松岡農場 松岡隆行
熊本県 阿蘇郡 肥育牛:40頭、親牛:38頭、子牛:22頭 取材日:2023年12月11日
60点からの成長と再生
記者「農場での飼育において、自己評価を点数で表すとしたら何点ですか?」
松岡さん「農場の管理について、点数をつけるなら60点くらいですかね。去年に比べると、事故も大幅に減り、改善の兆しが見えていますからね。」 記者「その60点評価の背景には、どのような理由があり、どんな対策を行っていますか?」 松岡さん「実は昨年、私たちの牧場では事故が多発し、残念ながら多くの牛を失いました。事故の原因は子牛のひどい下痢でした。その原因の特定と対策が重要な課題となっています。それ以降、監視の強化や環境改善など、様々な対策を講じています。それもあってか、今年に入ってからは大幅に減少し、その改善が60点の理由の一つです。下痢が減った具体的な原因はまだ完全には把握できていません。ですので、その追及もしつつ安全に子牛が育つ環境作りに努めたいと思っています。」 牧場の知恵と協力の力
記者「松岡さんが参考にしている牧場とその理由について教えてください。」
松岡さん「高森町の荒牧さんの牛の育て方は私も参考にしています。彼の牛は肉も大きく、サシもしっかり入っています。彼の餌のやり方や月齢ごとの育成計画など、実際に私の牧場でも取り入れている部分が多くあります。」 記者「繁殖に関して、参考にしている方はいますか?」 松岡さん「はい、繁殖に関してはこの近くの林田さんや今村さんから多くを学んでいます。特に病気の予防方法やどんな薬を使っているのかなどについては、彼らのアドバイスが非常に役立っています。昨年病気が多かった時期はレバチオというビタミン剤を教えていただいて、それを試して改善されたということがありました。」 記者「新規就農者に向けたアドバイスはありますか?」 松岡さん「新規就農者には、周囲の人たちと協力し、経験を積むことが大切だと思います。私も最初は多くの困難に直面しましたが、先輩農家からのアドバイスや支援が大きな助けになりました。教科書や専門書も役立ちますが、実際の経験を積むことが最も重要です。」 牛舎の光:地震からの再生と成長
記者「松岡さんの牛舎は一目見てきれいに掃除されているなと感じたのですが、清潔を保つポイントは何ですか?」
松岡さん「うちの牛舎が清潔かどうかはあまり意識したことがなかったのですが、牛にストレスを与えたくないって気持ちは強いですね。やっぱり一番臭いの被害を受けるのは牛ですし、清潔な環境で育ててあげたいと思っています。」 記者「家族経営の牛舎を継ぐことにしたきっかけは何ですか?」 松岡さん「実は地震で以前の牛舎が損傷を受けた時、その再建を機に経営を継ぐことを決意しました。私は以前から週末に牛舎を手伝っており、牛に手をかけることでその成長を感じることができ、非常にやりがいを感じていました。その経験が私が牛舎を継ぐ決意を固める大きな要因となりました。」 記者「畜産業におけるやりがいについて、具体的なエピソードがあれば教えてください。」 松岡さん「畜産業のやりがいは、育てた牛が健康的に成長し、良質な肉質を得られることにあります。具体的には、私が手をかけた牛が大きく成長し、良い枝肉となることを見る時に喜びを感じますね。自分がやったことがきっかけで良くなって、またトラブルが起きて、原因を探って改善して。そんな風に色々考えながら行動して改善していくっていうところに牛飼いの面白さがあるんだと思います。」 アソード
下痢をしている牛の与えたところ糞の締まりが良くなり、牛の調子もよくなったそうです。
現在は全頭に展開し与えているそうです。
Writer_Y.Eguchi
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林田農場 林田和大
熊本県 阿蘇郡 肥育牛:100頭、親牛:70頭、子牛:30頭 取材日:2023年11月22日
自分のやりたいようにやる畜産の道
記者「林田農場さんの畜産において独自の方法や特徴について教えていただけますか?」
林田さん「実は、私たちは特に大きなこだわりを持っているわけではありません。「自分のやりたいようにやること」を大切にし、過度な制約を設けずに、牛たちが快適に過ごせる環境を提供しています。何か特定の方法にこだわるよりも、柔軟な対応を心がけています。この場合はこうした方がいい、ああした方がいいという方もいらっしゃいますが、私個人としては農業ってそういうものではないのではないかという考えを持っているんです。赤牛の肥育ではA5の肉を作るためにはと考えるのではなく、ただただ肉質よく美味しいと言ってもらえるような肉を作るという気持ちでやっているだけですかね。」 記者「最近、畜産業界で新しいトレンドや耳寄りな情報があるかと思いますが、林田農場で導入した新しい取り組みはありますか?」 林田さん「アソードを導入したことですかね。エサに撹拌機で混ぜて牛に与えています。牛が強くなっている印象があります。ミネラル補給として使っていますね。季節要因などもあるので一概には言えないのですが病気が減ってきているような気がしたので今後も使っていこうと思っている商品です。」 記者「畜産業界では季節の変化によって様々な問題が生じますが、林田農場ではそれにどのように対応していますか?」 林田さん「季節の変化に対しては、牛たちが快適に過ごせるように寒暖差を感じさせないように環境を整えています。例えば、冬にはヒーターを使って温度を調節することもあります。ただし、今年は比較的暖かかったので、その必要はあまりありませんでした。寒暖差への対応は難しいですが、常に牛たちの健康を最優先に考えています。」 自由を牧するしばられない心
記者「林田さんにとっての座右の銘や、特に好きな言葉について教えていただけますか?」
林田さん「私の座右の銘は「しばられない」ということですね。自分のやりたいことを追求し、自由に生きることに大きな価値を見出しています。人生を楽しみ、幸せを感じることができるよう、柔軟に物事に対応しています。」 記者「新規参入者に向けてアドバイスがあればお聞かせください。」 林田さん「新規で畜産業界に参入する方々には、他人の意見に振り回されず、自分の直感と経験を信じることが大切だと思います。人の話を聞くのも重要ですが、実際に手を動かし、自分で考え行動することが何よりも重要です。自分を信じ、自分の決断に基づいて行動することが大事です。」 女性の手で育む、畜産の未来
