吉田牧場 吉田裕美
鳥取県 西伯郡 搾乳牛:20頭、親牛:60頭、育成牛:20頭 取材日:2024年6月19日
自家産牛へのこだわり
記者「吉田さんの牧場のこだわりを教えていただけますか?」
吉田さん「酪農を主にしていたんですけど、10年ぐらい前から和牛繁殖に取り組むようになり、和牛を増やすために乳牛に受精卵をつけてきました。最初は雄のホルスタインのF1肥育をしていましたが、今では母体も増えてきて、和牛の繁殖を本格的に進めています。」 記者「吉田さんのところでは、自家産の牛というところにこだわりがあると聞きました。このこだわりについて具体的に教えていただけますか?」 吉田さん「そうですね、これは主人の強いこだわりなんです。家族全員がそれを共有し、一緒に取り組んでいます。昔から肥育も自分たちで行い、雄のホルスタインのF1を自分たちの手で育て、出荷まで責任を持って取り組んでいます。」 記者「以前は導入もされていたことがあるのでしょうか?」 吉田さん「はい、数十年前に導入もしていたことがあります。しかし、その時に病気が発生し、大変なショックを受けた経験があります。それ以来、導入は控え、自家産の牛だけで経営を続けています。これも主人の強い意志で、自家産の牛にこだわっている理由の一つです。」 記者「吉田さんのInstagramで大山乳業や白バラ牛乳が取り上げられているのを見ましたが、これについて詳しく教えてください。」 吉田さん「はい。大山乳業は鳥取県内の牛乳を集めて加工している会社です。自社の工場で牛乳やヨーグルト、白バラコーヒーなどを生産し、全国に発送しています。大山乳業は日本一の乳質を誇るとされていますが、その背景には月に一度の乳質検定があります。朝晩のサンプルを取って、一頭一頭の体細胞数や細菌数を検査し、牛の健康状態をチェックしています。これにより、乳質の悪い牛を早期に見つけて対策を取ることができ、病気の予防にもつながっています。」 うちの牛たちは100点満点!-技術と愛情の結晶
記者「吉田さんのところの牛に点数をつけるなら何点でしょうか?」
吉田さん「自分の気持ちとしては、100点満点と言いたいですね。穏やかで人懐っこく、性格も良い子たちばかりなので。ですが厳しく見ると繁殖用の牛たちは少し小さめで、もう少し大きく育てたいという課題があります。まだまだ伸びしろがあると感じていますので、厳しめに見て80点というところでしょうか。でも、これからも改善していけると思っています。」 記者「乳牛に関してはいかがですか?」 吉田さん「乳牛に関しては今とても安定しています。大山乳業では牛群検定の他にも月に4回抜き打ちで乳質検査があります。これをクリアして年間通して一度も引っかからなければ、良質な牛乳として表彰されます。これを目標にして、引っかからないように努力しています。表彰されると賞金ももらえますし、大山乳業独自の『白バラ認定』というものもあります。これは牛舎の清潔さや管理状況をチェックするもので、それをクリアするととても良い牛舎だと認定されます。これも大きな励みになります。」 記者「先ほど繁殖用の牛をもう少し大きく育てたいとおっしゃっていましたが、その80点を100点にするためにどのような具体的な対策を考えていますか?」 吉田さん「良い種をつけることで改善していきたいと考えています。また、母体が多いので、その子たちに様々な種をつけて、大きく育つ牛を育てたいです。繁殖和牛を始めた頃は事故も多かったのですが、カメラや牛温恵を導入して、今はかなり事故も減り、管理がしやすくなっています。」 記者「おすすめのアイテムや道具について教えてください。」 吉田さん「生まれたばかりの子牛に使う仔牛用人工呼吸器キットも非常に助かっています。この装置は、生まれたばかりの子牛が自力で呼吸できない時に使います。特に出産直後の子牛は、羊水を飲み込んでしまったり、呼吸が乱れることが多いです。この人工呼吸器を使うことで、子牛の肺に新鮮な空気を送り込み、適切な酸素供給を助けることができます。最初は使い方に慣れるまで少し時間がかかりましたが、今では必需品となっています。これがあれば、呼吸困難で命を落とすリスクを大幅に減らせるので、子牛の健康管理に大いに役立っています。」 食育と絵本で伝える酪農の魅力
記者「師匠や目標にしている方を教えてください。」
吉田さん「酪農をしている方で、食育活動にも力を入れている方がいらっしゃいます。その方は乳和食など、様々な場所で牛乳や酪農の魅力を発信されているんです。同じ地域に住んでいて、酪農仲間でもあるのですが、とても素敵な女性で、私にとっては目標とする方です。」 記者「吉田さんのInstagramを見ていると、絵本を展開されているようですね。これも食育と関係があるのですか?」 吉田さん「はい、乳和食や保育園での食育活動にその師匠と一緒に参加しています。その中で子供たちが絵本を読んでと言ってくる姿に感動し、絵本の魅力を再認識しました。お絵描きが好きだったので、牛の絵を描き始め、そこから『もーちゃん』というキャラクターが生まれました。趣味で描いていた絵が増え、絵本として食育に使えたらと思い、大山乳業さんの職員さんに相談して、彼らと一緒に絵本を出版しました。読み聞かせを通じて普及することができました。」 記者「この絵本は吉田さんにとってどのような存在ですか?」 吉田さん「私は忘れん坊なところがあり、伝えたいことをうまく伝えられないことが多かったんです。絵本があれば、気持ちを込めて読むことで忘れずに伝えられます。自分のためにも作りましたし、子供たちや皆さんに酪農の魅力を知ってもらうきっかけになれたらと思っています。」 記者「最後に座右の銘を教えてください。」 吉田さん「『楽農』です。畜産業は大変な仕事ですが、楽しむことが大切だと思っています。楽しく農業をすることで、自然と笑顔が生まれ、その笑顔が幸せを呼び込むと思うんです。楽しんで取り組むことで、毎日の仕事に対するモチベーションも高まりますし、健康にも良い影響を与えると思います。だからこそ『楽農』を座右の銘にしています。」 仔牛用人工呼吸器キット
仔牛用人工呼吸器キットは、生まれたばかりの子牛が自力で呼吸できない時に使用し、適切な酸素供給を助けます。これにより、呼吸困難によるリスクを大幅に減らし、子牛の健康管理に大いに役立ちます。
Writer_T.Shimomuro
0 コメント
西尾牧場 西尾光隆
長崎県 佐世保市 母牛:100頭、子牛:40頭 取材日:2024年5月23日
牛たちの一年を支える
記者「西尾さんの牧場でこだわっているポイントを教えてください。」
