから慕われています。」 記者「稲本侑紀さんの実績について教えていただけますか?」 藤田さん「彼の牛は常に高い評価を受けています。共進会などのコンテストでも入賞しており、購買者からの評価も非常に高いです。どんなにコストカットをしても質が落ちないところが彼のすごいところです。また、彼は新しい技術をどんどん取り入れていて、私も胃汁移植の方法を彼から学びました。 」 記者「座右の銘を教えてください。」 藤田さん「私の座右の銘は『気合と根性』です。生き物相手の仕事なので、毎日が変化の連続です。そのため、気合がないと向き合えない部分があります。そして、根性も必要です。牛の世話や人工受精、その他の技術を習得するには、数をこなすことが重要です。牛が暴れたり、力仕事が多いので、心を折れずに続けるためには根性が必要です。また、仲間の存在も大切です。仲間がいることで自分を高めることができ、技術の向上にも繋がります。最後に、牛自体が私たちの努力を表してくれるので、牛も仲間も大切にしています。」 ルミノスクラッチ
ルミノスクラッチは、胃を刺激して消化を助ける効果がある高嗜好性の飼料です。哺乳期に良好なエサ食いを促進し、育成期の下痢を防ぎながら健康な成長をサポートします。様々な添加剤を試した中で最も効果的であり、整菌剤と併用することで一部の牛の食べ過ぎによる下痢も防げると話していました。
Writer_Y.Eguchi
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吉田牧場 吉田裕美
鳥取県 西伯郡 搾乳牛:20頭、親牛:60頭、育成牛:20頭 取材日:2024年6月19日
自家産牛へのこだわり
記者「吉田さんの牧場のこだわりを教えていただけますか?」
吉田さん「初代から乳肉複合経営を行っており和牛の繁殖は受精卵を使って増やしてきました。母体はホルスタインの腹を使って子牛を産み、次々に頭数を増やしていった背景がありますね。今では母体も増えてきて和牛繁殖を本格的に進めています。」 記者「吉田さんのところでは、自家産の牛というところにこだわりがあると聞きました。このこだわりについて具体的に教えていただけますか?」 吉田さん「そうですね、これは主人の強いこだわりなんです。今はやっていませんが以前は肥育も自分たちで行い出荷まで責任を持って取り組んでいました。」 記者「以前は導入もされていたことがあるのでしょうか?」 吉田さん「はい、数十年前に導入もしていたことがあります。しかし、その時に病気が発生し、大変なショックを受けた経験があります。それ以来、導入は控え、自家産の牛だけで経営を続けています。これも主人の強い意志で、自家産の牛にこだわっている理由の一つです。」 記者「吉田さんのInstagramで大山乳業や白バラ牛乳が取り上げられているのを見ましたが、これについて詳しく教えてください。」 吉田さん「はい。大山乳業は鳥取県内の牛乳を集めて加工している会社です。自社の工場で牛乳やヨーグルト、白バラコーヒーなどを生産し、全国に発送しています。大山乳業は日本一の乳質を誇るとされていますが、その背景には月に一度の乳質検定があります。朝晩のサンプルを取って、一頭一頭の体細胞数や細菌数を検査し、牛の健康状態をチェックしています。これにより、乳質の悪い牛を早期に見つけて対策を取ることができ、病気の予防にもつながっています。」 うちの牛たちは100点満点!-技術と愛情の結晶
記者「吉田さんのところの牛に点数をつけるなら何点でしょうか?」