記者「未可子さん、ご主人の畜産業をどのようにサポートされていますか?」
未可子さん「私は主に牛舎の管理を担当しています。トラクター運転はできないので、畑仕事が忙しい時は牛舎の仕事が私の役割です。餌やりや病気の牛のケア、獣医さんとの対応などを行っています。実際、この仕事は肉体労働が多く大変ですが、慣れると楽しさも感じます。毎日牛の表情を見るのはとても楽しいですね。」 記者「女性として、畜産業に関わる中で特に感じることはありますか?」 未可子さん「最初は体力的にもきつかったですが、慣れました。女性としての視点で見ると、牛は私にとても懐きやすいですね。私が牛舎に来てから、牛たちがより大人しくなったと夫も言っています。私は毎日牛たちに声をかけ、触れ合うようにしています。これが牛たちにとっても良い影響を与えているのかもしれません。」 記者「新規で畜産業に参入する女性に対してアドバイスはありますか?」 未可子さん「新規で畜産業に参入する女性には、パートナーと一緒に始めることをお勧めします。特に女性が1人で新規就農するのは珍しいですし、周りにいないのが現状です。1人で始めるよりも、基盤があるところで始めた方が良いでしょう。特に今は、畜産業が厳しい時代ですから、しっかりと情報を集めて、可能なら放牧などを活用しながら始めることが大切じゃないでしょうか。また、精神力も必要です。男性でも新規就農は大変ですが、女性の場合は特に体力や機械操作などの面での配慮が必要です。他人のサポートや協力がなければ難しいと思います。」 アソード
以前から阿蘇の赤土のがいいと聞いており、いつか使ってみたいと思っていたそうです。
使っていると牛が強くなって病気をしづらくなったように感じると話されていました。
Writer_Y.Eguchi
益田牧場 益田良則
熊本県 球磨郡 親牛:9頭、育成牛:2頭、子牛:7頭 取材日:2023年11月17日
自然と共生する育成術
記者「益田さんの牛の育て方について教えてください。特に子牛の段階から出荷までのプロセスについて知りたいです。」
益田さん「子牛は生まれてから3ヶ月間は特別に調合した人工乳を与えて育てます。20日から1ヶ月頃には濃厚飼料を食べ始め、これは牛の成長に不可欠な栄養を提供します。その後、9~10ヶ月間、一定の濃厚飼料と粗飼料を組み合わせ、牛たちの健康と成長を最適化しています。私たちはWCS、藁、イタリアンサイレージという3種類の飼料を緻密に計算された比率で給餌しており、これがうちの牧場の牛たちの絶品の肉質を生み出す秘訣なんです。」 記者「その濃厚飼料についてもう少し詳しく聞かせてください。出穂前と出穂後のWCSの嗜好性の違いや、他の特別な飼料についてのこだわりはありますか?」 益田さん「実は、私たちは出穂前のWCSを重視しています。出穂前の段階で収穫することで、牛が好む味わいと栄養バランスを最大限に引き出せるんです。濃厚飼料に関しては、一つの信頼できるメーカーの製品を使い続けています。これは牛の消化システムにとって安定した環境を保つためで、結果として高品質の肉が生産されるんですよ。」 記者「飲み水に関してはどのようにこだわっていますか?また、牛たちに与える水の種類に特別な配慮はありますか?」 益田さん「牛たちには井戸水を与えています。水道水のカルキは牛にとって好ましくないので、自然な井戸水が最適なんです。牛は水の質にそこまで敏感ではなく、必要に応じてどんな水でも飲む生き物ですが、清潔で新鮮な水を提供することで健康を維持しています。」 狩猟と牛育成の融合
記者「狩猟についても伺いたいのですが、いつから始められたんですか?また、その背景にはどのような理由がありますか?」
益田さん「狩猟は約8年前、49歳の時から始めました。この辺りでは獣害が問題になっており、自ら狩猟を学ぶ必要があったんです。イノシシや鹿を罠で捕まえる技術を習得し、地域の獣害対策に貢献しています。ハウス園芸で育てるメロンなども野生動物の被害を受けるので、狩猟は農業を守るためにも不可欠なんですよ。」 記者「獣害被害というと、主に作物への影響を思い浮かべますが、人間への襲撃など、他の形での被害も起きるのでしょうか?」 益田さん「この地域では、イノシシによる人間への襲撃は聞いたことがありませんね。しかし、野生動物は予測不能な行動をすることもあるため、常に警戒は必要です。熊本近辺の金峰山などではイノシシが結構いるんですよ。宇城のような地域では、みかん農家が獣害に対処するために罠を設置しています。地元の農家からの依頼で獣害対策を行う組織も増えてきているんです。特に鹿やイノシシは、新しく作られた草地に惹かれて食いに来るんですよ。イタリアンのサイレージを食べられることも多く、農作業にも影響を与えています。」 記者「狩猟を自己流で学ばれたとのことですが、その学習プロセスはどのようなものだったんですか?」 益田さん「狩猟を始めるにあたり、役場との話し合いや狩猟免許の試験について情報を得ました。免許取得後は、山に入ってイノシシや鹿の行動パターンを自分で学んでいきました。最初の年は鹿を2、3頭捕まえた程度でしたが、年々捕獲数は増えてきています。獣害は減らない一方で、狩猟を行う人は少なくなっています。里山ではエサが豊富で、動物の子育ての成功率も高いため、野生動物の数は増え続けています。親の栄養状態が良いと、特にイノシシはかなり大きくなり、3年で60kgから70kgにも成長するんですよ。」 守り抜く土地:狩猟農家の物語
記者「狩猟免許を取得する過程で、座学のようなものはあったのでしょうか?どのように勉強されましたか?」