西尾さん「うちは繁殖農家なので、一年一産することを非常に重視しています。一年一度で確実に牛を出産させるための環境作りに力を入れています。」 記者「一年一産を実現するために具体的にどのような行動を取っていますか?」 西尾さん「牛の妊娠期間は大体285日ですから、年産を実現するためには分娩後80日以内に再度種付けを行わなければなりません。分娩直後はすぐには種付けできないので、約40日後から種付けを開始し、残りの40日以内に成功させるようにしています。このスケジュール管理が非常に重要なんです。」 記者「その種付けを成功させるために必要なことは何ですか?」 西尾さん「まず、牛の健康状態を常にチェックし、ビタミンや微量要素の管理を徹底しています。そして、分娩後できるだけ早く初回の発情を見つけるために、牛の観察をしっかり行います。この観察と栄養管理が、種付けの成功に直結する大事な要素です。」 記者「子牛のケアについても重要だと思うのですが、その点はいかがでしょうか?」 西尾さん「そうですね。一年一産を達成するためには、子牛のケアも非常に重要です。うちでは早期に母牛から子牛を離し、ミルクを与えています。全国的には3日から1週間で離すところが多いですが、うちは可能な限り早く行っています。これにより母牛の回復を促進し、次の繁殖サイクルに備えることができます。また、子牛の栄養管理も徹底し、分娩前後のケアを行うことで、健康な成長をサポートしています。」 牛たちの健康管理を極める
記者「西尾さんの牛の状態に点数をつけるなら何点ですか?」
西尾さん「そうですね、最良の状態だと90点くらいですが、今の状態は80点くらいでしょうか。まず、一年一産が目標ですが、うちはこの10年間、ほぼ全ての牛が一年一産を達成しています。しかし、全体の健康状態を見ると、100頭中いくつかは軽い病気や肺炎などの問題が発生します。それでも大きな問題なく順調に育っていますので、80点と評価しています。」 記者「母牛の繁殖成績は具体的にどのようなものですか?」 西尾さん「うちの平均分娩間隔は約11.6ヶ月です。12ヶ月を切れば一年一産が可能になりますが、これを10年以上達成してきました。種付けの回数は平均1.8回で、理想は1回ですが、現実的には1.5回を目標としています。また、全ての牛が均等に良い成績を出すように、さらに改善を目指しています。」 記者「点数を100点に近づけるために改善したいポイントは何ですか?」 西尾さん「今のところ、分娩前後の栄養管理を徹底していますが、種付けの成功率をさらに高めるために、ホルモン注射などを活用しています。また、個々の牛の状態をより詳しく観察し、必要に応じて適切な対応を行うことが重要です。今後もこの一年一産という基本方針を維持しつつ、さらに細かい管理を行っていきたいです。」 記者「具体的にどのような改善が効果的だと考えていますか?」 西尾さん「今も飼養管理はしっかり行っていますが、牛の栄養状態を常に最適に保つことが重要です。特にビタミンやミネラルの不足を防ぐため、適切なエサや添加剤を使用しています。また、繁殖機能をサポートするために、種付けのタイミングを正確に見極めるための観察を徹底しています。これらの取り組みを継続し、さらに改善することで、牛の状態を100点に近づけていきたいです。」 二度と来ない今日を百日のように
記者「師匠や目標にしている方はいらっしゃいますか?」
西尾さん「はい、私には二人の師匠がいます。まず一人目は長崎農大の研修で出会った荒木大作さんという方です。大学のカリキュラムで1年生の時に1週間、2年生の時には1か月の研修があり、その時に出会った方なんです。元々地元では農業には興味がなかったのですが、その方の牧場での経験が大きな影響を与えました。彼の牧場では120頭の牛を飼っていて、規模の違いに驚きました。彼は学生だった私に機械の操作や牛の種付けなど、さまざまな経験をさせてくれました。この経験が私が地元に戻って牧場を継ぐ決意を固めるきっかけになりました。」 記者「もう一人の師匠についても教えてください。」 西尾さん「もう一人は地元の農家の鳥山さんです。大学を卒業して地元に戻った後、国の後継者育成制度を利用して鳥山さんのもとで2年間研修を受けました。彼もまた、多くの経験をさせてくれる方で、牛の共進会に参加したり、地元の農家コミュニティに私を紹介してくれたりしました。彼のおかげで地元での活動がスムーズに進みました。」 記者「そうした経験が牧場経営にどのように役立っていますか?」 西尾さん「鳥山さんのおかげで、地元の農家コミュニティに溶け込みやすくなりました。また、牛の共進会などのイベントに参加することで、多くの知識と経験を得ることができました。これらの経験が、現在の牧場経営に大いに役立っています。」 記者「最後に座右の銘を教えてください。」 西尾さん「『二度と来ない今日というこの日、この一日を百日のように生きたい』という言葉です。この言葉は小学生の頃に出会い、今でも心に残っています。毎日を大切にし、一瞬一瞬を全力で生きることが大事だと感じています。」 記者「その言葉を大事にしている理由を教えてください。」 西尾さん「小学生の頃、親しい人の死や大切なものを失う経験を通じて、日々を大切に生きることの重要性を感じました。後悔しないためにも、今できることを全力でやることが大切だと思っています。」 ニュー・ハイコロィカル
ニュー・ハイコロィカルは、ビタミンやミネラルを含む添加剤です。牛の健康をサポートし、特に子宮の状態を良好に保つことで、自然発情を促進し、分娩間隔の改善に寄与します。
Writer_T.Shimomuro
山崎牧場 山崎隆幸
長崎県 松浦市 親牛:11頭、子牛:7頭 取材日:2024年5月22日
堆肥で繋ぐ未来
記者「牛飼いの生い立ちについて教えてください。」
山崎さん「私の家は代々牛を飼っていて、父も祖父も牛を飼っていました。家では3頭ほどの牛を飼いながら、タバコの栽培も行っていました。小さい頃から牛小屋が家の近くにあったので、自然と牛の世話を手伝うようになりました。中学校を卒業してからは北松農業高校に進学し、その後は農業大学に進みました。大学では同じ志を持つ仲間と出会い、刺激を受けました。大学で学んだことを元に、卒業後は地元に戻り、家業を継ぎました。」 記者「刺激を受けたことで、家業の牛飼いを継ぐ決心をしたということですね。」 山崎さん「そうですね。大学での学びと出会いが、私にとって大きな影響を与えました。父親の背中を見て育ったこともあり、牛飼いとして生きていく決心がつきました。」 記者「先ほど、タバコの栽培もされているとおっしゃっていましたが、牛飼いとタバコ産業にはどのような関連がありますか。」 山崎さん「はい、タバコの栽培には良質な肥料が必要です。私たちは牛から出る糞尿を肥料として利用しています。ただ、そのまま使うと匂いや塩分の問題がありますので、一度堆肥として熟成させ、塩分を抜いてから使用します。こうすることで、臭気の問題も軽減され、環境に優しい農業が可能になります。」 記者「堆肥の匂いや塩分問題の対策として、どのような方法を取られていますか。」 山崎さん「堆肥を適切に処理するために、まず牛糞を天日干しして発酵させます。これによって、匂いが軽減され、塩分も自然に抜けていきます。また、堆肥散布機を使って畑に均等に撒くことで、土壌の改良にも役立てています。こうした工夫を重ねることで、良質な堆肥を作り、持続可能な農業を実現しています。」 記者「堆肥の管理にはどのような工夫をされていますか。」 山崎さん「堆肥の管理には、使用する分と保存する分をしっかり分けて行っています。必要に応じて堆肥散布機を使って畑に撒き、適度に量を調整しています。こうすることで、堆肥が過剰にならないようにし、効率的に資源を活用しています。」 未来を見据えた畜産経営