吉田さん「自分の気持ちとしては、100点満点と言いたいですね。穏やかで人懐っこく、性格も良い子たちばかりなので。ですが厳しく見ると繁殖用の牛たちは少し小さめで、もう少し大きく育てたいという課題があります。まだまだ伸びしろがあると感じていますので、厳しめに見て80点というところでしょうか。でも、これからも改善していけると思っています。」 記者「乳牛に関してはいかがですか?」 吉田さん「乳牛に関しては今とても安定しています。大山乳業では牛群検定の他にも月に4回抜き打ちで乳質検査があります。これをクリアして年間通して一度も引っかからなければ、良質な牛乳として表彰されます。これを目標にして、引っかからないように努力しています。表彰されると賞金ももらえますし、大山乳業独自の『白バラ認定』というものもあります。これは牛舎の清潔さや管理状況をチェックするもので、それをクリアするととても良い牛舎だと認定されます。これも大きな励みになります。」 記者「先ほど繁殖用の牛をもう少し大きく育てたいとおっしゃっていましたが、その80点を100点にするためにどのような具体的な対策を考えていますか?」 吉田さん「良い種をつけることで改善していきたいと考えています。また、母体が多いので、その子たちに様々な種をつけて、大きく育つ牛を育てたいです。繁殖和牛を始めた頃は事故も多かったのですが、カメラや牛温恵を導入して、今はかなり事故も減り、管理がしやすくなっています。」 記者「おすすめのアイテムや道具について教えてください。」 吉田さん「生まれたばかりの子牛に使う仔牛用人工呼吸器キットも非常に助かっています。この装置は、生まれたばかりの子牛が自力で呼吸できない時に使います。特に出産直後の子牛は、羊水を飲み込んでしまったり、呼吸が乱れることが多いです。この人工呼吸器を使うことで、子牛の肺に新鮮な空気を送り込み、適切な酸素供給を助けることができます。最初は使い方に慣れるまで少し時間がかかりましたが、今では必需品となっています。これがあれば、呼吸困難で命を落とすリスクを大幅に減らせるので、子牛の健康管理に大いに役立っています。」 食育と絵本で伝える酪農の魅力
記者「師匠や目標にしている方を教えてください。」
吉田さん「酪農をしている方で、食育活動にも力を入れている方がいらっしゃいます。その方は乳和食など、様々な場所で牛乳や酪農の魅力を発信されているんです。同じ地域に住んでいて、酪農仲間でもあるのですが、とても素敵な女性で、私にとっては目標とする方です。」 記者「吉田さんのInstagramを見ていると、絵本を展開されているようですね。これも食育と関係があるのですか?」 吉田さん「はい、乳和食や保育園での食育活動にその師匠と一緒に参加しています。その中で子供たちが絵本を読んでと言ってくる姿に感動し、絵本の魅力を再認識しました。お絵描きが好きだったので、牛の絵を描き始め、そこから『もーちゃん』というキャラクターが生まれました。趣味で描いていた絵が増え、絵本として食育に使えたらと思い、大山乳業さんの職員さんに相談して、彼らと一緒に絵本を出版しました。読み聞かせを通じて普及することができました。」 記者「この絵本は吉田さんにとってどのような存在ですか?」 吉田さん「私は忘れん坊なところがあり、伝えたいことをうまく伝えられないことが多かったんです。絵本があれば、気持ちを込めて読むことで忘れずに伝えられます。自分のためにも作りましたし、子供たちや皆さんに酪農の魅力を知ってもらうきっかけになれたらと思っています。」 記者「最後に座右の銘を教えてください。」 吉田さん「『楽農』です。畜産業は大変な仕事ですが、楽しむことが大切だと思っています。楽しく農業をすることで、自然と笑顔が生まれ、その笑顔が幸せを呼び込むと思うんです。楽しんで取り組むことで、毎日の仕事に対するモチベーションも高まりますし、健康にも良い影響を与えると思います。だからこそ『楽農』を座右の銘にしています。」 仔牛用人工呼吸器キット
仔牛用人工呼吸器キットは、生まれたばかりの子牛が自力で呼吸できない時に使用し、適切な酸素供給を助けます。これにより、呼吸困難によるリスクを大幅に減らし、子牛の健康管理に大いに役立ちます。
Writer_T.Shimomuro
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