益田さん「はい、狩猟免許取得のためには座学が必要です。年に5回、阿蘇や宇城、天草、県庁などで講習が行われます。講習後には試験があり、選択問題に答えて合格すれば、狩猟免許を取得できます。ただし、免許を持っていても、実際に罠をかけるためには猟友会への加入が必要です。猟友会には年間24,000円の費用がかかり、これにはハンター保険も含まれています。保険は、万が一人に怪我をさせた場合の保証などをカバーしています。」 記者「罠に関してはどのような制限があるのでしょうか?また、得意な罠の仕掛けはありますか?」 益田さん「狩猟においては、1人で設置できる罠の数に制限があります。最大で30個までと決められていて、これにはくくり罠や箱罠が含まれます。私の得意な罠はくくり罠ですね。ただし、くくり罠で動物を吊り上げるのは禁止されています。これは動物愛護の観点から残酷とされているためで、罠にかかった動物はその場で走り回る程度です。自然と向き合う狩猟は、生と死が隣り合わせの世界です。」 記者「益田さんの座右の銘を教えていただけますか?」 益田さん「私の座右の銘は「農地を守る」ですね。私たちの仕事は、牛を守ることだけでなく、農地を守ることも含まれています。狩猟によって野生動物による獣害を減らすことは、この座右の銘にも深く関係しています。農地を守ることは、私たちの暮らしや食文化を守ることにも繋がるのです。」 ウルカル
化石サンゴを主原料とした「ウルカル」。
カビ毒によるゲリが多かった際に使用して徐々に改善していったそうです。
Writer_Y.Eguchi
新堀牧場 新堀文夫
熊本県 球磨郡 親牛:8頭、子牛:7頭 取材日:2023年11月16日
受精卵移植と緻密な飼料管理
記者「受精卵移植の導入はいつから始められたのですか?」
新堀さん「受精卵移植は令和4年の夏から始めました。技術の進歩は目覚ましく、今年に入ってから1頭の子牛が誕生しました。8月10日現在、その子牛は見事に成長しています。この技術は少し難しい部分もありましたが、全国的に有名な種牛を用いていますから、成果は大変期待できます。」 記者「 畜産情報の主な情報源はどこにありますか?」 新堀さん「私たちの情報源としては、「養牛の友」や「北国からの和牛だより」といった専門誌を利用しています。これらの誌面には最新の畜産技術や事例が豊富に掲載されており、私たちの業務には欠かせない情報源となっています。」 記者「受精卵移植のプロセスについてもう少し詳しく教えていただけますか?」 新堀さん「もちろんです。受精卵移植は専門の獣医に依頼して行います。発情から1週間後に移植を実施し、黄体の状態が悪い場合は先に治療を行います。実は移植は、発情から6日目から8日目の間に行うのが私たちの独自の方法です。この細かい工夫が、高い成功率をもたらしています。」 記者「飼料の管理方法について、独自の工夫があると伺いましたが、その詳細を教えてください。」 新堀さん「飼料の管理には特に力を入れています。1頭1頭に合わせた濃厚飼料の与え方を実践しており、妊娠や月齢に応じて飼料を調整します。例えば、下痢をする牛にはビオスリーAを与えるなど、細かな注意を払っています。軟便時は迅速に獣医を呼びます。また、飼料の量はバケツや計量カップで正確に測り、牛の名前とグラム数を壁に記録することで、各牛の健康管理を徹底しています。この方法は約50年の歴史があり、以前は赤牛を扱っていた時代からの伝統です。」 50年の歴史を持つ畜産の記録
記者「 牛一頭一頭の成長記録をどのようにして把握しているのですか?」
新堀さん「各牛の成長状態を細かくメモすることで、その発育状態や月齢に応じた成長を把握しています。5か月までは体高、6か月以降は胸囲を測り、体重も定期的に確認。この細かい記録が、異常を早期に発見し治療に繋げる鍵となっています。10か月で120cmに達した牛もおり、300キロ以上を目指しています。これらの測定を50年間続けることで、顕著な成果を上げています。」 記者「 経済的な面での畜産業の課題はありますか?」 新堀さん「経済的な面では、最近ミルク代の高騰が大きな課題となっています。この影響で経営にも苦労している部分があります。ただ、問題のある牛に対しても最適なケアを施すことで、健康状態を保ち生産性を高める努力をしています。」 記者「特に優れた繁殖能力を持つ牛はいますか?」 新堀さん「実は、サキという牛が非常に優れた繁殖力を持っています。彼女は毎年子牛を産み、今年で8産目を迎える予定です。サキの子牛はその質の高さから高値で売れることが多く、彼女の貢献は計り知れません。」 記者「畜産業における観察力の重要性について教えてください。」 新堀さん「畜産業において、観察力は非常に重要です。日々の観察により、異常や病気の早期発見が可能になります。例えば、牛の食欲の変化や行動の変化など、些細なサインにも敏感である必要があります。この観察力によって早期治療に繋げ、牛たちの健康を守ることができるのです。」 牧場の黄金律 - 観察力と飼料管理の秘訣
記者「年間の牛の販売価格について、平均的な数字を教えていただけますか?」
新堀さん「今年1年間で見ると、私たちの牛は平均して約70万円で販売されています。特に5月と7月には、82万円で売れた例もあります。これは牛の体重が平均で350kgということもあり、質の高い牛を育てている結果だと自負しています。」 記者「牛を大きく育てる秘訣は何ですか?」 新堀さん「私たちの秘訣は、濃厚飼料を惜しまずにたっぷりと食べさせることです。しかし、経営的な圧迫を避けるために、飼料は無駄なく計量して与えています。1頭1頭の食べる量を観察し、体調や成長状態に応じて調整することで、最適な育成を実現しています。」 記者「牛の健康管理において特に気を付けていることは何ですか?」 新堀さん「牛の健康管理では、「観察力」が何よりも重要です。体調が悪い牛の餌は適宜減らし、回復傾向にあれば元に戻します。主な健康問題は下痢で、獣医と密に連携しながら対処しています。特に小さい子牛の下痢は見逃さないようにし、早期治療を心がけています。」 記者「飼料の管理において特に注意している点はありますか?」 新堀さん「飼料の管理では、無駄なく効率的に与えることに注力しています。1頭1頭の食べる量を正確に観察し、その牛の成長段階や健康状態に合わせて飼料量を調整しています。これにより、牛一頭一頭が健康的に成長し、経済的な効率も上げています。観察力を駆使して、最適な飼料管理を行っているのです。」 畜産用メジャー
50年以上使用しているこのメジャーで正確に牛の胸囲を測ります。