記者「山﨑さんがご自身の牛の状態に点数をつけるなら何点でしょうか。」
山﨑さん「55点ぐらいですかね。8ヶ月で出荷できる牛もいるし、運動場があるおかげで発情のタイミングが見つけやすいという利点があります。適度な運動ができる環境が整っていることで、牛の健康管理もしやすくなっています。しかし、まだ改善の余地があると感じています。」 記者「その55点を100点に近づけるために、具体的にどのような改善を考えていますか。」 山﨑さん「まず、子牛の下痢を防ぐために、スターターをしっかり与えて4、5か月まで管理観察を徹底したいです。また、母牛のコンディション管理をしっかり行い、配合飼料を適量に保つことで健康を維持させたいと思っています。そして、受精卵移植などを活用して血統の改善を進め、一年一産を目標に頑張りたいです。」 記者「おすすめのアイテムや道具について教えてください。」 山﨑さん「おすすめのアイテムは、鉱塩です。必要な時に必要なミネラルを手軽に取ることができ、人手をあまりかけずに管理できるので助かっています。」 記者「鉱塩はどのくらい使われているんですか。」 山﨑さん「もう10年ほど使っています。鷹島地区でも多くの方が鉱塩を利用しています。醤油かすや大豆かすを使っている方もいますが、私は鉱塩を愛用しています。」 鷹島の誇りを胸に
記者「師匠や目標にしている方はどなたですか。また、どういったところを尊敬しているのでしょうか。」
山﨑さん「目標にしている方は、鷹島の先輩方です。鷹島の先輩方は分娩間隔が全国でも上位で、一年に一度の分娩をしっかりと実現しています。毎年、全国上位に入ることもあり、セリ市でも高値で評価されることが多いです。特に、牛の太り具合が良く、油が少ないため、購買者から高く評価されています。」 記者「具体的なエピソードがあれば教えていただけますか。」 山﨑さん「鷹島の牛は太りすぎず、適度な脂肪でカラッとした肉質が特徴です。これが購買者から高く評価されている理由の一つです。実際にセリ市で高値がつくことが多く、平均でも鷹島地区の牛は高く評価されています。」 記者「最後に、座右の銘を教えてください。」 山﨑さん「私の座右の銘は『二刀流』です。牛飼いと他の事業を複合経営していくことを意味しています。例えば、牛飼いとタバコ栽培を並行して行うことで、どちらかの相場が下がっても収入を安定させることができます。将来的には、自分で人工受精や育成技術を磨いて、より高品質な牛を育てていきたいと思っています。」 鉱塩
鉱塩は、手軽に必要なミネラルを補給できる便利なアイテムです。
10年以上にわたり利用され、特に鷹島地区で広く愛用されています。 醤油かすや大豆かすを使われる農家も多いですが、鉱塩の人気も根強いそうです。
Writer_Y.Eguchi
岩﨑畜産 岩﨑淳治
熊本県 大津町 交雑育成牛:100頭、親牛:45頭、子牛:25頭 取材日:2024年5月16日
観察が命
記者「岩﨑さんの一家相伝の技術や、技術的な部分でこだわっているポイントについて教えてください。」
岩﨑さん「私たちのこだわりは観察にあります。毎日、牛の様子を細かく観察することで、健康状態を把握しています。これにより、病気の早期発見や対策を取ることが可能になります。特に、牛の動きや餌の摂取状況、ふだんと違う行動が見られた場合には、すぐに異常を疑います。観察は一見地味ですが、非常に重要な作業です。」 記者「観察の具体的なポイントについて、もう少し詳しく教えてください。」 岩﨑さん「例えば、牛が餌を食べに来ない場合や、食欲が明らかに低下している場合、それは何かしらの問題が起きているサインです。過去に熱が原因で餌を食べなくなった牛がいたので、まずは体温を測ります。異常があればすぐに獣医を呼び、治療を始めます。観察を通じて、日々の健康管理がどれだけ大切かを実感しています。」 記者「具体的なエピソードとして、過去にどのような異常を発見し、どのように対処したか教えてください。」 岩﨑さん「小さな牛が耳を下げているのを見たことがあります。それは中耳炎の予兆でした。普段からの観察で異常に気づけたので、早期に治療を開始し、重症化を防げました。また、下痢が見られた場合にはすぐに消毒を行い、専用の薬を使って対処します。こうした早期発見と対応が、牛の健康維持に大いに役立っています。」 記者「下痢に対する対策について、もう少し詳しく教えてください。具体的にはどのような薬を使っていますか?」 岩﨑さん「うちでは、消毒に加えてミヤリサン(宮入菌末、ゲンノショウコ末、トウモロコシデンプン、人工カルルス塩、乳糖水和物を含む)やトルラミン(トルラ酵母、コハク酸、テトラーゼTを含む)といった薬を使っています。ミヤリサンは下痢止めとして使用している整腸剤します。トルラミンは消化機能を助ける消化機能促進剤です。実際に効果があることは日々の飼育で実感しています。」 健康管理のプロフェッショナル
記者「岩﨑さんが自分の牛に点数をつけるなら何点ですか?」
岩﨑さん「75点ですね。健康状態が良いことが大きな理由です。牛たちはしっかり寝ていて、ストレスなく過ごしています。また、餌もよく食べているので、総じて健康だと感じています。健康管理に気を使い、適切な環境を提供することで、この点数を保っています。」 記者「牛たちの健康を保つために具体的にどのような工夫をされていますか?」 岩﨑さん「牛の相性を見て部屋を分けることにこだわっています。群れに入れたときに強弱ができるので、弱い牛同士を一緒にして、強い牛からのストレスを避けるようにしています。これにより、餌の取り合いや怪我のリスクを減らし、牛たちが安心して過ごせる環境を作っています。」 記者「75点を100点にするために改善したい点は何ですか?」 岩﨑さん「種付けの成功率を上げることです。受胎率を改善するために、発情の観察をもっと徹底し、必要に応じてホルモン注射などの対策を講じています。観察力を高めることが、種付けの成功率を上げる鍵だと考えています。」 記者「オススメのアイテムや道具があれば教えてください。」 岩﨑さん「監視カメラですね。導入前は夜中に何度も見回りをしていたのですが、カメラを設置してからはその必要がなくなりました。これにより従業員の負担が減り、効率よく牛の監視ができるようになりました。」 ご縁を育む
記者「目標にしている師匠や尊敬している方をご紹介ください。」
岩﨑さん「近所のETファームの田代さんです。田代さんは、情報量が多く、勉強熱心な先輩であり、血統の組み合わせや繁殖方法について具体的なアドバイスをいただいています。」 記者「具体的にはどのようなアドバイスをいただいているのですか?」 岩﨑さん「直近では、血統の組み合わせについて教えてもらいました。適切な掛け合わせをすることで、健康で優秀な牛を育てることができるんです。田代さんは次に流行りそうな血統やトレンドにも詳しく、そういった知識をシェアしてくれます。田代さんはとても気さくで話しやすい方で、この地域でもよく知られており、皆から信頼されています。彼と話していると、いつも新しい発見があり、勉強になります。」 記者「座右の銘は何ですか?」 岩﨑さん「『一期一会』ですね。人との繋がりを大切にすることで、多くの学びやチャンスが生まれます。これまでの経験でも、紹介された方との出会いが新しい道を開いてくれることが多かったです。例えば、繁殖農家さんから良い種牛を紹介してもらったことがあります。その結果、非常に優秀な牛が育ちました。また、畜産農家同士で情報交換することで、病気対策や飼育法について新しいアイデアを得ることができました。」 監視カメラ
監視カメラ導入前は、夜中の見回りが頻繁で従業員が疲弊していました。カメラ導入後は、遠隔で状況を確認できるようになり、見回りの負担が大幅に軽減されました。その結果、無駄な見回りが減少し、従業員の負担が軽減され、業務の効率が向上しました。さらに、異常が発生した際も迅速に対応できるようになり、安全性が向上しました。
Writer_T.Shimomuro
竹内牧場 竹内雄哉
熊本県 菊池郡 肥育牛:220頭、親牛:50頭、子牛:30頭 取材日:2024年5月13日
肥育から一貫農家への転向
記者「竹内さんの就農のきっかけを教えてください。」
竹内さん「就農のきっかけは、幼少期からずっと牛と一緒に過ごしていたことです。実は、小学校から高校までは逆に牛飼いにはなりたくないと思っていたんです。しかし、大学に進学した頃に、実家が牛を飼っていることもあって、家業を継がなければならないという気持ちが強くなりました。また、収入面でも安定しており、将来的に家庭を守ることができると考えて、就農を決意しました。」 記者「なるほど。肥育農家から一貫農家に変わられたと思いますが、一貫経営に取り組まれたきっかけは何でしょうか?」 竹内さん「一貫経営に取り組んだ理由の一つは、若かったこともありますが、その時期に繁殖牛の価格が非常に高かったことが大きな要因です。これはチャンスだと思い、思い切って繁殖にも手を出しました。繁殖牛を自分で育てることで、コストを抑えながら収益を上げられると考えました。」 記者「経営的な部分で将来の見通しも考えて、繁殖にも取り組まれたということですね?」 竹内さん「はい、そうです。繁殖と肥育の両方を手掛けることで、どんな状況になっても強みを持てると考えました。自分で育てた牛を肥育まで行うことで、経営の安定性を高められると思っています。これからの農業経営において、多角的に取り組むことが重要だと感じました。」 記者「確かに、最近では繁殖と肥育の両方を行う農家が増えていますね。」 竹内さん「そうですね。繁殖と肥育の両方を行うことで、技術的にも経営的にも自分の価値を高めることができます。それにより、経営の幅が広がり、安定した収入を得ることができます。これからもこのスタイルで頑張っていきたいと思います。」 竹内牧場の牛育て奮闘記
記者「自分の牛の状態に点数をつけるなら何点でしょうか?」
竹内さん「50点くらいでしょうか。理由としては、繁殖を始めたばかりなので、まだ経験が浅いです。周りからは若手と言われますが、それでも『いい牛だね』と言ってもらえることもあれば、まだまだだと感じることもあります。値段面でもまだ満足いく結果が出せていません。今の状態では、繁殖と肥育のどちらもまだ成長の余地が多いと感じているので、50点としました。」 記者「その50点を100点に近づけるためにどのようなことをしていきたいと考えていますか?」 竹内さん「まずは飼料の改良ですね。今使っている粗飼料と濃厚飼料の比率を見直し、与える量を調整していきたいと思います。具体的に言うなら、牛一頭一頭に対して適切な比率を考えることが大切です。牛によって食べる量が違いますので、それぞれに合った飼料を与えることで、健康な牛を育てたいと考えています。」 記者「購入飼料を使用されている理由は何ですか?」 竹内さん「家族経営なので時間がないというのが大きな理由です。自分たちの労働時間を考慮して、購入飼料を使うことで効率よく仕事ができるようにしています。原価は高くなりますが、その分、時間と労力を節約できるので、この方法を選んでいます。」 記者「おすすめのアイテムや道具があれば教えてください。」 竹内さん「牛舎ですね。特に肥育用と繁殖用で牛舎を分けることが重要です。繁殖牛舎では、作業効率を上げるために高さや幅に気を付けました。他の牧場を見学して、いいところを取り入れつつ、自分たちの環境に合った設計にしました。例えば、親と子牛が一緒にいると怪我するリスクがあるので、子牛だけが入れる扉を作ったりしています。」 逃げずに頑張る
記者「座右の銘は何ですか?また、それが大事だと思う理由を教えてください。」
竹内さん「座右の銘は『逃げずに頑張る』です。逃げるのは簡単だと思うんです。特に今の畜産業は不景気で、厳しい状況が続いています。でも、その状況にどう立ち向かうかが重要だと思っています。逃げずに頑張っていけば、後々きっと良いことが訪れると信じています。だからこそ、この言葉を大事にしているんです。」 記者「確かに、不景気の中で赤字になるリスクは昔に比べて高いですもんね。」 竹内さん「そうなんです。その中でどうやって黒字にしていくかが課題です。でも、諦めずに努力を続ければ、必ず結果はついてくると思っています。やめなければ、逃げなければ、道は開けると信じています。」 記者「最初は牛飼いをしようと思っていなかったのに、今こうして牛を飼っていることについてどう思いますか?」 竹内さん「いざやってみたら、やりがいがあると感じています。もう7年になりますが、もっと早くから継ぐために勉強していれば良かったなと思うこともあります。ただ、今はこの仕事に誇りを持っていますし、収益を上げるために努力することにやりがいを感じています。」 記者「畜産のやりがいとは、具体的にどんな点にありますか?」 竹内さん「やはり、良い成績が出たときです。自分が理想とする牛が育った時に非常に大きなやりがいを感じます。例えば、理想的な体型や健康状態の牛が育ち、その牛が市場で高評価を受けた時の達成感は何にも代えがたいものです。」 牛舎
竹内牧場の牛舎は作業効率を重視して設計されています。見学した牧場の良い点を取り入れつつ、環境にあった形で設計をしているそうです。親牛と子牛を分けるための扉を設置し、怪我のリスクを軽減しています。
Writer_T.Shimomuro
矢嶋牧場 矢嶋行
北海道 別海町 育成牛:30頭、親牛:90頭、子牛:30頭 取材日:2024年5月9日