胸囲のサイズに応じて雄雌それぞれの目安体重が記載されているため、測定を通して牛の生育状況を把握し、市場までに目標体重に合わせていくのだそうです。
Writer_Y.Eguchi
井野牧場 井野昭満
熊本県 阿蘇市 親牛:15頭、子牛:8頭 取材日:2023年11月13日
緑の牧場、白い約束:畜産業の革新者
記者「最近、牛の飼育に関する新しい知識や改善方法について何か学んだことはありますか?」
井野さん「最近、私たちの牧場ではサンゴの粉を導入しました。以前は、カビの問題で乳の質が悪くなり、子牛が下痢に苦しんでいましたが、サンゴの粉を与え始めてから1年後、この問題が完全に解消されました。この粉はミルクに混ぜるだけで、子牛の健康を大きく改善してくれるんです。」 記者「一人での作業における限界とその対策について教えてください。」 井野さん「一人での作業には確かに限界があります。特に病気や死亡事故に気づくのが遅れることが課題です。親牛が子牛を踏んでしまう事故も発生しています。これらの問題への迅速な対応と予防策を考えることが、今後の大きな課題となっています。」 記者「新しい技術や商品に対する試用や実践の姿勢について詳しく教えてください。」 井野さん「私は新しい技術や商品に対して非常に積極的です。例えば、コーラルインターナショナルの製品を半信半疑で試してみたところ、子牛の健康状態が大きく改善しました。このような試みを通じて、牧場の運営をより効率的かつ効果的にする方法を常に模索しています。」 記者「畜産業での新しい試みを行う際、どのようにリスクを管理していますか?」 井野さん「新しい試みにはリスクが伴いますが、私はそのリスクを最小限に抑える方法を採用しています。新しい製品を導入する際は、半額で提供される期間を利用するなどして、経済的リスクを軽減します。これにより、畜産業における革新的なアプローチを取ることが可能になっています。」 革新的な畜産の展開
記者「もし牛と会話ができるようになったら、どのような話をしたいですか?」
井野さん「牛たちと直接会話できるなら、まずは食べ物に関する話をしたいですね。特に、彼らが十分に食べて健康に太ることの重要性について話したい。熊本の市場では300キロ以上の牛が高く評価されるので、その点を強調したいです。また、彼らの日々の感じていることや要望にも耳を傾けたいです。」 記者「井野さんの牧場の牛はとても人懐っこいですね。その理由は何ですか?」 井野さん「うちの牛たちは非常に人懐っこいです。これは、彼らに対する日々の愛情深いケアの結果だと思います。例えば、彼らが背中をこすりつけてきたときに、私が撫でてあげると、彼らはじっとしてくれます。このような愛情のやり取りが、彼らの人懐っこさに繋がっているのだと思います。」 記者「尊敬する方を教えてください。」 井野さん「私が尊敬しているのは甲斐照久さんです。甲斐さんは、畜産業における経営の才能が素晴らしい方です。彼は牧場経営はもちろんですが彼が率先して取り組む耕畜連携に特に感銘を受けました、水田を持つ米農家と堆肥として肥料を提供する畜産農家が連携しWCSを栽培し双方で収益を最適化していくということですね。このような革新的な取り組みと、そこに目をつける経営者としての嗅覚、そして何より家族を含む十分な労働力を活用した効率的な経営方法が、私が彼を尊敬する理由です。」 記者「耕畜連携のメリットについて詳しく教えてください。」 井野さん「大きく2つのメリットがあると思っています。1つ目は米農家に堆肥として肥料を提供することにより、堆肥の処分が容易になります。2つ目に運搬の労力が減少するため、効率的に畜産を行うことができるのです。」 牛への愛と好奇心、畜産家の80点育成術
記者「あなたの牛の育て方を自己評価するとしたら、何点になりますか?」
井野さん「私の牛の育て方は、自己評価で80点くらいです。完璧ではありませんが、一人でやっている限りにはなかなか良い方だと思います。しかし、一人での作業の限界もあり、特に病気の早期発見が遅れることや、稀に起こる死亡事故が20点分の不足分です。」 記者「牛の死亡事故が発生する主な原因は何ですか?」 井野さん「牛の死亡事故の原因はいくつかあります。一番多いのは下痢に気付くのが遅れて死亡する場合です。また、親牛が子牛を誤って踏んづけてしまう事故もあります。これらは不可抗力の部分もあるものの、もう一人助手がいれば避けられることもあります。」 記者「座右の銘や牛の育て方に影響を与えているものは何ですか?」 井野さん「私の牛の育て方に影響を与えているのは、好奇心です。新しい技術や方法に興味を持ち、それらを試すことで改善の機会を見出しています。例えば、コーラルインターナショナルの製品を導入したことで牛の健康が改善したのも、この好奇心からです。」 記者「畜産業において新しい商品の試用や実践に対するあなたの姿勢について教えてください。」 井野さん「新しい商品の試用に対しては、リスクを抑えつつ新しい試みを行う姿勢を持っています。効果が確認できるまで半額で提供するなどの方法を取り、経済的リスクを軽減しています。このような積極的かつ柔軟なアプローチが、畜産業における革新的な取り組みに繋がっています。」 ウルカル
カビ毒の影響で母乳を飲んだ子牛が下痢をすることが多く困っているときに出会ったのがコーラルインターナショナルの「ウルカル」でした。サンゴの粉を餌に混ぜて食べさせることで見る見るうちに子牛の下痢がなくなっていったそうです。
Writer_Y.Eguchi
岩下牧場 岩下浩徳
熊本県 阿蘇市 親牛:40頭、子牛:23頭 取材日:2023年10月31日
細やかな観察と科学的飼料管理
記者「牛の健康を考える際に特に気をつけていることはなんですか。」