心の足並み揃った全員飼育
記者「矢嶋さんの牧場でこだわっている飼育方法やポイントを教えていただけますか?」
矢嶋さん「うちは和牛の繁殖農家で、妊娠した牛は運動できる場所で分娩に備えて、足腰を強化してもらってます。後は特に子牛が生まれてからの3ヶ月間にこだわっています。生まれたばかりの子牛には必ず母親の乳を飲ませるようにしています。これはとても大切で、子牛が母親の乳房をしっかり確認してから飲むように、時間をかけて見守っています。なかなか飲まない子牛もいますが、そこはじっくりと手をかけて対処しています。」 記者「親の乳を飲ませることが重要だとよく言われますが、矢嶋さんが特に重視している点はありますか?」 矢嶋さん「和牛はホルスタインに比べて乳の量は少ないですが、その乳に含まれる栄養素や免疫グロブリンの量が豊富と言われています。この栄養素をしっかりと子牛に摂取させることで、発育状況が良くなり、病気にかかりにくくなると考えています。特に免疫グロブリンが重要で、これを摂取することで子牛の健康状態が大きく向上します。」 記者「他にもこだわりのポイントがあるとお伺いしましたが、教えてください。」 矢嶋さん「母親の乳を1週間から10日程度飲ませた後は人工飼育に切り替えますが、その際に使うミルクや量を個別に調整しています。全ての子牛に同じ量を与えるのではなく、それぞれの状態を見ながら、必要な量や栄養素を判断して与えています。このように個別対応することで、各子牛が最大のパフォーマンスを発揮できるように工夫しています。」 記者「1頭1頭の管理は大変だと思いますが、何人で作業されているんですか?」 矢嶋さん「私と妻の2人で主に作業を行っています。小学生の男の子が2人いますが、休みの日には手伝ってくれます。現在、繁殖用の親牛が約90頭、育成中の子牛が30頭、生まれてから3ヶ月までの子牛も約30頭います。合計で150頭ほどを2人で管理しているので、妻の負担も大きくかなり大変ですがチーム矢嶋家族で協力して頑張っています。」 壮健に挑戦
記者「自分の牛の状態に点数をつけるなら何点ですか?」
矢嶋さん「そうですね、技術はまだまだですが牛への点数は約90点だと思います。新規就農時に前のオーナーから引き継いだ母牛や育成牛を考慮すると、そのくらいの点数が妥当だと思います。元々日本の黒毛和種は改良が進んでおり、そもそものポテンシャルが高いと捉えているので後は人間が能力を最大限引き出すことが重要なのですがそこの技術はまだまだなので日々挑戦です。現在の牛たちは血統も良く、分娩事故もなく助かっています。」 記者「90点の理由として、どのような点が評価されているのですか?」 矢嶋さん「先程申した通り日本の黒毛和種は改良が進んでおり、元々のポテンシャルが非常に高いはずです。そのため、親牛の管理さえしっかりできればそこから生まれる子牛も血統や状態が非常に良いと捉えてします。また、今のところ早期対処で下痢や病気も少なく管理できていますので、この点数をつけています。」 記者「この90点を100点にするために、今後どのような取り組みを考えていますか?」 矢嶋さん「現在のマイナス10点は、哺育中の牛や育成牛の体重増加に関してです。60日前後で販売する牛、約10ヶ月未満で販売する牛の評価を向上させるため、DG(1日あたりの体重増加量)をもっと上げたいと考えています。具体的には、冬季の環境管理、ミルクの量や質、草の量や質を改善し、子牛の成長を最大限に促進する方法を模索しています。」 記者「体重を増やすために具体的にどのような取り組みをしていますか?」 矢嶋さん「まず、生まれてくる子牛が大きければ体重を増やしやすいのですが、母牛に負担がかかるため、お腹の中での過剰な大きさはこれ以上どうなのかなと思い、産まれ落ち状態からの改善にフォーカスしています。産まれて間もない子への環境管理やミルクの量、スターター飼料の質を見直し、ミルク卒業後の草の質や量を調整しています。特にルーメン(第一胃)の発達をしっかりと促すため、3か月までの間に適切な管理を心がけ思考しています。」 感謝の心
記者「北海道上春別で黒毛和牛の繁殖を行うことは珍しいと感じますが、これを取り組もうと思われた背景について教えてください。」
矢嶋さん「そうですね、私は5年前に畜産業界に転職し、約4年間クラウド上で台帳管理をしたり、牛に装着するセンサーデバイスを扱う会社で働いていました。そこで牛の発情や病気を検知するセンサーを北海道の農家さんなどに提供していました。その仕事を通じて初めて畜産業界に触れ、黒毛和牛の魅力を知りました。牛を繁殖させ販売することで生計を立てるビジネスモデルに強く惹かれ、自分も和牛の繁殖に挑戦したいと思うようになりました。前職で関わった農家さんが後継者不足や高齢化で悩んでいるのを見て、少しでも役に立てればという思いもありました。」 記者「そのような背景があったのですね。具体的にはどのようなステップを踏んで現在の状況に至ったのですか?」 矢嶋さん「最初は北海道全域で就農先を探していました。その中で地域おこし協力隊という制度を知り、北海道の道北地方の小平町で和牛の預託施設での仕事を始めました。当地域では農業と畜産の両立で営んでる方が多い素晴らしい地域でした。牛飼いとしての現場経験がなかった我々に親身になって接してくれる方ばかりで様々な事を教わりました。しかしあくまでも私の目標はというかワガママというか、和牛のみで生計を立てたい思いが強く、3年間の定住を前提にした制度でしたが、結果1年間で退任させて頂き他の地域での就農を模索しました。そんな中、現在の就農先となる上春別での農協や地元の方々の支援を受け、ようやく夢を実現することができました。」 記者「地域おこし協力隊としての経験もあったのですね。現在の農場での支援についてもう少し詳しく教えてください。」 矢嶋さん「上春別の農協や地元の方々には非常に感謝しています。新規就農するにあたって、資金計画や営農計画など、色々な面で支援を受けました。また、地域おこし協力隊として活動していた小平町の方々にも、和牛一本でやりたいという私の夢の背中を押して頂き、応援していただきました。関係各所様々な皆さんの支えがあってこそ、今の農場での活動が成り立っています。」 記者「最後に、座右の銘を教えていただけますか。」 矢嶋さん「私の座右の銘は『人間万事塞翁が馬』です。良い時も悪い時も、自分の進むべき道を見失わずにモチベーションを保つことが大切だという意味です。祖母から教わった言葉で、幼い頃から野球を通じてこの教えを心に刻んでいました。どんな状況でも前向きに取り組むことを忘れずに、牛の繁殖にも挑んでいます。」 哺乳ロボット
哺乳ロボットは、子牛が自分のペースでミルクを飲むことができるよう設計されています。これにより、子牛のストレスを軽減し、健康な成長を促進します。また、飼育者の労力を大幅に削減し、時間を有効に活用できるため、育成管理が効率化されます。ミルクの量やタイミングを自動で調整する機能もあり、子牛一頭一頭に最適なケアを提供します。