岩下さん「牛たちの健康を守るため、私たちは日々細心の注意を払って観察しています。特に子牛においては、下痢の有無をチェックし、成牛ではその活力や行動パターンを注意深く観察します。牛の健康は観察から始まり、最小の兆候でも見逃さないことが重要です。」 記者「牛舎や飼料について大切にしているポイントを教えてください。」 岩下さん「牛舎と飼料の質は牛の健康に直結しています。私たちは、常にカビの生えていない高品質な牧草を作ることに力を注いでいます。カビがあると牛はすぐに健康問題を抱える可能性があるため、厳格な品質管理を行っています。」 記者「こういう成分はしっかり取るように気を付けてるとかはありますか?」 岩下さん「はい、私たちは成牛には特別に計算された配合飼料を提供し、牛の子には彼ら専用に配合された飼料を与えます。これには鉄分などの重要な栄養素も含まれています。また、昔、カリウム欠乏になった牛にリン与えた方がいいと獣医さんから言われ使っていた時期もありました。しかし、これは長続きせず、目に見える効果も確認できなかったため、現在は具合が悪い時は獣医の診察を頼りにしています。健康管理は常に進化していますね。」 ストレスフリーな放牧の秘訣
記者「牛がストレスを感じないようにするためにどのような工夫をしていますか?」
岩下さん「牛たちがストレスを感じないよう、私たちは環境の広さに特に気を使っています。狭い環境はストレスの大きな原因になるため、牛たちはほとんどの時間を広大な放牧場で過ごしています。餌は専用スタンチョンで与え、食べ終わると再び自由に放牧されます。このようにして牛たちは自然に近い環境で自由に過ごすことができます。」 記者「放牧によるメリットは何ですか?」 岩下さん「放牧には多くのメリットがあります。すべての牛を自然に近い環境で育てることで、敷料の交換手間が減少し、発情の発見も早くなります。育成ステージに関わらず、牛たちを自然環境で育てることで、彼らの健康が促進されるのです。」 記者「放牧におけるデメリットはありますか?」 岩下さん「放牧には確かにデメリットもあります。特に広い範囲での放牧では事故のリスクが増えます。私たちは目の届く範囲内で牛たちを見守りますが、範囲外では気づかない事故が起こる可能性があるため、常に警戒しています。」 記者「牛の成長に合わせた環境の変化について教えてください。」 岩下さん「牛の成長に合わせた環境の変化は例えば、早期離乳を行い、出産後約3日で牛舎に移し、75日間ミルクを与えた後、再び放牧します。早期離乳は病気の早期発見に役立ちます。親牛と一緒だと発見が遅れることがあるため、この方法を採用しています。」 365日の献身
記者「岩下さんの座右の銘は何ですか?」
岩下さん「私の座右の銘は「健康第一」です。畜産農家としての日々は、子牛の市場への出荷に向けた細心の管理が必要で、健康であることは必要不可欠です。いつでも作業の滞りがないよう様々な工夫を行いながら体を動かし臨機応変に行動し、絶え間ない努力が求められます。」 記者「プライベートな時間を作る工夫について教えてください。」 岩下さん「若い頃は親が管理していたので遊びに行く時間もありましたが、今では全て自分で管理する必要があります。そこでアルバイトを雇い、標準化された作業体制を整えることで、牛の管理を他人に任せられる環境を作りました。これにより、旅行や孫の顔を見に行くなどのプライベートな時間を持つことができます。」 記者「牛の管理において特に重要な点は何ですか?」 岩下さん「牛の管理では、時間通りの行動が極めて重要です。時間通りに餌をやることで牛のストレスを減らし、種付けなどの作業もスムーズに行えます。この規則正しい管理が、牛の健康と生産性の向上に直結しています。」 記者「牛舎の問題点やトマト栽培への転換についてはどうですか?」 岩下さん「牛舎の建設費用の高騰は大きな問題です。そのため、収益の安定化のためにトマト栽培を始めました。野菜の値段の変動や収益の不安定さを経験した後、トマト栽培は牛の飼育だけでは不十分な収入を補う重要な副業となっています。」 トマト
岩下さんの牧場は周囲の農家の間でも有名なトマトハウスを運営しています。
トマトは育てやすく収益も安定しやすいそうです。 牛飼い以外の様々なトライアンドエラーを繰り返し収益の安定を追求してきたとおっしゃっていました。
Writer_Y.Eguchi
村上牧場 村上義輝
熊本県 阿蘇市 親牛:9頭、子牛:6頭 取材日:2023年10月30日
地域共同体の核心
記者「「一期一会」という言葉が好きな理由は何ですか?」
村上さん「一期一会という言葉には、私たちの田舎の生活が凝縮されているんです。ここでは、隣人との関係が生活の根幹をなす。都会のように隣の部屋の人さえ知らない状況とは異なり、田舎では近所とのつながりが欠かせない。お互いに支え合い、共に生きていく必要がある。この精神は、若い世代にも受け継がれています。一期一会の精神は、私たちの生活哲学そのものなんです。」 記者「人と人とのコミュニケーションを大事にしていますか?」 村上さん「もちろんです。田舎では、人とのコミュニケーションが生活の中心を占めています。人との深い絆がなければ、ここでの生活は成り立ちません。都会でも大切ですが、田舎ではそれがさらに強調される。隣人との絆、共同体の力がなければ、生活は困難になる。私たちはこの地域共同体の精神を、心に刻んで生きています。」 記者「一区牧野組合の組合長を務める理由は、「一期一会」の精神が強いからですか?」 村上さん「実は、組合長は年功序列に基づいて決まります。私も長年組合に携わってきて、去年までは会計を担当していました。後輩にその役割を譲り、今年組合長の役割を受け継ぎました。私たちの組合では、経験と貢献に基づいて役割が回ってくるのです。だから、一期一会の精神も重要ですが、それだけが理由ではありません。」 記者「組合長は何年間で交代するのですか?」 村上さん「組合長の任期は特に決まっていないんです。組合員からの要望があれば、役職は交代されます。前任の組合長は8年間務めましたが、私は今年からその役割を担っています。この地域の伝統として、組合長は地域の声に耳を傾け、必要に応じて役割を次の人に渡すことが求められます。」 稲作と家畜の調和
記者「日々の業務内容について教えていただけますか?」
村上さん「当農場の業務は多岐にわたりますが、特に牧野の仕事が最も難しいですね。天候に左右されるため、作業の計画は天気予報に基づいて行います。また、収穫作業は極めて重要です。私たちの農場は牧場業だけに留まらず、稲作やハウス栽培も行っています。加えて、副業を持つメンバーもいるため、組合の7名が連携して、効率的に作業を進めます。主には下の仕事、つまり稲作やハウス栽培、家畜の飼育に注力しています。牧草や野草の収穫は、山へ登って行うことが多く、組合員が少ないため、非農家の方々のサポートも不可欠です。」 記者「牛の健康管理において、特に注意していることはありますか?」 村上さん「牛の健康管理においては、特に新生牛のケアに力を入れています。例えば、出産後の牛は、1週間以内に離乳する場合と3ヶ月母乳で育てる場合があります。冬場は放牧せず、母乳での育成も選択肢の一つです。夏場は放牧するため、離乳後は親牛を放牧でき、業務負担も軽減されます。特に、子牛は1ヶ月以内に病気になりやすいため、寒い時期には暖房設備を使用したり、子牛の居住環境を温める対策を取ります。下痢はよくある症状で、早期発見と治療が重要です。私たちは日々の健康チェックに力を注ぎ、1年に1回の出産を大切にしています。万が一の死亡は大きな損失となるため、細心の注意を払っています。」 時代とともに変わる牧場の姿
記者「 牛の健康と成長をサポートするために特別な方法はありますか?」
村上さん「牛の健康と成長をサポートするためには、ビタミン剤の活用が重要です。特に体の小さい牛に対しては、ビタミン剤を用いて体重増加を促します。市場には様々な種類のビタミン剤があるため、それぞれの牛のニーズに合わせて選択します。また、鉱塩を加えた水を提供し、食餌のサイクルを整えることも重要です。病気の早期発見と適切な栄養補給は、健康な牛の育成に不可欠です。」 記者「牧場で抱えている問題点は何ですか?」 村上さん「現在、最大の課題は若い人材の不足と高齢化です。後継者不足が深刻で、多くの若者が他の職業を選んでいます。大規模な経営では、長男や次男が経営を継ぐことがありますが、高齢化が進んでいるため、機械操作が困難になってきています。これにより、事故のリスクも高まっているのが現状です。」 記者「牛の飼育で特に困っていることはありますか?」 村上さん「牛の飼育において特に困難を感じることは少ないですが、寒い時期の管理は大変です。子牛は特に体温を維持する必要があり、大きな部屋に入れて暖房を使って部屋を温める必要があります。3ヶ月以内の子牛は病気になりやすいため、冬場の寒さ対策は非常に重要です。このような細かい気配りが、健康な牛の育成には欠かせません。」 鉱塩
牛を大きくするためには「水をたくさん飲ませること」が大事と話す村上さん。鉱塩を覚めさせると水分を欲して水分補給量が上がるそうです。村上さんの牛養いには欠かせない商品と話されていました。
Writer_Y.Eguchi
市原牧場 市原伸博
熊本県 阿蘇市 親牛:20頭、子牛:16頭 取材日:2023年10月30日
一年一産の誓い
記者「「一年一産」という座右の銘を持っている市原さんですが、この方法が一般的に難しいとされる理由は何でしょうか?」
市原さん「一年一産は確かに難易度が高いんです。子牛の健康管理が非常に重要で、早期授乳後の種付けタイミングも重要です。特に阿蘇地域では放牧地が広く、自然豊かな環境で健康管理を徹底しています。放牧によって牛の健康を育むことが、一年一産を成功させる秘訣ですね。」 記者「 健康な牛を育てるために、特に気を付けている点はありますか?」 市原さん「牛の健康管理には非常に気を使っています。放牧以外でも、家で飼う牛には日々の健康観察が不可欠です。食欲や行動パターン、体調の微細な変化にも敏感に対応しています。また、良質な粗飼料を与えることも重要です。健康な牛を育てるためには、細部にわたる観察と適切な飼料が鍵ですね。」 記者「 下痢をした牛に対して、具体的にどのような対応をされていますか?」 市原さん「下痢をする牛には特に注意を払っています。まず、子牛は隔離し、2メートル四方の区画に入れて管理します。離乳後は特に、毎日便の状態をチェックし、異常があればすぐに対応します。ミルクの量も一頭一頭適切に調整し、大きさや健康状態に応じて適切なケアを行っています。一頭一頭の牛に合わせた細やかなケアが、健康な成長を促します。」 記者「牛飼いを始めたきっかけは何ですか?」 市原さん「私が牛飼いを始めたきっかけは、家業の継承です。当時はほとんどの家庭が農業を営んでおり、特に長男は農業を継ぐのが一般的でした。私の家も牛飼いをしていたので、自然とこの道を選びました。阿蘇では米作りと畜産が主流で、多くの家庭がこの組み合わせを行っています。牛飼いとしての技術と経験を活かし、畜産と農業の両方に取り組んでいます。」 畜産業界での歩み
記者「もし畜産以外の仕事を選んでいたら、どのような職業に就いていたと思いますか?」
市原さん「畜産以外の仕事に就いていたら、多分米作りをしていたでしょう。私にとって他の仕事を考えることはほとんどありませんでした。私の世代では、農業が主な仕事で、勤めると言えば警察官などが一般的でしたが、私はそういった道を考えたことはありません。牛飼いの仕事は毎日が違い、厳しさもありますが、それがまた楽しいんですよ。」 記者「他の畜産農家にはいわゆる「師匠」のような存在がいることがありますが、市原さんにはそのような方はいましたか?」 市原さん「私には特定の「師匠」と呼べる人はいませんでした。畜産部会の役員としていろんな部会で経験を積んできましたが、基本的には自分で考え、自分で行動してきました。小さい頃から牛を見て育ててきたので、その経験が今の私の基盤です。畜産関係の視察や研修には参加しましたが、最終的には自分に合った方法を見つけ、それを実践してきました。」 記者「 市原さんが独自に開発し、成功したと感じる飼育方法はありますか?」 市原さん「私が試して成功したと感じる方法は、特にないですね。常に学びながら進めています。例えば、飼料の添加剤を特定の牛に与えてその反応を見たり、子牛の餌の管理方法を調整したりしています。効率化も常に考えています。牛の放牧や飼料の管理など、日々の業務を効率よく行うための工夫を重ねています。畜産は簡単な仕事ではなく、経験と知識が必要です。」 記者「畜産業界での成功をどのように捉えていますか?そのためにどのような取り組みをしていますか?」 市原さん「畜産業での成功は、日々の小さな工夫や改善によって成り立っています。例えば、放牧地の管理を工夫して、初めて放牧する牛や特別な管理が必要な牛を適切にケアしたり、ミルクを飲ませる方法を改善するなどです。放牧場の設計や牛の健康管理において、自分で考え、試し、改善することが重要です。畜産業は常に変化し、それに合わせた取り組みが成功への鍵ですね。」 市原牧場の賢明な管理術