ミルクバケツ
手作りのミルクバケツは、市販の哺乳ボトルでは対応できないニーズに応えます。特にハッチ(子牛用ゲージ)に取り付ける部分が市販品にはないため、自作することでコストを抑えつつ、使い勝手を向上させています。また、ミルクバケツと哺乳ロボットの乳首の形状を統一することで、子牛がスムーズに飲み慣れることができ、切り替え時のストレスを軽減します。これにより、育成環境が整備され、子牛の成長に最適な条件を提供します。
Writer_T.Shimomuro
蜜山畜産 蜜山弘和
長崎県 平戸市 母牛:126頭、子牛:80頭 取材日:2024年4月27日
日々の努力が牛を救う
記者「蜜山さんの牧場ではどのようなこだわりがあるのでしょうか?」
蜜山さん「牛舎設備を常に清潔に保つことを最優先しています。掃除や清掃には特に気を付けており、これは初代であるおじいさんからの教えです。おじいさんは「同じ牛飼いが訪れるときに恥ずかしくないように」と常に言っていました。そうした教えを守ることで、日常の管理がしやすくなり、他の牛飼いが見ても誇れるような牛舎を維持しています。」 記者「牛の健康管理について教えてください。」 蜜山さん「就農当時は48頭の親牛からスタートし、現在は126頭の母牛を管理しています。新しい牛舎を建設した後、疾病のパターンが変わり、1頭1頭のカルテを作成するようになりました。このカルテには病気の発生状況や治療内容を記録しており、早期発見と迅速な治療が可能です。従業員も含め、誰でも管理記録を見やすい場所に置き、早期発見・治療に努めています。」 記者「従業員の役割分担はどうなっていますか?」 蜜山さん「疾病の発見と報告は従業員が行い、対処は私が一元的に管理しています。これにより、無駄な投薬を防ぎます。また、朝昼夜の3食の餌やりを部屋ごとに決められた量を与えることで、作業を標準化しました。夕方から夜にかけては、私が牛舎を見回り、餌の残り具合を確認しています。これにより、誰でもできる作業と専門的な管理をうまく分けています。」 リスク分散と品質向上計画
記者「蜜山さん、全体的な経営として牛の状態を点数で評価するとしたら、何点になりますか?」
蜜山さん「経営全体で考えるなら65点ですね。セリ市に出荷する子牛の増体が目標に達していないのが主な原因です。しかし、親牛の管理については、人工受精や繁殖障害の早期発見・治療を徹底しており、80点はつけられると思います。これにより、空胎期間を短縮し、健康な親牛を維持できています。」 記者「その65点を100点に向かわせるために、今後どのような改善策を考えていますか?」 蜜山さん「子牛の使用管理の改善に力を入れています。離乳のタイミングや餌の切り替えタイミングを試行錯誤しています。また、経営面においても安定した経営ができるような取り組みを行っていきたいと思います。」 記者「安定した経営という点でもう少し詳しく教えいただけますか?」 蜜山さん「最近では、海外からの牧草の品質に変動があるため、リスク分散の観点から複数の仕入れ先を持つようにしています。特に昨年の夏は品質の良い牧草が入手しにくく、食いが落ちたり疾病が増えたりしたため、仕入れ先を増やして品質の安定を図っています。最近はオーツヘイをメインに使用しており、チモシーに比べて品質が安定しています。」 感謝の気持ちを和牛に込めて
記者「蜜山さん、現在の師匠や目標としている方について教えていただけますか?」
蜜山さん「JA職員時代からお世話になっている前川常太郎さんと稲本侑紀さんです。彼らは競りに出す牛の品質や共進会での成績が素晴らしく、私の目標です。販売だけでなく、どれだけ良い牛を育てられるかという点でも、彼らの成績は尊敬に値します。私も彼らのような牛飼いになりたいと思っています。」 記者「そのお二人のどのような点を尊敬していますか?」 蜜山さん「彼らはただ結果を出すだけでなく、人間としても素晴らしいのです。何か問題があった時に頼りになる存在で、彼らのように頼れる人間になりたいと思います。」 記者「最後に、蜜山さんの座右の銘について教えてください。」 蜜山さん「「感謝」です。現在、約125頭の母牛を持って経営していますが、これは周りの従業員や家族、関係者の助けがあってこそです。彼らへの感謝を常に忘れず、日々の経営に励んでいます。また、牛たちにも感謝しています。私たちは牛に飼われている身であり、牛飼いとして生活を支えてもらっていることに感謝し、これからも感謝の気持ちを持って取り組んでいきたいと思います。」 子牛ゲージ
この子牛用ゲージは、くみあい飼料が提供する中国工業製の改良版で、雑菌の繁殖を抑える特殊なボードを内壁に使用しています。汚れが落ちやすく、簡単に水洗いが可能で、衛生的な環境を保つことができるそうです。また、冷気から子牛を守るためにネットともみ殻を床に敷いて暖かさを保持し、糞尿は専用のFRP加工箱で効率的に管理されており、子牛に最大限配慮したゲージです。
Writer_T.Shimomuro
北野畜産 北野伊知郎
長崎県 松浦市 親牛:60頭、子牛:44頭 取材日:2024年4月26日
生産性向上への挑戦
記者「北野さんの牧場で採用されている独自の技術について教えていただけますか?」
北野さん「私たちの牧場では、特に分娩間隔を最適化しています。分娩間隔を短縮することで年間の子牛の出荷数を増やし、生産性を向上させています。これを実現するために、「ファームノート」を利用して緻密に発情期を管理し、見逃しのないように徹底しています。また、当たり前のことですが育成期間中の体調管理も重視しており、病気の早期発見・治療に努めています。」 記者「牧場での観察点についてもう少し具体的に教えてください。日常的にどのようなサインを重視しているのですか?」 北野さん「健康管理においては、一般的によく言われるポイントである耳の状態や鼻水、咳といった明確な健康指標を日々チェックしています。特に、餌食いに変化がないかを観察することが重要です。これにより、牛が健康であるかどうかを評価し、必要に応じて迅速に対応します。」 記者「発情の観察についてはどのような方法で行っているのですか?」 北野さん「発情期には尻尾の付け根のしぐさや行動の変化に特に注意を払います。餌をやる前後での観察を徹底しており、発情が見逃されることなく、適切な時期に人工授精が行えるよう配慮しています。これが全体の生産効率を大きく左右します。」 記者「牧場での育成プロセスについて、特にキャトルセンターへの移送前の管理にどのような工夫を凝らしているか教えてください。」 北野さん「5ヶ月齢から出荷までの期間に、キャトルセンターへ移送するのですが、その前の牛の管理には特に力を入れています。健康状態や成長具合を精密に監視し、最適な状態でセンターに送るよう心がけています。体調が悪い個体は早期に特定し、集中的なケアを施すことで、全体の出荷量と品質の向上を図っています。」 餌カットで健康を切り開く!