記者「市原さんの牧場では、受胎率を上げるために特別な方法を取り入れていますか?」
市原さん「ええ、受胎率向上のためには、濃厚飼料と粗飼料のバランスが肝心です。特に、妊娠した牛や種付け前の牛には栄養管理が重要。妊娠した牛には栄養豊富な濃厚飼料を多めに、未受胎の牛には適量を与えます。また、発情周期を正確に把握し、90日以内に種付けすることが我々の基本方針です。」 記者「具体的に、どのように飼料を配合していますか?」 市原さん「配合飼料の価格が高騰しているので、慎重に飼料を調整しています。妊娠している牛は栄養が必須なので、濃厚飼料の比率を高めます。受胎していない牛は、適度に管理しないと問題が生じます。牛の健康状態と発情サインを細かく観察し、適切なタイミングで種付けを行うことが、私たちの日々の仕事です。」 記者「獣医師の関与はどのように行われているのですか?」 市原さん「獣医師との連携は非常に重要です。出産後60日から90日経過した牛は特に注意が必要。卵巣の状態や子宮の健康をチェックし、万が一の病気や異常を見逃さないようにしています。具体的には、60日経過しても発情しない場合は、速やかに獣医師に診てもらいます。」 記者「新規就農者に向けて何かアドバイスはありますか?」 市原さん「今の農業環境は厳しいですから、資金計画の立案が不可欠です。特に流動資産の管理は重要。私たちの牧場でも、息子が継いだ際には、しっかりと計画を立てることの重要性を伝えました。流動資産とは、年によって変わるものですから、リスク管理が欠かせません。例えば、野菜などの価格は年ごとに変動するため、資金計画をしっかり立て、リスクに対応できるようにすることが重要です。」 アソード
土を食べる牛は鉄分が不足している可能性が高く、不足しがちな鉄ミネラルを効率的に摂取できるため興味があるとのこと。
下痢対策のために現在様子を見ながら牛に与えているそうです。
Writer_Y.Eguchi
東牧場
熊本県 阿蘇郡 親牛:42頭、子牛:20頭、肥育牛:15頭 取材日:2023年9月14日
はじめに
農家の努力と情熱、それが高品質な牛肉の源です。何がその背後にあるのか、どのような工夫と知識、そして心構えが求められるのか。そうした疑問に答えるために、東牧場の東さんにお話を伺いました。この記事では、牛の健康を維持するための特別な注意点、地域との情報交流、そして畜産業界の現状と今後についての見解など、多角的に牛肉生産のリアルを深掘りしていきます。
日々の献身: 牛の健康を育む農家の知恵
ーー子牛の健康を考える際に特に気をつけることは何ですか?
畜産において観察力は非常に重要だと思っています。健康状態を確認するためには、毎日牛を観察する必要があります。私の場合は下痢、痩せ具合の日々の変化については重視していますね。ほかに重視しているとしたら、敷料の状態も重要な要素です。牛舎内の床には鋸屑などの敷料を敷いていますが、頻繁に清掃や交換を行うことが必要です。特に冬場はお腹が冷えるため、牛の下痢が増え、敷料は汚れやすくなります。うちの牛舎では通常、冬場は2週間に1回程度、夏場は1か月に1回程度の頻度で床の清掃や交換を行っています。敷料が汚れたままにしてしまうと、雑菌やウイルスの繁殖が進み病気や肺炎、さまざまな問題やストレスを引き起こす可能性があります。牛は快適な環境を求める生き物であり、床の清潔さは牛の生活や健康に直接的な影響を与えます。清潔で快適な環境は、牛のストレスを軽減し、より健康的な成長を促す重要な要素です。牛舎の管理者や飼育者は、観察力を養いながら、牛の健康状態や環境に十分な注意を払うことが重要ですね。 教えと学びの連鎖: 地域共同で築く持続可能な畜産
ーー周囲の農家さんとの情報交換などは定期的に行っていますか?
畜産は一人ではできないこともたくさんあるので、わからないことがあったらすぐに他の農家さんたちに相談するようにはしていますね。逆に相談されたら教えるようにして双方で情報共有するようにしています。過去には、サシが入らなくて困っていた時に、タンパク質の補給について教えてもらったり、この成分が足りないなどアドバイスをたくさんいただきましたね。ですが他の人が成功している方法をそのまま真似るだけでは上手くいかない場合もありますので、それぞれのポイントを参考に試行錯誤することはとても大事だと思っています。あとは血統についてですかね。あの方はどんな母体に何の種をつけたか?それでサシにどんな影響があったのかと事細かに聞いています。また、この病気になった時にどんな薬が効いたのか、どんな餌をやっているのか、など気になったらすぐに人に聞くようにし、そこで集まった情報から自分で噛み砕くようにしています。 ーー血統についてのお話が出ましたが東さんが考える赤牛のおすすめの血統を伺ってもいいですか? 大体は光晴重ですね。光晴重はサシの入りもよく、枝肉重量も大きいです。ただ、光晴重はもういないので、後継の第二光晴を私としては推しています。あと、重波泉も最近のメインになっていますね。この3つが今畜産界では多いのではないのでしょうか?どれもサシの入りもよく体も大きいので選ばれているのだと思います。 ーー血統の良い牛を育てても環境が良くないと十分に育ってくれないとよく聞きますが牛舎環境に配慮したこだわりなどはありますか? 夏はハエが増える時期ですので消毒を定期的に行っています。風通しなどにも配慮しています。逆に冬場は牛舎を閉め切っていますね。寒さ対策としてベストを牛に着せてあげたりインバーターの暖房を上から照らしてあげたりします。私の考えですが最近は品種改良なども進んで牛が弱くなっているように感じます。昔からされている畜産家の方々もみんな「昔の牛は強かった」と口をそろえて言われていますからね。昔に比べてより一層牛への配慮の質が求められていると思います。 荒波を乗り越えて: 畜産業の厳しさとその先にある喜び
ーー現在畜産業界は飼料高騰や市場価格の低下など様々な面で苦しんでいると言われますが、東さんのご意見を伺ってもよろしいでしょうか?