記者「北野さん、牧場での牛の状態を点数化するとしたら、どのような評価になりますか?」
北野さん「現在の状態を75点と評価しています。一部の母牛の受胎率や子牛の健康状態に課題があるためです。受胎の成功率が低い一部の母牛の中には3回以上種をつける牛もいます。病気が発症した子牛の発見が遅れがちです。これらの点が主な減点要因ですが、改善に向けて取り組んでいます。」 記者「その75点を100点にするためには、どのような改善が必要だと考えていますか?」 北野さん「改善点としては、個体ごとの管理を強化することが最も重要です。特に、母牛には追加の栄養補給を行い、痩せの問題を解決したいですね。また、病気の早期発見と対応の速度を上げることで、全体の健康管理を向上させることが求められます。これらの取り組みを進めることで、総合的な評価を高めることができると考えています。」 記者「牧場で役立っているアイテムや道具について教えてください。」 北野さん「牧場で非常に役立っているのはベールカッターです。これは大型の餌のロールを適切なサイズにカットし、牛が食べやすくするための機械です。均等に餌を配分できるため、牛が健康に育ちやすくなります。牧草をカットしていないと大きな個体が横の牛のエサまで引っ張って食べてしまい痩せた牛を作ってしまう原因になってしまうのでこのカッティングは非常に重要です。手作業での餌分配よりも効率的で、餌のばらつきを減らすことができるため、全体的な牛の健康管理に寄与しています。」 未来へのステップ:師匠との出会いから学ぶ
記者「北野さん、あなたが師匠や目標にしている方について教えてください。」
北野さん「私が尊敬しているのは、農大卒業後に1年研修した肥前町の農家さんです。その方の熱心な取り組みには本当に感銘を受けました。」 記者「その方の具体的な取り組みで、特に学んだ点はありますか?」 北野さん「そこの牧場では牛が非常に大きく、また母体の選畜にも長けていて収益性の高い牛を見極めるところはいつも勉強になっています。また牛が清潔であり、餌を十分に食べることができるよう、非常にきれいな環境を維持されています。それに、牛舎の管理も徹底しており、常に牛の状態に手をかけることを怠らない姿勢もすごく刺激を受けています。」 記者「北野さんの座右の銘についても教えてください。」 北野さん「私の座右の銘は『今を大事に』です。現在の肉牛市場の厳しい状況の中ですが、今しかできないことというのはたくさんあると思っています。今できることを精一杯やって、後悔を残さないようにしていきたいです。今取り組んでいることとしては受精卵移植があります。育種価を見ながらより最適な種付けが実現できるよう受精卵移植を通して将来の牛舎の改善につなげたいと思っています。」 ベールカッター
ベールカッターは北野さんが一番重宝している機械です。
大きな餌のロールを牛が食べやすいサイズに切り分け、均一に餌を分配することが可能なため大きな牛が隣の餌を奪う心配もなく虚弱な牛を排出するリスクを低減させることができます。 手動での餌分配よりも効率的で、餌の不均等を減らし、牛の全体的な健康管理に貢献しているそうです
Writer_T.Shimomuro
岩本畜産 岩本拳太朗
熊本県 阿蘇郡 親牛:60頭、子牛:32頭 取材日:2024年4月22日
技術と手腕で繋ぐ、健康な牛の生命線
記者「牛の健康管理において、子牛の低血糖という問題がたまに起きるそうですが、この問題にどのように対応していますか?」
岩本さん「子牛が低血糖の状態で生まれ、ミルクを飲んでも血糖値が上がらないというケースがたまに起こるのですが、そういう障害が起きた場合は獣医の先生と密に協議しながら治療を進めています。耐糖障害というのですが肉質の向上や血統においても、耐糖障害で病弱な牛がいると、全体の品質に影響を及ぼす可能性があります。耐糖障害は牛には珍しいですが、起こることがありますので、その対策も重要です。」 記者「薬を扱う場合は獣医に任せるのが一般的かと思いますが、岩本さんからは獣医から貪欲に学ぶ姿勢を感じます。どのような意図をもってそのように知識を得ているのですか?」 岩本さん「私たちは獣医や受精師の方々から積極的に学ぶ意識は心がけています。治療が必要な症状だけでなく、様々な病気の背後にある原因や症状の理解を深めるためです。例えば、子牛が下痢をしている場合に、ただ下痢止めを与えるのではなく、その原因が何であるかを把握し、適切な治療を行うためです。これにより、病気の早期発見や正確な診断が可能になり、効果的な治療が行えます。」 記者「その知識を得ることで具体的にどのような利点があるのでしょうか?」 岩本さん「この知識は、日々の畜産管理において非常に役立っています。例えば、肺炎の初期症状を見逃さずに対処できるようになるなど、小さな変化にも敏感になれます。また、症状に応じた正確な薬の選択が可能になり、治療の成功率を高めることができます。このように、獣医から学ぶことで、より効果的に動物たちの健康管理を行うことが可能です。」 光を浴びて育つ
記者「岩本さん、自身の牛の状態に点数をつけるとしたら何点ですか?」
岩本さん「自分で言うのもなんですが、まだ完璧ではないですね。約65点といったところです。この点数にした理由としては、資金やスペースの制限から、必要な栄養の摂取や運動量が充分でないためです。特にビタミンの転換や母体の運動量不足が課題です。」 記者「その65点の評価を改善するために、具体的にどのような策を考えていますか?」 岩本さん「放牧施設の拡張や、より適切な飼料の管理を行うことが重要です。具体的には、日光浴を増やしビタミンDの活性化を図ること、そして広いスペースで運動をさせることが挙げられます。これにより、牛の骨格の健康と全体的な健康状態を向上させたいと考えています。」 記者「母体の維持に非常にこだわっていると伺いましたが、その重要性と具体的な管理方法について教えてください。」 岩本さん「母体の健康は、健康な子牛を産むための基盤です。過去に母体への過剰な餌やりが原因で問題が発生した経験から、餌の量と質を丁寧に調整しています。特に、餌の配分を個体ごとに最適化し、ミネラルや鉄分のバランスを取ることが大切です。これにより、健康な母体から元気な子牛が生まれるよう努めています。」 記者「岩本さんのオススメのアイテムや道具などはありますか?」 岩本さん「私たちの牧場ではアソードという鉄分に特化したA飼料を愛用しています。これも獣医の先生から教えていただいた商品なのですが餌に混ぜられることから強制的に必要な鉄分やミネラルが摂取できるところがメリットだと思っています。食べさせ始めて毛づやがよくなってきましたし、母体の活力を高めるために鉄分は必要不可欠な成分なので健康維持には最適な商品です。」 牛育て、人育て
記者「岩本さんが師匠や目標にしている方について教えてください。」
岩本さん「尊敬しているのは、私たちの牧場に来てくださる人工受精師の先生と獣医の先生ですね。特に人工受精師の先生は、牛の発情の確認や黄体の正確な判断ができ、必要な栄養やミネラルが足りていない場合に具体的なアドバイスをくれます。獣医の先生も、日常では見落としがちな健康状態の細かなチェックをしてくれるので、非常に信頼しています。実際に聴診器を使って肺の音を聞かせていただいたりして実践の場でしか経験できないことを体験させてくださいます。」 記者「そのお二人から学ぶことの重要性について、具体的なエピソードがあれば教えてください。」 岩本さん「これらの先生方は、教科書では学べない実際の現場の知識を教えてくれます。例えば、下痢症状の具体的な治療方法や、病気の初期段階での対応など、現場でしか学べない判断基準を提供してくれます。実際に彼らからのアドバイスに従って治療を行った結果、多くの問題を早期に解決できました。」 記者「岩本さんの座右の銘があれば教えてください。」 岩本さん「私の座右の銘は『学び』です。経験豊富な人からの学びは自分の成長に直結すると信じています。周りの獣医の先生や人工受精師の先生、他の農家の方々から得た知識を自分の知識として取り入れ、それを実践に活かすことが、私たちの牧場をより良くする鍵だと考えています。」 アソード
アソードは鉄分に特化したA飼料でミネラルを効率的に摂取できます。
獣医師からも推奨される健康維持用の飼料で、普段の餌に簡単に混ぜることができることから強制的に不足した鉄分やミネラルを摂取できることがメリットであると話していました。 毛並みの改善や母体の活力増強はもちろん、子牛から親牛まで全体的な健康維持に最適な飼料だと話していました。
Writer_Y.Eguchi
中村牧場 中村純平
熊本県 球磨郡 親牛:52頭、子牛:36頭 取材日:2024年4月3日
データと牧草で育む手法
記者「中村さんの農場では、どのような技術を用いて生産効率の向上を図っていますか?」
中村さん「私たちの牧場では、最先端のファームノートというアプリを導入し、データ管理を徹底しています。このおかげで受胎率の向上や生産サイクルの最適化を実現しました。具体的には、牛が出産後、迅速にスタンチョンへ移動させ、産後の管理を厳密に行っております。さらに、アプリによるデータ追跡で、産後60~70日で人工授精が可能な状態を、目で見て数値で把握できるようになりました。これらの技術革新により、年間の受胎率を上げ、生産頭数の増加に成功しています。」 記者「生産サイクルの改善によって、具体的にどのような成果がありましたか?」 中村さん「この技術の導入により、驚くべき成果を上げています。たとえば、アプリを使用することで、牛の状態をリアルタイムで確認でき、生産サイクルの効率化を図ることが可能になりました。さらに、過去最高と言える出生率を記録し、昨年は特に多くの子牛が生まれました。50頭の親牛から、46頭の子牛が生まれ、これは過去最高の成績です。これらの成果は、技術の力を借りて、緻密な管理と計画を行った結果です。」 記者「中村さんの農場では、飼料の管理にも特別な工夫があると聞きましたが、その内容を教えてください。」 中村さん「私たちは飼料の管理にも独自の工夫を凝らしています。特に注目したいのが、草の量です。一般的な農場よりも多めに草を与えており、その量は通常の105cmロールの約3分の2に相当します。朝夕の餌やりで30頭の牛に対してこれを一度に与えています。この豊富な飼料は牛たちの健康に非常に良い影響を与えており、質の高い牧草を刻まずに与えることで、親牛の健康維持にも寄与しています。一方、子牛には品質の高い一番草を刻んで提供し、栄養価の高い食事を確保しています。」 質高き牧草への追求
記者「自分の牛の状態に点数をつけるとしたら、どの程度ですか?」
中村さん「私たちの牧場では、現在の牛たちの状態を大体70点ぐらいと見ています。これは決して悪くはないですが、最高とも言えません。50頭の規模でこの点数をつけていますが、これはまだ改善の余地があるということ。60点、50点だと少し低すぎますし、70点ならば今後も牛を増やしていく上での目安になります。」 記者「70点という評価にした理由は何ですか?」 中村さん「この評価は、現在の生産性や牛たちの健康状態を踏まえたものです。3、4年前に質の悪い粗飼料を与えたことで親牛を失った経験もあり、良質な牧草の重要性を改めて認識しました。そのため、より良い牧草を確保し、継続的に良質な飼料を与えていることが、この70点の理由です。」 記者「100点を目指すためには、どのような取り組みが必要だと思いますか?」 中村さん「100点に近づけるためには、今後も良質な牧草を確保し続けることが最も重要です。質の高い粗飼料を与え続けることで、牛たちの健康を守り、生産性を向上させることができます。また、悪い牧草を与えると病気のリスクが高まるため、常に質に注意を払う必要があります。タイミングを見計らって最適な条件で牧草を収穫することを心がけ100点に近づけていきたいです。」 記者「おすすめのアイテムや道具はありますか?」 中村さん「はい、実は牧草を扱う際に、幅広ホークを活用しています。特に、床を変える作業で通常のスコップでは地面が固くて難しいところを、幅広ホークを使うことで簡単にできるようになりました。また、子牛の誤嚥防止には、マミーズマンマプラスという特殊な哺乳器具を使用しています。これは乳首のリーチを短くし、誤嚥のリスクを減らすことができるため、子牛の健康管理に非常に役立っています。」 見守り続ける心
記者「師匠や目標にしている方はいらっしゃいますか?」
中村さん「近所の池上さんという方がいます。彼の牛舎は非常に効率的に作られており、少ない労力で運営できるようになっています。池上さんの牛舎を見て、作業のやりやすさや、牛舎が綺麗であること、そしてもちろん成績の良さに感銘を受けました。彼のような効率的で先進的な牛舎運営を目指しています。」 記者「効率的な牛舎構造とは具体的にどのようなものですか?」 中村さん「効率的な牛舎構造とは、例えば機械を用いて糞尿を容易に取り除ける設計など、人の手を最小限に抑えて作業ができるようにすることです。池上さんの牛舎では、古い牛舎のように多くの手間がかからず、機械だけで効率的に管理できるようになっています。このような構造を見て、私も同様のシステムを取り入れることを考えています。」 記者「最後に、中村さんの座右の銘を教えてください。」 中村さん「私の座右の銘は「頻繁に観察」です。牛舎には監視カメラを取り付けており、スマホやパソコンからいつでも牛の様子を見ることができます。また、趣味であるゲームをプレイする際も、モニターの横で牛舎の様子を常にチェックしています。これにより、発情や分娩などの重要な瞬間を見逃さず、適切なタイミングで介入できるようにしています。この習慣が、私たちの牧場での成功には欠かせない要素です。」 マミーズマンマプラス
ドーム型の形状をしており、乳首のリーチを短くし、誤嚥のリスクを減らすことができます。
毎年年間1~2件ほど誤嚥で死んでしまう子牛がいましたがこれを使いだして誤嚥トラブルが減ったそうです。 子牛の健康管理に非常に役立っていると話していました。 幅広ホーク
堆肥を手出しで出す際にスコップでは刺さらないような場所でもこのホークがあればサクッと刺さって作業が楽になるそうです。
ネットで5,500円ほどで買えるそうです。
Writer_Y.Eguchi
|