畜産業は今とても厳しいです。特に牛の飼料の値上がりなどですね。しかし、これは一般の人や普通の会社にも同様であり、もう仕方ないことなのかなと思っています。畜産家の立場では、肉が高い方が良いと思っていますが、一般消費者の立場では、高額な肉は安くあってほしいと思われますので、その需要と供給のバランスをしっかりと定めていくことが重要だと私は思っています。 ーー最後に新しく畜産業に参入する方々に向けたアドバイスなどあれば教えてください。 やはりたくさんの人の意見を聞くことや積極的に質問することが一番良い方法だと思います。経験に基づいてアドバイスしていただける人が身近にいることはとても心強いです。また畜産業は辛いこともあるかもしれませんが、それ以上に喜びも感じる瞬間もたくさんあります。例えば、私の場合、最初に育てた牛が元気に赤ちゃんを産み、お母さんも元気でいるという状況になった時です。そして、その子たちを10ヶ月ほど育ててから市場に出荷するのですが、それが大きなサイズであると、高価で買い取ってもらえます。そのような経験をするとやる気が湧いてくると思います。 編集後記
東さんのお話を通じて、牛一頭一頭に手間暇かける農家の方々の献身的な努力がいかに大切であるかを再認識することができました。「牛に感謝」という言葉は、単なる感嘆ではなく、その生命を尊重し、そのおかげで成り立っている産業への感謝の象徴です。東さんは、「畜産業は辛いことも多いですが、その先には大きな喜びが待っている」と言います。新規就農される方々や就農して間もない方々にそのやりがいが広く、深く伝わることを願っています。
アソード
サンプルを使ってみて牛たちの嗜好性に驚きました。知人の農家も愛用しているとのことで今後の牛たちの健康状態改善に期待しています。
Writer_Y.Eguchi
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矢津田牧場
熊本県 阿蘇郡 親牛:33頭、子牛:22頭 取材日:2023年9月4日
はじめに
牛舎の涼しい風とともに、新生牛が初めての一歩を踏み出します。この瞬間が、一年一産と呼ばれる農家の一大イベントであり、その背後には無数の試練と工夫、そして無償の愛があります。生まれたばかりの牛が初乳を飲む瞬間から、健康を維持しながら一年で一度の繁殖を目指すまで、農家の人々は様々な困難に立ち向かっています。特に発情の確認や下痢の予防など、多くの要因が影響を及ぼすこの過程は、日々の観察と即座の対応は欠かせません。この記事では、牛の健康管理と一年一産への挑戦について紹介していきます。
立ち上がる力:子牛の最初の5分
牛の健康を考える際に特に気を付けていることは何ですか?
やっぱりすぐ乳を飲むかですね。初乳を飲めば安心するのですが中には立ち上がりが悪く初乳をすぐに飲めない子もいます。うちの子牛は生まれてからだいたい5~6分ぐらいで立ち上がるんですが立ち上がらない子には人工乳をあげることで立ち上がらせる方法があります。人工乳を一回腹に入れておくと自分で立ちはじめるんですね。油さしにだいたい200~300mlちょっと入れて飲ませておくだけで立ち上がりの勢いが全然違います。「もっと飲みたい!」という気持ちにさせてしまうことが大事ですね。分娩の時間も決まっているわけではないため夜中から立ち会いますし、生まれてからも2~3割ぐらいは自分で立ち上がれない子牛もいます。初乳を飲むところまで気が休まらないとても大変な仕事だと思います。 気が休まらない仕事というのは本当に大変ですね。奥様と2人で運営されているんですか?後継者についてもお考えをお聞かせいただいてもいいですか? 現在は妻と両親の4人で経営しています。子供はまだ上が外国語大学の大学生、2番目が高校生、3番目が中学生とまだまだ跡継ぎなどは考えていませんね。 臭い対策から下痢予防まで:全方位的な牛のケア
季節や牛の成長に合わせて環境を変えることはありますか?
夏場は扇風機を付けます。また、堆肥を出したときは「エスカリウ」を使って臭い対策をします。成分はカルシウムやケイ素が多く入っていて、臭いの原因のアンモニアを吸着し臭わなくしてくれるんです。アンモニアが充満すると咳をしたり喘息の原因になるので。そして冬場はヒーターを使ったり、牛用のネックウォーマーを着せてあげたりします。ネックウォーマーはかなりいいですよ。人間と一緒で牛も首が寒いみたいなので首を温めるようにしてあげると喜んでくれます。ほかにも牛用のジャケットを着せてあげたりして防寒対策しています。知り合いの農家さんに教えてもらったのでやってみたら効果絶大でした。 あとは、餌食いが悪い時や親の発情が来ない時にビタミン剤の「デュファゾール」を与えています。これを飲ませると餌の食いが急によくなるので愛用しています。 牛たちが健康に過ごすために特に心がけていることは何ですか? 下痢させないことですかね?下痢する牛は早期発見して治療することを心がけています。ひどくなってしまうともう回復は見込めないですね。早く見つけて獣医さんに治療してもらえば2~3日ぐらいでよくなります。ですので朝起きて牛舎のチェックは欠かせません。また、早期発見で言うなら耳が垂れたり、頭を下げたままだったり、元気がなくずっと寝ていたり、目が曇っている子など見た目の様子で今後下痢する牛を事前に把握しています。 一年一産への挑戦:若手農家に贈る畜産の極意
やりがいや今後を担う若手の農家さんに伝えたいことなどあれば教えていただいてもいいですか?
「一年一産」させることにやりがいを感じます。発情が来て1回で種がつけばいいですけど今年のように暑い時には発情も来にくいし、種のつきが悪いのでとても難しいです。また牛舎の中にいるので冬場は発情がとても分かりづらいというのもあります。そういう時は獣医さんを呼んで診てもらい発情が来ているかを確認してもらっています。さらに最近の牛は発情が弱い傾向があります。特に未経産牛は発情が極めて弱いため、発情が来ているかを判別するのは至難の業です。未経産牛の発情が弱いというのはおそらくどの農家さんでも思われている共通の課題ではないですかね?若手の農家さんや新規就農される農家さんもまず一年一産させ、下痢を極力させず健康な牛を作ってセリに出してほしいです。 編集後記
記事を通して見えてきたのは、農家と牛が築き上げる深い信頼関係と共存です。それは「一年一産」の成功が単なる生産効率やビジネス成功に留まらず、牛一頭一頭に対する深い愛情と責任感からくるものであると強く感じました。牛が健康でいられるような環境づくり、早期発見と治療、そして常に最良の状態を追求するこれらの努力は、矢津田さんの掲げる「牛に感謝」の具体的な形であると言えます。矢津田さんの情熱と献身的な姿勢に心から敬意を表し、これからもその知識と経験が次世代の農家に受け継がれていくことを願っています。
エスカリウ
天然の珪石や石灰石を原料にした多孔質の粉粒体のケイ酸カルシウムです。
畜舎や堆肥場の臭いを抑える効果があり、牛の病気を未然に防ぐために使っています。
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